~弓道勝負(景品は俺)~
「お前、流石にあれは引くぞ」
「ええ、キャラ崩壊凄かったです」
佑寧とユカが吹雪を囲んで言葉を浴びせる。
学校は遅刻、でも、ボディガードを雇っている身という事で許しを貰った。
そして、今は昼食の時間。食堂で集まって食事を取っている。
「なんで小さな部屋の中で銃を撃つんだ。確かに、孝浩と一緒に寝てたのは許せん。私も奴の首を飛ばしてやろうかと思った。だが、場所が間違っている。ちゃんと夜道を出歩いている所を襲撃しろ」
それはおかしいと思う。
「そうですっ!。私が孝浩君の隣で寝てたのに、気付けばあの女に取られてるんですよ!?許せません、もうファンやめますっ」
いや別に、俺はお前らのでもなんでもないから。俺は俺だから。
「そ、そうね。今度は銃を撃たず、近接格闘で・・・・・・」
いやだから、そういう問題じゃないだろ?
しかし、口に出すと凄い冷たい目で三人から睨まれるので何も言えない。
さっきだって誤解を解こうとした瞬間ユカに張り倒されたし、佑寧にはスタンガンでビリビリされた。
吹雪に限っては発砲しながら追い回してきやがった。恐ろしすぎる。当たらなかった事を幸運と思わなければ。じゃなきゃ今頃背中に穴が空いてる。
「で、でも、元はといえばアンタが悪いのよ?クライアントと寝たりするから」
「それは悪いと思ってるけど、仕方なかったんだよ・・・・・・」
霧崎からそう頼まれたという事を包み隠さず話す。隠し事なんてしたら額に穴が空く。で、スタンガンと柔道の技のオンパレードだ。想像するまでもなく地獄絵図だというのが解かる。
「その、ごめんなさい。孝浩はアタシのわがままを聞いてくれただけなの」
「「「孝浩ォ?」」」
な、なんだ、その肉食獣みたいな眼光は。こっちみんな。
「部屋に居た時は時間が無かったし聞けなかったけど、アンタ、何時孝浩の事を名前で聞くようになったの?」
「昨日の・・・・・・あ、日にちは変わってたから、今日。今日の三時半位?」
「三時半、深夜、ベットの中の男と女・・・・・・これは―――――――」
佑寧が吹雪とユカに目配せをし、
「黒だな」
「黒ね」
「黒ですね」
「え、えええっ!?」
霧崎が声を上げる。俺は上げそうになったが、留まった。声を出すと死ぬからだ。人間だれだって命は惜しいだろ?
「なんで?なんで黒なのっ!?」
「うるさい、質問に答えろ!お前は孝浩に何回股を開いた?何ラウンドファイトしたッ?何回孝浩をイカせたァ!?」
「ちょ、ちょっと、ここ食堂――――――」
「私も気になります!孝浩君と貴方の子供はお腹に宿っているんですか!?」
「何言ってんの!?」
「私も言わせてもらうわ。―――――――名前、決めちゃったのッ!?」
「お前らちょっとストップ!。ストップストォォオオオオオップッ!!」
手を間に突っ込んで会話を中断させる。
肉食獣の眼光を向けられるがこの際気にしない。
「お前ら、色々勘違いしてるぞ。俺達はただ一緒に寝ただけで―――――」
「「「子供が出来たの!?」」」
「一緒に寝ただけで子供が出来るかっ!!」
なにしたら子供が出来るんだよ。いや、子供の作り方は知ってるけども。
霧島がプルプル震えている。これは、怒りだ。
「あ、アンタ達・・・・・・ッ」
おお、爆発するぞ。耳塞いでおこう。
そして、怒りが爆発した。テーブルをバンッ!と叩き、叫ぶ。
「まだ、アタシは処女よッ!!!」
食堂が、一気に静まり返る。今、こいつなんて?
「そ、そうだったか。すまん」
「い、言い過ぎました。ごめんなさい」
「なんだ、処女だったの・・・・・・横取りされたかと思ったわ」
・・・・・・いいのか、お前らそれでいいのかッ!他に言う事色々あるだろ!
