死の自由
しばらく、惚けていた野嶋だったが、 同時に二階堂の行き先についてもなにとなく考えていた。
そして……
(あれ……?)
同じ人物に恋い焦がれ、同じような心境になったからこそ気付けた。
二階堂の行き先に。
(だ……ダメ!)
彼女、野嶋志継の表情に再び生気を取り戻させたのは、皮肉にも……死だった
―――
二階堂が走る。
見えない位置から、野嶋も後を追う。
陸上経験者といえど、階段ともなると中々に追い付けない。
(ダメ……! 先輩……!)
二階堂は必死に逃げて、野嶋がそれを追う。
諦めかけたときに、野嶋はとある人物を見かける。
円だった。
「ど、どうした? 志継」
「せ、せんぱい……先輩が、せんぱいが」
「?」
野嶋の様子に、さらに首を傾げる円だったが。
「っ!」
野嶋の視線の先と、野嶋の様子から答えは出た。
「おまえ……! もしかして!」
「……」
「沙緒里……!」
今度は二人揃って駆け出す。
円のいた3階から、屋上までは当然のことながらすぐについてしまったが、そこからが問題だった。
「……? な、くそ!」
ドアがあかない。
この非常時に、何故?
二階堂に、何かをする手立てはなかったはずであるから、恐らく老朽化したドアが錆びついて中々空きづらくなってしまっているせいかもしれない。
それ以上に、円の焦りが作業効率を悪くしていた。
「ちくしょう……! ちくしょう、ちくしょう!」
「せん……せんぱい……!」
「こんなことになるなら、俺がずっと屋上にいれば……」
「え? 先輩、沙緒里先輩と屋上にいたんですか?」
「……」
「先輩答えてよ! ねぇ!」
「お前は、何も気にしなくていいんだ!」
「そんな……そんなこと言って、私をまた無関係みたいに言って……」
ガシャンと大きな音を立てて、ドアがやっと開く。
外の風景を見た瞬間に駆け出したのは、野嶋。
それを見て、円が「待て!」と言っていたが、野嶋は気にも触れず駆けだす。
そして……眼前に広がった光景は、傷ついた鳥が今空に羽ばたこうという瞬間だった。
――
(望。今、そっちに行くね)
(……ずっと、考えてはいたんだよ。)
(本当の邪魔者は、私だって)
(でも、こんな私でも『一緒にいたい』って言ってくれたから、だから、素直に認められなかった。望が、あの子の事を好きなんだって)
(だから、私、あの子に嫌われたかった。なのに、あの子は自分を責めるばかりで。私の事を嫌いなはずなのに、無理する)
(だから、あんな表情したんだよね?望に会ってもいいんだって、死んでもいいんだって、そう思ったんだよね?あの子は)
(でも……これは、私の最後の我儘。望は、あの子の事を好きになっていたかもしれない。でも、ずっと傍にいるのは、私であってほしい。願わくば、望もそれを願っていると信じたい)
(だから、もういいよね?)
「私、もう行くね」
―――
「せんぱ……!先輩!」
一足飛びに、フェンスまで駆け寄り、助けようとするも、決して縮まることのない距離は残酷にも、一人の命を解放させようとしていた。
ガシャンと大きな音をたてて、眼下に広がる光景を彼女は見た。
落ちていく、人形のような女性。
その表情には、今までに見たこともないような柔らかい笑顔が浮かんでいた。
その表情を見て、愕然とした様子で野嶋はその場に座り込む。
「どうして……? 私じゃだめなんですか? 先輩……傍にいるのは、どうしても私じゃだめなんですか?」
その場に駆け寄った円が野嶋の肩を揺すり、声をかけるも、彼女は全く反応しようとせず、ただただ同じセリフを繰り返すばかりだった。
「わたしじゃ……だめ」




