本当の本音
「…………………………………………………………………………………………………………由雄くん、助けて」
空中を彷徨う、か細い声は、しばらくその空間を遊泳し……壁越しの少女に届いた。
『………………』
音が止んだ。
「しほ……ちゃん?」
『やっと、言ってくれたね』
先ほどの怒気のこもった声とは違い、優しさに溢れた温かい声だった。
『本当の……気持ち』
そして、再び志穂ちゃんの声に息苦しさが加味される。
「本当の……気持ち?」
でも、私はそんなことを気にも留める余裕もなく、志穂ちゃんの言葉をそのまま繰り返すだけだった。
『志継さんは、なんで由雄くんが好きって、素直に言えないの?』
「それは……」
やや口ごもるも、たどたどしく発言を続ける。
「私に関わるといいことない。だから、私は由雄くんを好きになっちゃいけない。きっと、伊達先輩にみたいに……酷い目に合う。だから、私が由雄くんを好きになっちゃ」
『そんなことないと思うけど』
間髪入れずに、志穂ちゃんの声。
『でもまず聞きたいんだけど、どうして……むしろ、いつからそんなことを考えるようになったの? それが志継さんの本当の言葉?』
「それは……」
ちがう。ちがうと思いたい。
知られたくない。
だって、志穂ちゃんの言ってることは、全て正しいのだから。
『サオリ先輩が死んでから?』
「……お願い。お願いだから、志穂ちゃん。それ以上言わないで」
『じゃあ、どうするの? 認めるの? それとも、また私を殺そうとするの? でも、それは認めたのといっしょだよ』
志穂ちゃんの言葉を止めたかった、だけど、それは叶わなかった。
『志継さんは、疫病神なんかじゃない』
「…………」
もう、私に言葉はなかった。
『弱くて、泣き虫で、自分だけじゃどうにもできないくせに強がる。そんな、どうしようもない人だけど……志継さんと会って不幸になった人なんて、一人もいない。みんな、みんなが志継さんに会いたがってる。志継さんを待ってる。由雄くんも……』
「…………」
『だから、行ってあげてよ。あの人のもとへ。由雄くんが、一番志継さんの帰りを待ってる。志継さんに会いたがってる! あたしじゃないの。志継さんじゃないとだめなの!』
「…………」
『…………話はこれだけ。最終的に来るか、来ないかは志継さんに任せる。でも、泣いてる暇があるんだったら、行動した方がいいと思う。だから……』
『待ってるよ』
……気が付くと、嗚咽をあげて泣いていた。
我慢していた。それでも、志穂ちゃんには伝わってしまった。
私の弱みを。どうしようもないくらいに、弱い私を。
しばらくは、この涙が止まることはない。
それほどまでに、悲しくて、嬉しくて、だから……生きていたい。
生きていることを、泣くことによって実感したい。
だから、今は泣いていたい。
………………由雄くんに会いたい。




