赤
「剛のやつ、調子にのってペース上げて……」
二階堂は決して体育会系というわけではないので、ジョギングとはいえこの天候では彼女にとっては集団に追い付こうとするので精いっぱいになっていた。さらに、霧が増してきたせいもあってか必死になって前の集団を追いかけようという気力さえ奪われそうになっていた。
「……ああもう! 疲れた。それにもうビショビショ。望たちは自分で時計持ってるし、ここであの子のこと待っていようかしら」
そんな気の緩みから、彼女は自転車をこぐペースをゆっくりと落とし始めていた。そうしたことによって、二階堂には周囲を見渡す若干の余裕ができたときである。彼女の眼には濃い霧がかかっていながらも視認できるものが目に入った。それは、濃霧のせいで確かにそれとは確認できるほどのものではなかったが、その高さと『危険、止まれ』を示すその色だけ分かればそれが何かがわかるものであった。
「……赤信号か」
今思えば、何故彼女がそんな当たり前のことを確認するようにつぶやいたのかは当人にも分からないことである。しかし、赤信号は人や車を止めるもの。その役割を担っているもの。そのはずであった。
その時。耳を貫くかのような不快な音が響く。
その先を、咄嗟に振り向く沙緒里。
その表情は、焦りに満ち溢れ、勘違いであってほしいという懇願が伺えた。
そんな彼女の気持ちを裏切るようにして、二階堂の近くを止まれ切れずに、スリップしていくトラックが通りすぎていく。そのトラックが彼女のいる歩道側にむかってコントロールを失って突っ込んでいくのを茫然と見ていた。日常の中の非日常な出来事に彼女の思考能力は完全にストップしていた。それは、彼女の身に危険が迫っているわけではないということもあるのだろうが…トラックの向かおうとしている方向は…
「ノゾッ……!!」
今まさに、危険が及ぼうとしている人間に向かって今の現状を呼びかけようとしたが、さっきまで見えていた集団が濃霧のせいで見えなくなっていた。それでも彼女は叫ぶ。
一番大切な人の名を。
「望‼」
―――甲高く掠れた声とブレーキ音が街中に響く―――
「ん? さお………」
伊達が自分を呼ぶような声が聞こえたので後ろを向こうとした時である。
―――キキィィィキィィィィ―――
非常に耳障りなブレーキ音とともに、大型のトラックが自分たち目がけて……
「っ‼ おまえらっ‼ どけぇぇえ‼」
(………!!)




