現れた泣き虫
私は、暗闇の部屋の中でずっと一人でいた。
出来ることは、いくらでもあったはず。
言われれば、思いつきそうなものだが、もう私には考える余裕がまったく無かった。
元気なフリをして、実のところは常に綱渡り状態で、自分の心の闇に気付きつつも、否定して……隠して……逃げて。
「もう、限界……なのかな」
私は、のろのろと腰を浮かせて、今後の準備を進めていた。
なんてことはない。
また逃げるのだ。
少し世界が変わるだけだ。
一瞬、痛みを味わうだけ。
それだけ……
―――ドンドン!―――
緩慢な動作で、視線を由雄くんのいた部屋へと向けた。
微かな人の気配を感じる。
由雄くん……?そんなわけがない。
でも、この期に及んでも彼には期待してしまう。
期待………………?
なんで、私が居たいのは此処じゃないはずなのに。
「由雄……くん?」
恐る恐る、問いかける。
私は、そっと壁に耳をつけ隣の部屋の様子を確認する。
『……………………』
声は聞こえないが、微かに息遣いが聞こえる。
由雄くん……じゃないと思う。
「…………誰? 由雄くんなの?」
私の問いかけに対して、それでも壁の向こうからは返答がない。
気味が悪くなってきた私は、堪えきれず壁を叩く。
「誰かいるんでしょ? 返事してよ」
それでも返事がなかったので、私は再三にわたる呼びかけを行おうとした。
その時だった……
『志継さんだよね……?』
壁越しから聞こえてきた声は、儚くも芯の通った声。
私は、その声に聞き覚えがあった。
たぶん、一番聞きたくない声だったかもしれない。
「なん……で? 志穂ちゃん……?」
『………………よかった。ここじゃなかったら、どうしようかと思ったけど……やっぱりここに戻ってきてたんだね』
思考がまとまらず、混乱し焦燥感に煽られる。
なんで?
どうして?
歯噛みした私は、彼女になるべく穏便に立ち去ってもらうことを画策する。
そのための第一声が……
「帰って……」
ここまで直球な発言になってしまった。
ああもう、私には言葉を選んでいる余裕もないのかと本気で後悔した。
『嫌です。あたしは、志継さん……あなたを助けに来たんですから』




