幕真『茂の葛藤』
志穂のいなくなった院内は、先ほど以上にシンと静まり返っていた。
そんな中で、俺は院内にあるソファに腰掛け、天を仰ぐ。
俺の近くにいるのは、俺とは無関係だった人たち。
だから、少し緩んでもいいよな。
「あの……?」
先ほど泣きべそをかいていた、由梨さんが俺に声をかける。
「はい?」
「もしかして、あなた……」
「そこまで感づいているのなら、少し本音を言ってもいいですか? いえ、ただの独り言なので」
「え? はい」
そうして、俺は少し呼吸を整えたあと、嵐のように自分の本音を吐露した。
「何で……! なんで、あいつが傷つかなきゃいけない。あいつは、純粋に由雄のことが好きだったのに! なんで、あいつにはこんな……! こんな、損な役回りばかりなんだ! あいつが報われる結果だって……きっと、きっと用意されていたって! 誰だって文句は言えないじゃないか? なんでなんだよ? なんで、なんで、なんで俺はあいつを止められないんだ! 眼に見えてる悲惨な結末が、あいつには間違いなく用意されてるってのに!」
「…………」
周囲の人間は、口を挟まなかった。
きっと、俺が断りを入れなくても、そうしてくれたと思う。
この人たちも、優しい人なのだ。
でも、今の俺は止められない。
「ちくしょう! 何でなんだよ! 由雄、なんであいつを選んでくれなかったんだ? ちくしょう! ちくしょう!」
俺は、そこで塞ぎこみ、終ぞ今まで我慢していた涙をこぼす。
もういい。
もう、我慢なんてしたくない。
今は、何も気にせず泣いていたいんだ。
「茂さん……でしたっけ?」
「はい」
華奈さんが俺に、初めて声をかけてきた。
俺は、涙声で答えるしかできなかった。
「その、私が言うのはおかしいとは、思うんですけど……」
「………」
「彼女が戻ってきたら、思い切り抱きしめてあげてください」
「……」
「多分、今の彼女にはあなたが必要だと思います。だから、今は休んでもいい。けど、彼女が来たら、また普段のあなたでいてください。きっと、あの子は彼女を傷つける。だからこそ、あなたが守って……」
「あんたになにが……!」
言おうと思って、俺は華奈さんの表情を初めて見た。
大粒の涙を流していたのは、俺だけではなかった。
親友のことが心配で心配でたまらない、この人も相当の我慢をしてきたのだろう。
それが、わかってしまったから……俺にはもう何も言えなかった。
志穂……
必ず、帰ってこいよ。




