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SnipeShot・Eagle《スナイプショット・イーグル》  作者: 檻鷹 鼓路
第一章 アイドル護衛
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~俺と彼女の壁は、儚く散る~

「んふふふふふー、勝っちゃいました・・・・・・」

ユカがガッツポーズで清々しい笑顔を向けてくる。

それに反して、吹雪達は膝を付いて汗をダラダラと床に垂らしている。

「そんな、嘘でしょ?弓道部のこのアタシが・・・・・・・・・」

「よりによってこの乳女に・・・・・・ッ」

「悔しい・・・・・・」

まぁ、俺としてはユカが勝ってくれて非常に嬉しい。この弓道勝負。

理由は簡単、ハードな事を要求してこないからだ。

吹雪は「アンタ喧嘩凸掛けてきなさいよ、あそこの不良十人組に」

佑寧は「PCの動きが遅くなってきた・・・・・・孝浩、分かってるな?PC一台買ってこい」

なにこいつら、俺をただの道具としか思ってないの?酷いわぁ・・・・・・。

勿論全部やりましたよ。不良にフルボッコにされたし、新型PCも買ってきた。もう俺のプライドと財布はスッカラカンだ。

それに比べてユカは「すいません、そこの消しゴム取ってもらえますか?」とか、そんな感じの事しか言わない。育ちの良さだろうか、二人とは全然気品とかが違う。まぁ、必要性あるのかどうかが疑問だが。

それともう一つ、霧崎だ。こいつは論外。これも理由に大した説明は必要ない。

何故か、横暴だから。

今日で何回自販機に走らされたことか。おかげで足がパンパンに腫れてやがるぜ。

授業中に先生が後ろ向いた瞬間ジュースなんて飲みやがるし。こいつ相当のワルですぜ。

「じゃあ、孝浩君。私からのお願いを聞いてくれますか?」

「まぁ、そういう条件での勝負だったしな」

俺の意見も聞かずに勝手に決めた事だけどな。

「では・・・・・・コホン。このお仕事が終わったら、一緒にお茶しに出掛けましょう」

「「「ッ!?」」」

「ああ、そんなことか。いいぞ」

「「「ッ!?」」」」

「仲良いなお前らッ!?」

なんでそこまで動きが合うんだよ。驚きだよ。

ユカなんて、三人の息ピッタリの首の動きを見て苦笑いだ。いつもなら苦笑いでスルーするユカが、あのユカが全力で引いている。それもそうか、修羅の面を被ったような顔しながら同時に動くんだぜ?

