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SnipeShot・Eagle《スナイプショット・イーグル》  作者: 檻鷹 鼓路
第一章 アイドル護衛
14/26

~裏切り者はすぐそこにいる~

痛む足を引きずって豆島の元へと走る。

衝撃が傷に響き、出血が増える。ドバドバと傷口から流れる血液が体育館内に血の線を描く。

「大丈夫かァ?このナイフには毒が仕込んである、しばらくしたら体が動かなくなるぜェ?」

傷を手で押さえながら、柳父やぎゅうを睨み付ける。

「ど、毒っ・・・・・・・・・!アンタ、何してるかわかってるの!?」

「ああ分かってる、拉致監禁ってヤツだ。いや、別に監禁はしてないか。出ようと思えばそこらじゅうから外に出れるしなァ」

壁を見ると、南京錠が外された、外に繋がる大きな扉があった。

この扉の配置に見覚えは無い。倉島女子高校の体育館ではなさそうだ。もしかすると、近くの競技用体育館かもしれない。

「遥ッ、怪我は、怪我は大丈夫なのかっ!?」

「毒が入ってるって言ってた。多分、大丈夫じゃない」

パニックになる豆島を隣に、柳父を視界の中心に捉え続ける。何か怪しい行動をしても、すぐに対処出来るように、警戒しているのだ。

「まぁ、そんなに警戒すんなよ。落ち着いてお話でもしようや。その為にここに呼び出したんだからなァ」

そういって、柳父は壁際に設置されている体育館の制御パネルを操作、体育館のライトが光り、広いホールを照らす。柳父の姿が鮮明に映る。

「アンタ、その血は誰の?」

柳父の服には、おびただしい量の血液が付着していた。

血液は左半身全体に付着しており、柳父の狂気を伝えるのには十分すぎる素材だ。

「アァ?これは俺の血だ。自分で切ったんだよ、横っ腹をズバッてなァ!」

キヒヒ、と、気味の悪い笑い声を上げ、手に持っていた大振りのサバイバルナイフをこちらに向ける。

「さっきはこの血で騙されたんだぜ、お前はよォ。ヘヘッ、マネージャーをき使ってるんだ。その便利なマネージャー様が血を流してたらそりゃあ悲しむよなァ!」

「アンタ、好き勝手な事言ってんじゃないわよッ!!確かに、豆島には無茶な事を言ってきたかもしれない。いや、言っていたわ。でも、それでも、豆島は付いて来てくれた。アタシの誇りの一つなの!それを、アンタは馬鹿にしたッ!」

