届け
私は、また走っている。 由雄くんが来るであろう道へと。
手には、一本のミサンガが握られている。何度も、落としてないかが心配になって、手元を見る。確かにそこにある。私と志穂ちゃんの想い。
志穂ちゃんから、ミサンガの作り方を教わるまでは良かったんだけど、いざ作るとなると、すごく難しくて、いや私が不器用なだけか。
それでも、初めて頑張った。他人がどうこう思っていようが関係ない。私の存在が由雄くんに不幸を招くかもしれない。それも関係ない。
私は、私は………
狭い小道を左に曲がり、大通りに出る。
そこは、緩やかだけど、だらだらと坂が続いており、選手のスタミナを容赦なく削っていく。由雄くんも例外じゃない。
あの顧問の先生から、由雄くんが3区を走ると聞いたときはビックリしたけど、彼にはぴったりかなと思った。でも、相手が円先輩となっては、話が別。おそらく、由雄くんは負ける。ただでさえ、由雄くんが退院してからも私は一言も会話してない。
悪意でも、逃げでもない。今回は正真正銘、強くなるために。彼の助けは欲しいところだったけど、でもいっぱい勇気をもらったから。だから、今回は一人で立たなくちゃいけいない。そのための足が、私にはあるから。
『どうしても伝えたいことがある。だから、明日の駅伝は見に来てくれ』
あんなことを言う奴だったろうか、あいつは。鈍感で無神経で馬鹿。
「でも、優しくて真っ直ぐ。ちょっと、おせっかいだけど」
つい、口に出した言葉に吹き出しそうになる。油断すると、涙が出そうになる。今だって、目の奥がひどく熱いんだ。
でも、頑張らなくちゃ。ここに来るまでも、いろいろな人が私の背中を押してくれた。由梨、華菜、茂さん……そして、志穂ちゃん。
私は、走れるんだ。
自分の想いも、みんなの想いも、あいつに届けることができる。
さらに、ペースを上げて、ストライドを伸ばして、彼の姿を探す。
(私にだって、伝えたいことがある!)
(ずっと、ずっと、あなたに伝えたかった言葉が)
そうやって、走っていくと、ちょうど上り坂の終わりに差し掛かるところに見知った人物を見つける。
(あと少しで届く!)
案の定、後ろから見てもスタミナ切れだってことは明白だった。あと半分もあるのに、あの馬鹿。飛ばし過ぎなのよ。
さっき志穂ちゃんから受けた電話では、たしか原高校が一位でタスキを渡してから、百メートルもないくらいで大島高校が追っていると聞いた。おそらく、今の由雄くんは二位にいる。
(あと、少し!)
ごめんね、由雄くん。遅くなって。強くなろうって決めてからも、ずっと迷ってた。すごく苦しかった。強くなろうとすることって、こんなに辛いんだね。おかげで、また由雄くんは背負わなくてもいいプレッシャーまで背負っちゃったかな。
でもね、私逃げなかったよ!
今も、ただあなたに会いたくて走ってるんだよ?
馬鹿だよね?
なんで、こんな簡単なこと分からなかったんだろう。
いつだって、あなたはすぐ傍にいてくれたのに。
(届いて…………)
だから、今度は私の番。私が追いかける番!
(届いてよ!!)
「…………由雄くん!」




