表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壁越しの二人   作者: 雄たけび巨人
第5章 壁越しの心音
29/38

本当の本音


「…………………………………………………………………………………………………………由雄くん、助けて」


空中を彷徨う、か細い声は、しばらくその空間を遊泳し……壁越しの少女に届いた。


『………………』

音が止んだ。


「しほ……ちゃん?」

『やっと、言ってくれたね』


先ほどの怒気のこもった声とは違い、優しさに溢れた温かい声だった。


『本当の……気持ち』

そして、再び志穂ちゃんの声に息苦しさが加味される。


「本当の……気持ち?」

でも、私はそんなことを気にも留める余裕もなく、志穂ちゃんの言葉をそのまま繰り返すだけだった。


『志継さんは、なんで由雄くんが好きって、素直に言えないの?』

「それは……」

やや口ごもるも、たどたどしく発言を続ける。


「私に関わるといいことない。だから、私は由雄くんを好きになっちゃいけない。きっと、伊達先輩にみたいに……酷い目に合う。だから、私が由雄くんを好きになっちゃ」

『そんなことないと思うけど』


間髪入れずに、志穂ちゃんの声。

『でもまず聞きたいんだけど、どうして……むしろ、いつからそんなことを考えるようになったの? それが志継さんの本当の言葉?』


「それは……」

ちがう。ちがうと思いたい。

知られたくない。

だって、志穂ちゃんの言ってることは、全て正しいのだから。


『サオリ先輩が死んでから?』

「……お願い。お願いだから、志穂ちゃん。それ以上言わないで」

『じゃあ、どうするの? 認めるの? それとも、また私を殺そうとするの? でも、それは認めたのといっしょだよ』


志穂ちゃんの言葉を止めたかった、だけど、それは叶わなかった。


『志継さんは、疫病神なんかじゃない』

「…………」


もう、私に言葉はなかった。


『弱くて、泣き虫で、自分だけじゃどうにもできないくせに強がる。そんな、どうしようもない人だけど……志継さんと会って不幸になった人なんて、一人もいない。みんな、みんなが志継さんに会いたがってる。志継さんを待ってる。由雄くんも……』


「…………」


『だから、行ってあげてよ。あの人のもとへ。由雄くんが、一番志継さんの帰りを待ってる。志継さんに会いたがってる! あたしじゃないの。志継さんじゃないとだめなの!』


「…………」


『…………話はこれだけ。最終的に来るか、来ないかは志継さんに任せる。でも、泣いてる暇があるんだったら、行動した方がいいと思う。だから……』


『待ってるよ』



……気が付くと、嗚咽をあげて泣いていた。

我慢していた。それでも、志穂ちゃんには伝わってしまった。

私の弱みを。どうしようもないくらいに、弱い私を。


しばらくは、この涙が止まることはない。

それほどまでに、悲しくて、嬉しくて、だから……生きていたい。

生きていることを、泣くことによって実感したい。

だから、今は泣いていたい。




………………由雄くんに会いたい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