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壁越しの二人   作者: 雄たけび巨人
最終章 壁越しの音
37/38

繋がる想い

 彼の表情がこちらを向いた。すごく辛そうな、うつらうつらした表情。でも、私だと分かった瞬間、彼は精一杯の笑顔を私に向けてくれた。私もそれに笑顔で答えた……つもりだった。

「うぐっ……うっ」

彼の優しさが今では痛いほどに伝わってくるから。どれだけ頑張ってきたのかをわかってしまうから、だから、私は今まで我慢していた涙を流す。嗚咽を漏らしながら走るから、息が辛い。

 でも、ここで止まりたくない。まだ走っていたい。


 走ることなんて大嫌い。駅伝だって最初は、そんなに好きじゃなかった。でも、なんとなく走れたから。それだけが私が走り続ける理由だった。

 でも、伊達先輩が私を助けてくれた。足が速かったからじゃない。ただの偶然だったかもしれないけど、私に、初めて走る理由をくれたから。


(お前は、想いを繋ぐために生まれた。だから志継しのぶ。まるで駅伝を走るために生まれたみたいだな!)


 また、先輩の言葉が頭によみがえる。

 馬鹿な先輩だな、と思ったのが正直な感想だよ。でも、あの言葉があったから私はまだ走ってる。勇気を振り絞れる。

 でもね。

それだけじゃないんだよ?


 由雄くん。

 私は、伊達先輩が好き。たぶん、今でも好き。

 それに。


「由雄くん…………受け取って!!」


 あなたが大好き。


 あなたがくれた言葉が、笑顔が、勇気が私をここまで運んでくれた。

 迷っても、立ち止まっても、いずれは前に進める。

 そういう気持ちに、由雄くんがさせてくれた。

 今、あなたに届けたい想い。これに、全部詰め込んだから。

 これが私にとって、由雄くんにとっての………一本のタスキ。

 ここからが、私たちの本当のスタート。

 だから、受け取って。


「由雄くん‼」


 私は、精一杯手を伸ばす。由雄くんも手を伸ばす。

 彼が、まるでタスキを受け取るかのように私からの想いを受け取ると、一気にペースを上げて駆け出す。


「う、くっ‼」

 念願かなった私は、その場に倒れ込む。

一旦体を起こし、目の前を見据える。歪んでいた視界が急に明瞭になった気がした。

「……」

 もう一人。想いを繋げたい人がいる。

 その人は、由雄君ぐらい駅伝が大好きで、由雄君ぐらい優しくて。愛しくて……

「……」

 でも、もうここにはいなくて……

 だから。

 だから……

「……」

 さよなら。

「……今まで、ありがとうございました」


 私は、その人へ、今私にできる必死の笑顔を手向けに送った。



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