許せなかった。豆島は、血が繋がっていない、赤の他人だ。それでも、子役時代の私を今までずっと支えてくれていたのだ。その豆島を馬鹿にする柳父が許せなかった。

「アンタは、絶対に許さない!!」

柳父に近づきながら、握り拳を振り抜く。

が、拳は空を切り、バランスを保てなくなり倒れる。

「な、に・・・・・・っ。身体が動かないッ!」

「遥ッ!!」

駆け寄ってきた豆島に支えてもらいながら立ち上がる。

手から足までの感覚が無く、自分が今立っている事すら感じる事が出来ない。

「毒が回ってきたようだな。ヒヒッ、アヒャヒャッ!無様だぜ、なァ!!」

「うぐっ!?」

「ま、豆島ッ!!」

助走を乗せた蹴りをまともに食らった豆島が吹っ飛ぶ。それを追うように豆島の元へ柳父が向かう。

アタシもすぐに豆島の元へ行こうとするが、身体がピクリとも動かない。

「ま、め・・・・・・・しま・・・・・・・」

徐々に顔まで麻痺してきた。普通に喋る事が出来ない。

豆島の名を何度も叫ぶが、それが声となって届く事は無い。

「まぁ、いいか。お前が先でも」

覇気の無い声で豆島の胸倉を掴み無理矢理起こさせる柳父。その手には、大振りのサバイバルナイフ。

「や、め・・・・・・・・・」

「な、何をするつもりだッ!?」

口元から血を流しながらも、柳父に向かって怒声を飛ばす豆島。

豆島に足払いをし、マウントポジションを奪う柳父。アタシは、それを黙って見ている事しか出来ない。

「わかってんだろ?マネージャーさん。貴方には、贄となって頂くのですよ」

運転手の時の、天使の様な笑みと敬語で豆島の首元へナイフを突きつける。

「な、やめ――――――――――」

それが、豆島が発した最後の言葉になった。

横薙ぎに振ったナイフが血の尾を引いて赤く光る。

豆島の喉元を引き裂いたのだ。柳父の持っているナイフで。殺されたのだ、豆島は。

その事実を知るまでに、時間は必要無かった。

だって、目の前で殺されたのだから。

「あ、――――――――――あ――――――――ッ!」

涙が溢れるが、声を発する事が出来ない。

何故、豆島が死ななければならないのか。

何故、アタシは誘拐されなきゃならなかったのか。

何故――――――アタシは、ここまで、不幸なのか。

「何でマネージャーが殺されなきゃならないのかって顔してんな。いいぜ、教えてやる」

そう言いながらナイフを投げ捨て、腰から指抜きされたグローブを左手に付ける。

その手で豆島の体を掴み上げ、

「お前の覚醒に必要不可欠なんだよ。こいつはァア!!」

柳父が叫ぶ。その叫びに応えるように豆島の体が燃える。

「――――――――――ッ!」

「いいか、お前は能力者、〝キネシス〟って呼ばれる、特異者だ。その力は強大、豆島もキネシスだったし、邪魔だからな。しかも、お前との仲も良いだろう。贄にはもってこいの素材だと思わねえか?」

何を、言っているのだろうか。

キネシス?特異者?贄?

「いいか、特異者が能力を発現させるには贄が必要だ。お前の場合は一番近くにいた者の〝死〟が能力発現のトリガーだったが、どうだ。何か自分に変化は感じられるか?」

変化、と言われても、何も感じない。

でも、全身を覆う怒気、殺意が鋭くなっていく感覚が頭にはある。

「ヒヒッ、憎いか。俺が、この柳父重晴朗がよォオ!!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

全身が何かに包まれる。

急に身体が軽くなり、無意識に身体が宙に浮く。

目の前の、男を、殺したくて、堪らないッ―――――――!!!

「そうだ、これだ!!これが、俺の求めていた能力、〝無差別浮遊の権限(ダイナモ)〟だァア!!」

アタシの殺気でドス黒く濁った瞳を、狂気で狂った瞳で見つめる柳父。

その間で、激しい閃光が体育館を更に明るく照らした。





「な、なんだ!?」

学校に着いた俺達は校舎内を探していた。

そんな中、窓から外を見渡していた時に体育館から通常では有り得ない程の光りが漏れていた。

まるで、中で閃光手榴弾フラッシュグレネード複数のピンを一斉に抜いたかのように。

「俺は体育館に行ってくるから、お前らは校舎内を探してくれ!」

「見つけたらすぐに連絡を寄越しなさい!」

吹雪に合図を送り、階段を降りて外に出る。

「クソッ、大規模音波送受信エネイブルが使えれば良かったんだけどな・・・・・・!」

二つ目のリミッター、エネイブルは発動条件が二つある。

一つ、発動する日、サード、三番目のリミッターを事前に解除しておく事。

二つ、一日に一度しか発動出来ない。

ファースト(ライトニング)セカンド(エネイブル)には発動条件、発動後の代償がある。無闇に使いまくっていたらその内死ぬ。そういう危険があるんだ。

体育館の正面に着いた俺は、錆び付いた体育館の扉を力任せに開ける。

「な、なんだ、これ」

照明で照らされた体育館のホールの真ん中には、夥しい量の血が水溜りのように広がっている。

そして、その左右には、

「――――――――――霧崎?それに、柳父さん?」

二人が、戦っていた。

全身が震えてきた。目の前の光景が現実離れしすぎている。

だって、霧崎が空中に浮き、体育館の壁を砕き、瓦礫を何かしらの力で柳生さん目掛けて銃弾顔負けの速度で飛ばしている。それに応戦するかのように柳父さんは巨大な炎の塊を霧崎に向けて放ち続けている。