「なぁ、ここ食堂だから。処女とかでっかい声で言うの、やめよ?」
苦笑いで伝えると、四人がハッと表情を固まらせ、周りを見る。
それはそれは冷たい視線を頂いております。
食堂に居た生徒全員が俺達に体を向けており、非難の視線を浴びせる。
この空気から抜け出したい。そう考えているのは俺だけじゃないはず。
「・・・・・・行きましょうか」
吹雪が立ち上がり、背中に視線を浴びながら食堂から出て行く。
あいつ、今の空気でよく出ていけたな。
背中に視線が集まりすぎて歴戦の勇者みたいになってんぞ。
「アタシ達も行きましょうか。部活の時間だし」
そう言って、霧崎も立ち上がり、吹雪に付いていく形で食堂を出る。
これで、霧崎も勇者の仲間入り、か。
寂しいものだな。俺の周りの奴らがどんどんと勇者になっていく。
見てみろよ。佑寧もユカも、後に続いて食堂を出て行くぞ。
俺も、勇者になれと?馬鹿野郎、なれる訳ないだろ。この死んだ空気の中を歩けと?大馬鹿野郎。
それは、自殺に近い。というか、自殺だ。
なんで、俺が非難されなきゃならんのだ・・・・・・!
周りの生徒(女)がコソコソと喋り始める。
「さっきの聞いた?」
「うん。霧崎さんの処女がどうのこうのって・・・・・・」
「まさか、あのボディガードの男の人に・・・・・・?」
「可愛らしい顔して、やる事大胆なのね。あ、ヤル事大胆なのね」
若干一名際どい所突いてきたが、事実じゃないので無視。
「もしかして、他のボディガードの人と・・・・・・?」
「みんなスタイルよかったもんね。一人幼女だったけど」
「まさか、「ロリコ」で始まって「ン」で終わるやつ?」
「引くわぁ・・・・・・他の二人は―――――――」
それ以上聞いていられなかったので、ダッシュで食堂を出る。もうヤダぁ!!
「なんでここまで、誤解が広がるんだよぉ・・・・・・!」
◆
食堂から逃げ出し、吹雪達に追いつく。
「お、おいお前ら。どこ行くんだよ?」
吹雪達は教室には向かわず、部活棟に歩いている。
「ああ、アンタは保健室で寝てたんだっけ。この学校、午後は授業が無いの。下校時間まで部活。帰宅部の人は昼で学校は終わり」
昼で授業が終わる、というのは中々珍しい。カリキュラムが他の学校とは違うようだ。
「で、アタシは弓道部なの。外に弓道場があるから、付いて来て」
ほぉ、霧崎が弓道部とは珍しい。帰宅部かと思った。アイドルの仕事とかやってるし、部活やってるイメージが全くなかった。
「自分で言うのもなんだけど、結構実力あるのよ?カッコいい所、孝浩に見せてあげる」
ニヤリ、と、意地の悪い笑みを浮かべる。何考えてんのかわからん奴だ。
「・・・・・・私もやるわ」
修羅の面を被った(と思える位不機嫌な顔をした)吹雪が言う。
「アンタ、弓道できるの?」
「的を狙うのは得意よ」
こちらも意地の悪い笑みを浮かべる。こいつら、似てる所あるな。
「じゃあ吹雪、勝負しない?勝ったら孝浩に一つ言う事を聞かせれる、っていう条件付きで」
「望む所よ、遥」
そういって、お互い火花を散らし合う。・・・・・・俺の意見も無しに。
「おい、勝手に話を進めるな。私も混ぜろ」
「そうですっ。何二人だけの話にしようとしてるんですかっ」
何故かチャレンジャーが二人追加される。
「じゃあ、決まりね」
「なにが決まりね。だよ。俺の意見が入ってないんだ、無効に決まって――――おい、おいていくな!」
四人が一斉に弓道場へと走り出す。
部活動は真剣にやれよ・・・・・・。
「道着に着替えてくるから、アンタは先に行ってて」
「あ、はい・・・・・・・・・」
俺、人権すらないの?
