繋がる想い
彼の表情がこちらを向いた。すごく辛そうな、うつらうつらした表情。でも、私だと分かった瞬間、彼は精一杯の笑顔を私に向けてくれた。私もそれに笑顔で答えた……つもりだった。
「うぐっ……うっ」
彼の優しさが今では痛いほどに伝わってくるから。どれだけ頑張ってきたのかをわかってしまうから、だから、私は今まで我慢していた涙を流す。嗚咽を漏らしながら走るから、息が辛い。
でも、ここで止まりたくない。まだ走っていたい。
走ることなんて大嫌い。駅伝だって最初は、そんなに好きじゃなかった。でも、なんとなく走れたから。それだけが私が走り続ける理由だった。
でも、伊達先輩が私を助けてくれた。足が速かったからじゃない。ただの偶然だったかもしれないけど、私に、初めて走る理由をくれたから。
(お前は、想いを繋ぐために生まれた。だから志継。まるで駅伝を走るために生まれたみたいだな!)
また、先輩の言葉が頭によみがえる。
馬鹿な先輩だな、と思ったのが正直な感想だよ。でも、あの言葉があったから私はまだ走ってる。勇気を振り絞れる。
でもね。
それだけじゃないんだよ?
由雄くん。
私は、伊達先輩が好き。たぶん、今でも好き。
それに。
「由雄くん…………受け取って!!」
あなたが大好き。
あなたがくれた言葉が、笑顔が、勇気が私をここまで運んでくれた。
迷っても、立ち止まっても、いずれは前に進める。
そういう気持ちに、由雄くんがさせてくれた。
今、あなたに届けたい想い。これに、全部詰め込んだから。
これが私にとって、由雄くんにとっての………一本のタスキ。
ここからが、私たちの本当のスタート。
だから、受け取って。
「由雄くん‼」
私は、精一杯手を伸ばす。由雄くんも手を伸ばす。
彼が、まるでタスキを受け取るかのように私からの想いを受け取ると、一気にペースを上げて駆け出す。
「う、くっ‼」
念願かなった私は、その場に倒れ込む。
一旦体を起こし、目の前を見据える。歪んでいた視界が急に明瞭になった気がした。
「……」
もう一人。想いを繋げたい人がいる。
その人は、由雄君ぐらい駅伝が大好きで、由雄君ぐらい優しくて。愛しくて……
「……」
でも、もうここにはいなくて……
だから。
だから……
「……」
さよなら。
「……今まで、ありがとうございました」
私は、その人へ、今私にできる必死の笑顔を手向けに送った。




