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壁越しの二人   作者: 雄たけび巨人
第4章 壁越しの残響
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幕真『茂の葛藤』

 志穂のいなくなった院内は、先ほど以上にシンと静まり返っていた。

そんな中で、俺は院内にあるソファに腰掛け、天を仰ぐ。

俺の近くにいるのは、俺とは無関係だった人たち。

だから、少し緩んでもいいよな。

「あの……?」

先ほど泣きべそをかいていた、由梨さんが俺に声をかける。

「はい?」

「もしかして、あなた……」

「そこまで感づいているのなら、少し本音を言ってもいいですか? いえ、ただの独り言なので」

「え? はい」

そうして、俺は少し呼吸を整えたあと、嵐のように自分の本音を吐露した。

「何で……! なんで、あいつが傷つかなきゃいけない。あいつは、純粋に由雄のことが好きだったのに! なんで、あいつにはこんな……! こんな、損な役回りばかりなんだ! あいつが報われる結果だって……きっと、きっと用意されていたって! 誰だって文句は言えないじゃないか? なんでなんだよ? なんで、なんで、なんで俺はあいつを止められないんだ! 眼に見えてる悲惨な結末が、あいつには間違いなく用意されてるってのに!」

「…………」

周囲の人間は、口を挟まなかった。

きっと、俺が断りを入れなくても、そうしてくれたと思う。

この人たちも、優しい人なのだ。

でも、今の俺は止められない。

「ちくしょう! 何でなんだよ! 由雄、なんであいつを選んでくれなかったんだ? ちくしょう! ちくしょう!」


俺は、そこで塞ぎこみ、終ぞ今まで我慢していた涙をこぼす。

もういい。

もう、我慢なんてしたくない。

今は、何も気にせず泣いていたいんだ。

「茂さん……でしたっけ?」

「はい」

華奈さんが俺に、初めて声をかけてきた。

俺は、涙声で答えるしかできなかった。

「その、私が言うのはおかしいとは、思うんですけど……」

「………」


「彼女が戻ってきたら、思い切り抱きしめてあげてください」

「……」

「多分、今の彼女にはあなたが必要だと思います。だから、今は休んでもいい。けど、彼女が来たら、また普段のあなたでいてください。きっと、あの子は彼女を傷つける。だからこそ、あなたが守って……」

「あんたになにが……!」

言おうと思って、俺は華奈さんの表情を初めて見た。

大粒の涙を流していたのは、俺だけではなかった。

親友のことが心配で心配でたまらない、この人も相当の我慢をしてきたのだろう。

それが、わかってしまったから……俺にはもう何も言えなかった。


志穂……


必ず、帰ってこいよ。



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