「そ、それってデデデ、デートって事じゃないっ!?」

「部長も連れて行きなさい。命令よ」

「副部長もだ。いつ孝浩が淫行を犯すかわからんからな。その胸鬼きょうきに惑わされぬよう、私が孝浩を守る」

「同じく、部員同士の子供なんか見たくないしね」

「そうよ!あんたら、クライアントに自分たちの子供見せたい訳っ!?リア充ぶんな!!」

「あ、いや、私はそんな―――――――」

ユカがパニクってあたふたしている。

その際、ユカの揺れる胸を見た佑寧の目が険しくなる。

「そうか、その薄汚い胸で孝浩のを・・・・・・・・・・」

「な、何を想像しているんですか!?」

もう、いいや。

口論で騒ぐ女子四人組を放置し、弓道場を出た。

もう、何言ってんのかわからないし、ついて行けない。





弓道場を出たとしても、霧崎から離れる事はあまりしたくないので、弓道場入口でジュース片手で壁にもたれていた。

道場前の自販機で買ったカフェオレを喉に流す。ほろ苦さが口の中に残る。

眩しすぎる太陽の光から逃げるように、日陰で休む。

「暇、だ・・・・・・・・・」

一人でいる時間が無価値に思えていたのは、いつだっただろうか。

佑寧に出会い、吹雪に出会い、ユカに出会い、霧島に会った。

これが、日常なのだろうか。

いや、違う。

霧島はクライアントで、俺達はボディガード。ずっと霧島の側に居れる訳じゃない。

そう考えると、案外寂しいものだ。

あって二日目だっていうのに、ここまで思ってしまっている。

でも、何処か壁を感じる。それは、就いている職の違いだろうか。

俺達は学生でありながら国家公務員以上の権力を持つ。

そして、彼女は芸能界の花、アイドルだ。立場がまるで違う。

「クソッ・・・・・・・・・」

いつもこうだ。

自分と相手には壁があると考え、その壁の正体を探ろうとする。

吹雪も佑寧も、ユカに対してもそう。どこか壁を感じる。

その壁の正体を、必死で探している。

その壁を探して、どうなるというのだろうか。なにが変わるのだろうか。

そんな自分に、苛立ちを覚えた。

「ちょっと、アンタいつの間に外に出たのよっ!?」

制服に着替えて道場から出てきた霧崎が怒鳴って来る。

「お前らがぺちゃくちゃ喋ってる最中にだよ」

極力笑顔で答える。苦笑いになっているように思えるが。

「というか、なんであんなに全力で勝負してんだよ」

そこが気になった。景品が俺だからなのか。

また面倒な事を言いたいのか、そんな事を想像していた。

が、返って来た返事は全く違った。

「え、えっと、その、アンタと一緒に居たくて・・・・・・」

「・・・・・・・・・えっ?」

何を言い始めたかと思いきや、俺と一緒に居たいと?

「お前、どうしたんだ?熱でもあんのか?」

「な、ないわよ。あの、その、アタシの寝た時の事、覚えてる?」

「あ、ああ・・・・・・」

覚えている。あんな事があって忘れましたなんて言える奴はいない。

ライトノベルの鈍感主人公でもそれはないぞ。ありえない。

「あの時、お前を守るって言ってくれて、すごい嬉しかったの。なんていうか、キュンってした」

「お、おう」

面と向かって言われると恥ずかしい物がある。

顔が熱くなってきた。きっとこれは太陽に日差しのせいだろう。間違いない。

「だから、その、一緒にいたくなっちゃって、アンタと」

「へ、へぇ~」

なんだろう、すごい嬉しいんだが。

こんな事が日常茶飯事のギャルゲー、エロゲー主人公の皆様、僕もついに仲間入りです。

「だから、全力で勝負したの。おかしい?」

いつもとは正反対、しおらしい態度に驚きを隠せない。

そんな上目遣いで俺を見ないで、なんかに目覚めちゃう。

「おかしくは、ない。うん、おかしくない」

「ふふっ、何それ」

な、なんだこいつは。おかしくなっちまったのか?

どんな仕草でも、可愛く見えてくる。これは――――――――――

「俺の目、腐ってんのかな」

「ええっ!?」

「だって、おかしいだろ。お前が半端なく可愛く見えるんだ。腐ってるとしか言い様がない」

「えへへ、嬉しいな―――――って、なんで目が腐ってないとアタシが可愛く見えないのよ!!」

「だってよ、いつものお前と全然違うんだぞ?いつもなら「おいジュース買ってこい十秒でな」とか言ってるお前が「一緒にいたくなっちゃって、アンタと」なんて言うか?」

「ちょ、真似しないでよっ!というか、十秒でジュースなんて買わせないわよ!ちゃんと待つ!!」

それでもジュースは買わせるんですねわかります。

「あ、電話だ。ちょっと待っててね―――――――はい」

スマホを取り出して通話を開始する。誰からだろうか。

「・・・・・・うん、わかった。待ってて」

すぐに通話は終わった。

「誰からだ?」

「マネージャーよ。一度会ったでしょ?」

ああ、豆島まめしまさんか。名前が珍しいので覚えていた。豆の島。だめだ、豆の島で覚えそう。

「ああ、豆の島さんな」

「豆島ね、豆島」

早速間違えた。これどうにか直せないですかね、顔面に縫い目のある白黒頭のお医者さん。

「で、電話の内容は?」

「ちょっと会って話がしたいらしい。アンタはここで待ってて。多分仕事の話だろうし、アンタに聞かれたくない」

そういうと走って校門まで行ってしまった。

すると、すぐにメールが来た。

スマホを見ると、霧崎からだ。

「・・・・・・俺、アドレス教えたっけ?」

不思議に思いながらもメールを開く。


『帰り遅れると思うから、待っててね。今日はちゃんとご飯食べさせてあげる。みんなで食べましょ?』


なんとも女子力溢れる文章だった。こういうのって恋人同士でやるものじゃないか?中々可愛い所があるんだな、アイツ。

俺は言われた通り、道場の前で待った。


――――――――――、三十分。


――――――――――、一時間。


霧崎は、道場の前に戻ってくる事は無かった。

俺はまだ気付かない。さっき見た霧崎の笑顔が、


最後の笑顔だと言う事に。

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