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救援戦 1

孤立した友軍救出のためミッコは戦場に再び足を向ける。しかし、数年前とプロシア帝国軍は全くかわってはいなかった•••


「ミッコ•ハルトマン中尉、ただいま着任しました」


 司令室に入ったミッコを迎えたのは、視線の数々だった。ミッコを除く全員が上級士官の無駄に輝く階級章を軍服の胸あたりにつけ、巨大な円卓テーブルに座り見定めるようにミッコのほうに顔をむける。その中でもとりわけ豪華な階級章を身につけ、円卓の上座の席に座っている男にミッコは焦点をあわせる。この男がどうやらここの駐屯地の司令官らしい。さしずめ、他の上級士官達は参謀といったところか。


 司令官風の男は大儀そうに椅子からも立たず、

「ご苦労、中尉。私はヨラム駐屯地およびプロシア帝国南部方面軍最高司令官のゲール中将だ。本来なら君ごときの階級の人間が入ることのできない部屋だ。ここに呼ばれたことを有り難く思いたまえ」

「•••はっ」

 人を呼びつけておきながらこの態度と言い草、ミッコのこの司令官への第一印象は残念なものとなった。

 神経質なイメージを与える色白な顔の前に骨張った細長い指を組んで中将は尊大な態度のまま話を続けた。

「現在の状況だが、おおまかなことはここに来るまでに説明を受けているはずだ。そうだな中尉?」

「はい。フリード二等兵から説明をうけました」

「では、さらなる説明を行う。荷物をおいて彼の話を聞きたまえ」


 ゲール中将が周りの上級士官のひとりに目配せをする。目配せされたその士官はうなずき返し、席をたった。

「現在南部方面軍精鋭部隊二個連隊、二千人が二週間前に共和国軍に占拠された都市、ラインツベルクの奪還を目指して攻撃を行いましたがラインツベルク郊外にて察知、迎撃、包囲され大きな損害を受け、今もなお苦戦を強いられています。攻撃開始から二日後に司令部は撤退を決定しましたが、退路となる147国道線を射程圏内におさめる重砲が国道線上の村に設置され撤退することが極めて困難になりました。そこd•••」


「全く無能なやつを連隊指揮官にしてしまったもんだ。私の顔にまで泥をぬりおって!!」

 士官の説明を途中で遮り、ゲール中将は怒りのあまりか円卓を力いっぱいに貧弱なその拳をおろす、熟れすぎたトマトのように顔を真っ赤にして。

「われら大陸最強のプロシア陸軍の精鋭二個連隊が堕兵のあつまりの共和国軍ごときに敗退するなぞ•••あってはならんというのに!!全く無能で無知な血が赤いやつなんぞに指揮官を任せるべきではなかったわ!!」


 さっきまで一言も発しなかった中将の取り巻きの上級士官たちが一斉に騒ぎだした。

「その通りだ」 「やつがかえってきたら軍法会議にかけろ!!」 「我々の作戦を台無しにしおって」 「所詮低能な平民だ」「中将のおっしゃる通りだ!!」 「そうだ、そうだ銃殺だ!!」 「彼でなかったら今頃、ラインツベルクに帝国旗がたったはずなのに」


 フリード二等兵のいっていたことは正しかった。ミッコはうんざりした。自分の説明を中断され、物静かに立って待っている士官と目が合う。士官は肩をすくめて、皮肉げに微笑んだ。ミッコもつられて微笑んだ。彼も相当うんざりしているみたいだ。



「その点、君は信のおける人間に違いないだろう。なあ、ミッコ•ハルトマン中尉?」

 突然、司令がミッコに話向をむける。

「それは、どういう意味でしょうか?」

 司令は意味有りげにミッコの双眸に目をあわせて、自分の豪華な椅子に深々と体を預けた。

「君は『カメルルの反乱』ですばらしい活躍をした英雄ではないか、しかもプロシア帝国建国以来続くハルトマン家の出!!君こそ我らプロシア貴族の偉大さの体現者!!」

「••••••、」 

 次第にミッコの纏う雰囲気がかわっていくことに、司令は気づいていなかった。遠慮なく彼は口を開き続けた。

「期待しているよ。君に。では説明を再開してくれたまえ」

「•••では、続けさせていただきます。撤退困難になった二個連隊の救出のため、退路上に立ちふさがる重砲の破壊と村の攻略を司令部は決定しました。そのために一個小隊が本日1100時に出撃、1500時には村に対する攻撃を開始するはずでしたが1430時に村周辺のタウンゼンの森にて連絡を断ちました。恐らく敵に察知され、重砲による砲撃により部隊はバラバラに分断されタウンゼンの森に釘付けになっているものだと思われます。このままでは重砲どころではなく、いたずらに被害が増えるばかり」

「そこで君を呼んだのだ。帝都からの第一陣の増援部隊は今日到着したが、未だ残存部隊との再編成を終えていないため新たな救援部隊を出せなかったのだが、まさかその中にミッコ•ハルトマンの名があるとはおもわなんだ。英雄と呼ばれた君だ、一個小隊の救出ぐらい容易いだろう?」