俺は震える手を無理矢理腰に伸ばし、スプリングフィールドXDを抜いて天井目掛けて威嚇射撃する。

「ッ!?」

その音に反応した二人が俺目掛けて瓦礫と炎を飛ばしてくる。

「鷹の目発動、リミット・ファースト‐ライトニングッ!!」

それらを防ぐ為、紫電を纏う。

「ハッ――――――――!」

全身から衝撃波に似た勢いで紫電を開放、瓦礫を砕き、炎を消し去る。

「―――――――――?」

霧崎が生気の無い瞳で俺を見つめ、首を傾げている。

「キヒッ、まさかテメェも特異者キネシスだったとは!同じくして覚醒したのかァ!!」

「柳父さん、これは貴方の仕業なんですかッ!?」

「見て解んねえのかァ!?どうみてもそうだろうがァ!!ヒャッハァァアアアッッ!!」

奇声を発しながら次々と炎を飛ばしてくる。それを紫電を纏った腕で振り払う。

「ほお、中々上手く扱ってるんだな。前々から覚醒していたとかか?」

顔を歪め、狂気が滲んだわらい声を体育館内に響かせる。

それに反応して霧崎が瓦礫を柳父さんに向けて放つ。

「オイ、人が喋ってる最中だろうがァッ!!」

怒声と共に炎を生成、同じサイズの炎を瓦礫にぶつける。

一瞬で瓦礫が塵になり、空気に混じって窓から外へ流れていく。

「礼儀も知らねえのかよ、テメエはよォオ!!」

連続で炎を生成し、霧崎目掛けて投げつける。

「ッ!やめろぉぉぉおおお!!!」

叫びと同時にタキオン(神経加速)を思念コマンド入力で発動、炎の着弾予測ポイント、威力を目視で読み取り、危険性を瞬時に察知し、霧崎の元へ走る。

が、霧崎は避ける事無く、炎を消し去った。

「な、なんだ?」

「ほぉ、物質との相殺もできるほどになったか。飲み込みが早い奴だぜ。キヒッ」

「能力ってなんだ?アイツに、何があったんだよ!?」

俺を一瞥し、

「今さっき覚醒したばっかだし、制御できてねえが―――――――これで兵器は完成だ。ヒヒッ」

ボソボソと気味の悪い笑みを浮かべる柳父。

「・・・・・・・・・テメェ、霧崎に何しやがった」

「兵器製造―――――っつったら許してくれんのか?ボディガード様よォ」

「俺は、霧崎に何をしたかを聞いてるんだ。質問に答えろよ」

「ヒヒッ、いいぜ、教えてやるよ」

そう言ってステージに上がり、座り込む。

「いいか、特異者、キネシスってのは、突発的に能力を発現させた者の事を指す。テメェの場合は少し違う。能力はあるが、機械に頼ってる。そういうやつの事を機械的特異者(メカニックキネシスト)って呼ぶ」

そう言いながら柳父は腰から銃を抜き、霧崎へ発砲する。

が、霧崎は視点を合わせずに銃弾を停止させ、重力に従ってカランと音を立てて落とす。

「こんな風に、力が強大だと発動する時に自制心を失って周り関係なしに暴れちまう。こいつの場合は力だけが暴れているだけで身体は全く動こうとしねえがな。ま、動けないだけだろうがな」

柳父の言う通り、さっきから霧崎は宙に浮かんでいるだけで、動こうとはしない。

指をピクピクさせているが、まともに動かせていない。

「・・・・・・・・・毒か」

「当たりだ。足を切ったから、ああして浮かんでるだけでもキッついと思うぜェ?」

よく見ると足を伝って血が床にポタポタと垂れている。

ふとももには深い傷があり、片足が真っ赤に染まっている。

「―――――――――――ッ!?」

俺は、その横に視線をずらし、絶句する。

「ま、豆島、さん?」

「ああ、ソイツのマネージャーだ。俺がやった」

「―――――――――――ッ!」

腰のスプリングフィールドXDを引き抜き、コッキングを素早く済ませ、柳父向けて発砲する。

それを難なく避けた柳父はわざとらしく肩をすくませる。

「っと、アブねえな」

「テメェ、豆島さんに何してやがるッ!?」

怒りに任せてXDのトリガーを引き、接近する。

狂気の塊、柳父へと。

「ヒヒッ、開幕だぜエエ!!!ヒャッハァァァアアアアアアッッ!!」

ステージから飛び降り、炎を片手に生成しながら拳銃で発砲してくる。

俺はイーグル・アイ基本機能、軌道ラインを発動、柳父の拳銃から放たれる銃弾の通り道を避けるように走る。避けきれないと判断した銃弾はライトニング(紫電)を形態変化させてむちのようにしならせ、弾く。