◆
吹雪達が着替えている中、俺は一人弓道場へ入る。
「おお、本格的だ」
ここの弓道場は近的、遠的が両方設置されている。
既に数人が道着を着て矢を放っている。一年生だろうか、先輩が弓の持ち方を指導している。
やはり初心者は近的場で矢を放っている。距離があるし、遠的は難易度が高いんだろう。
先輩らしき人が手本で的に矢を放つ。
足踏みから残心まで綺麗なフォームだ。
「――――――――あら?」
俺に気付いたのか、会釈をしてくる。
こちらも軽く頭を下げる。クソッ、ぼっちの奥義其の壱『端っこで姿を消す』が通用しない。こいつリア充だ。警戒しておこう。
「貴方、キリちゃんのボディガードさんね?」
「あ、はい」
キリちゃん―――――霧崎のあだ名、というか、ファンの間で呼ばれている愛称だ。
「見学かしら?」
「いや、ここで待ってるように霧崎達から言われて」
「達?」
「あ、他のボディガードも来るんです。なんか、勝負?するらしいです」
景品は俺。人権無視ってこの事っすよ先輩。
「へぇ~・・・・・・。あ、君って弓道に興味ある?」
「いや、あまり――――――――うわっ!?」
俺の言葉を最後まで聞くことなくスーツの裾を引っ張られる。
この学校の生徒って、案外強引な人が多いんだな。
「ねね、ちょっとこれ射ってみて。自分の思った感じでいいから」
「はぁ・・・・・・・・・」
渡された弓と矢をテレビで見たまんまの通り構える。
・・・・・・いや、普通に射ってもなんか味気無いな。
「・・・・・・・・・鷹の目、起動」
小声で音声コマンドを入力、受信。目が赤く光る。
突如、矢から放物線を示す白い線が現れ、的の中心に留まる。
「そこ――――――――ッ」
弦を引いていた手を離す。すると、矢は放物線を描いて的に刺さる。
「・・・・・・・・・こんなもんすかね」
鷹の目を解除し、軽く息を吐く。
的を改めて見ると、綺麗にど真ん中を貫いていた。これはこれで気持ちいい。スカッとする。
「すごい、すごいわっ!貴方、これ初めてなのっ!?」
「まぁ、はい」
実は、鷹の目は使用者の『射撃能力関係全般』を達人級までに引き上げる。
銃、弓矢、クロスボウ、なんでもいい。遠距離攻撃全てが可能になる。
どういうシステムかはわからない。実際、弓を射つのは今日が初めてだ。
狙撃なら、使わなくてもまあまあ出来る。狙撃銃しか握ってなかったからかな。
「貴方、もっと練習したら上達するわよっ。さっきのがまぐれでも、狙って的を射る事ができるようになるわ!」
手を合わせて飛び跳ね、期待を含めた視線を送ってくる。
「あ、でも、貴方はボディガードだし・・・・・・というか、ここの生徒じゃないしね」
あはは、と、笑いながら手をパタパタさせる。
「部長、孝浩になにか用ですか?」
後ろから声を掛けられる。道着を着た霧崎達だ。
「あ、ああ、弓の事を色々教えてもらってたんだ。ね、部長さん?」
「ええ。私の方をじっと見てたから、気になるのかな~って」
そんな事言っちゃダメですって先輩。
ほら見てみろよ、四人からのジト目。嫌だなぁ・・・・・・。
「・・・・・・先輩、隣の近的場借りていいですか?」
「いいけど、何するの?」
「ちょっとした勝負です。ここの三人と」
「そう、わかったわ。・・・・・・あ、でも、いいの?実力に差があると思うけど・・・・・・」
「私はこういうの得意です。というか、大好物です」
「私の手に掛かればこの勝負に勝つ事が出来る。この事実に変わりはない」
「弓道は嗜む程度にやっています。それなりの自信はありますよ」
全員道着の袖を結び、気合十分といった姿勢を取る。
「じゃあ、始めましょう。ルールは一発勝負、的の中心に矢が一番近かった人が勝ち。それでいいわね?」
すぐに決着がつきそうなルールで、弓道勝負(俺が景品)が始まる。