「ハッ、こりゃあやり甲斐のある殺し合いだぜエエ!!」

炎を纏った拳を放つ柳父の頭を狙ってXDのトリガーを引く。

が、それを読んでいたかのように腰を反らせて避ける。

更に一発、二発と銃弾を撃ち込むが、全て避けられる。

「クソッタレ!」

俺は拳銃での攻撃を諦め、近接格闘戦に持ち込む。

「アホが、死にに来やがったぜッ!!」

それを待っていたかのように走り出し、拳を放つ。

それを紙一重でかわし、紫電を纏った脚で蹴りを叩き込む。

「――――――――ッ!」

腹に直撃し、顔をしかめる柳父の頬に裏拳を放つ。

が、カスる程度にしか当てられず、ガラ空きになった俺のボディに拳がめり込む。

「グッ―――――――」

衝撃が波紋の様に全身へ伝わり、吹き飛ぶ。

すぐに立ち上がり、距離を取る。

「テメェ、中々やるようだが、何かやってんのか?」

「部長さんに喧嘩の仕方を教えてもらってる。結構腕に自信あるぜ」

「喧嘩ァ?ハッ、おもしれえ。そんなんで俺に突っ込んでくんのかよ、お前」

「物足りないんだったら、こういうのもくれてやるぜ?」

ポケットから吹雪様御用達のM4‐HUBUKI‐customモデル、待機状態(スタンバイモード)を取り出し、起動トリガーを引き、戦闘状態(アタックモード)へ変形を済ませ全弾発射(フルオート)する。

「おっとォ!!」

柳父は手の平を前に出し、炎を盾のようにかたどる。

その炎の熱量は凄まじく、一瞬で銃弾が溶ける。

「マジかよ―――――――――ッ!」

M4を待機状態に戻し、XDで威嚇射撃する。

生温なまぬるい攻撃ばっかしやがって、つまらない奴だなァ!!」

炎を振り払い、巨大化させる。

火球に姿を変えた炎を俺目掛けて放つ。

「ちょ――――――――ヤベェッ!!」

すぐ横に飛び、ギリギリの所で炎を避けきる。

突如、爆発音と共に熱気が外へ逃げていく。

後ろを見ると、壁をぶち破って大きな穴が出来ていた。

「へぇ、避けたか」

炎の玉をいくつも作り、お手玉をする柳父。

その舐めきった態度に腹が立ってくる。

「だったら、こっちもやってやるよッ」

走り出し、拳を引く。

『ライトニング出力制御、開放』

右腕に稲妻が走り、爆発する。

「オラァッ!!!」

高速を超えて音速で放たれた拳は、空気を破裂させたような音と同時に柳父の腕へと当たる。

「ッ―――――――――!」

ゴキッと鈍い音が聞こえた。左腕が折れたんだろう。

この技を以降『スタンガン』と呼ぼう。

左腕を右手で押さえながら後ろに下がる柳父に追撃する為に走る。

「逃がすかよッ」

腕を弓の弦の様に強く引き、放つ。

が、それは柳父に当たる事は無かった。

「ッ!?」

右から飛んできた瓦礫に邪魔されたのだ。

「クソッ―――――――」

瓦礫に拳を当て、砕く。

「なにしやがるッ!?」

瓦礫を飛ばしてきた張本人、霧崎を見る。

「――――――――――オ、オ」

「――――――霧崎?」

生気の無い瞳で俺を見つめる霧崎は、指を差しながら、ボソッと言う。

「オ、オニイ、チャン?」

「――――――――――」

首を傾げながらそんな事を言った。

その言葉が妙に頭に響く。

オニイチャン、おにいちゃん、お兄ちゃん―――――――。

頭の中で何度も反芻はんすうする。それと同時に、ハンマーで叩かれたような強い痛みが頭を襲った。

「ッ――――――!」

手で頭を押さえ、霧崎の元へ駆け出す。

「―――――――ッ!アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

悲鳴に近い声を上げ、霧崎が倒れ込む。

ビチャッ、と、足元に溜まっていた血へと落ちる。

「き、霧崎ッ――――――!」

血だらけの霧崎を抱え、肩を揺らす。

「悪ィが、ここは引かせてもらうぜ。でも、これで終わりじゃねェからな。覚えてろ」

大穴から外へ逃げ出した柳父を追いかける事も出来ずに、俺はその場で霧崎を背負い、外に出る。

既に柳父の姿は無い。逃げ足の早いヤツだ。

「吹雪、霧崎を見つけた。帰るぞ」

そう短く伝え、俺達は霧崎のマンションへと帰った。


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