「命令とあらばやりますが、いくらなんでも単身では」

「君は、英雄だろ?」

「過大評価です。あの時は周りに優秀な仲間が大勢いました」

「作戦は君に任せるよ。せいぜいたくさんの兵士を救ってくれたまえ」

「しかし!」

「おいおい、ここまできて私を失望させないでくれたまえよ。いいかね私は『頼んで』いるわけではないのだ。これは命令だ。わかったかね?」

 あくまでも、高圧的な司令の言葉に苛立ちを隠しながらミッコは頷く。英雄とよばれることが、彼にとって最も嫌いなことなのだ。

「•••了解しました。ですが、自分の所属は帝都中央軍第3師団です。まだ南部方面軍の所属ではありません」

「なにを、第3師団を今日付けで南部方面軍の指揮下に入る予定だ」

 ミッコは微笑を浮かべて、爆弾を落とす。

「逆です。南部方面軍が第三師団の指揮下に入るのです。第三師団長シュバルツ•リヒトー少将の、ね」

 部屋が少し騒がしくなる。一斉に小声で参謀達が横の人間と話始め、徐徐にその声が大きくなる。一言も発しないのはミッコとゲール中将そして一人の士官だけだった。

 話声がおさまるまで中将は待ってから、口を開く。

「私は中将だ。少将の上が中将だ。あんな男に指揮などとらしてたまるか!」

「ええ、プロシア帝国軍での階級は絶対。本来ならば無能な上官の命令に従わないといけない」

「なんだと!!」

「ですが、今回はそんな心配しなくいて済みそうだ。断言してもいい、あなたは数時間以内に更迭される」

 ミッコとは対称的に顔を真っ赤にして、中将は大声を張る。

「冗談をいうのも大概にしたまえ。どうして、私が」

「わからないのか?共和国にここまで攻められて、今もなんの手も打てないず自分の部下2000人を犬死にさせようとしてるんだぞ。そんな無能な軍人、馬の餌にもならない」

「これ以上の侮辱、いくらお前が『カメルルの英雄』でも許さんぞ!!」

「いくら吠えても結果はかわらない。この部屋の外では忙しく士官達が2000人の人間を救おうと走りまわってるのにあんたらここでのんびり会議で、挙げ句の果ては一人の兵士に丸投げか?いい加減にするんだな」

「もういい、いい加減にするのはお前のほうだぞ。私をだれだと思っている。由緒ある帝国貴族の」

 これ以上長くこの場にいる気は、ミッコにはなかった。

「いうに事欠いて自分の血を挙げるか。もう話すことはないよ。安心していい、おれは救出には向かう。あんたらはせいぜいこれからの身の振り方を考えるんだな」

「おい、待て!!」

 ミッコは自分の荷物を背負い、扉のほうに体をむける。中将ともうひとりだけが彼に言葉を向ける。

「銃殺だ、お前など!!

「中尉。フリード二等兵にポイントまでの案内を頼んでおきました。装備等は彼がもうそろえているでしょう」

 士官の言葉だけがミッコの耳に入り、ほかの言葉は左から右へと流れた。



 部屋の外は未だ騒がしくたくさんの人間が走り回っていた。その誰一人としてミッコの姿を気にとめる者はいなかった。それはミッコにとって都合がよかった。落ち着いてこれからの戦いのことを考えることができるからだ。兵嚢からポンと銃口をのぞかせるライフル銃をミッコは取り出して、肩に直接かける。


「相棒、仕事だ」

 ミッコはまるで話しかける用にライフルに喋りかける。はたから見れば、愛用の銃に話しかける危ない男のようにみえるが実際のところ事態はもう少し複雑なのだ。


(御呼びかい、旦那)

「戦いの時間だ。お前の力が必要になる」

(へへへえ、腕がなるぜえ。今回のダンス相手は糞たっれたカメルル人の民兵か、それとも裏切り者の官僚士官かい?)

「いつの話をしてる。もう、三年も前のことだ。あの戦争は終わった」

(けど、旦那はまた戦場の戻ってきた。いったいどんな心境の変化があったんだか)

「また、話すさ」


 ミッコが話しかけているのはライフル銃だ。そしてそれはミッコに精神の異常があるということを指し示しているわけではない。立派な話相手としてミッコはライフルと話をしているのだ。そう、彼のライフルは一一一一一一一一


(まあ、三年ぶりの鉄火場だ。楽しませてもらうぜ旦那)

「期待してるよ、相棒」



 一一一一一意思を持つ。






 建物の外にでて、ミッコを迎えたのは華奢な体に似合わないごつい軽機関銃を抱えたフリード二等兵だった。予備のマガジンと手榴弾が軍服のポケットから顔をのぞかせている。両手が塞がっているため敬礼できない彼は、せめても姿勢だけは正す。

「エスコートはお任せください、中尉」

「たった二人だけの救援部隊か、死にいくようなもんだな」

「僕はまだ死ぬつもりはありません」

「俺もだよ、フリード二等兵」

(へへ、あっしもそうだぜ。旦那!)


 ミッコにしか聞こえない声がライフルから聞こえる。ミッコはライフルだけを持ってほかの荷物を地面に置く。これからの戦場に予備の軍服とカミソリは必要ないからだ。予備の弾薬をポケットに詰め込む、ミッコに一陣の風が吹く。幾分か生臭く、油臭いその風は

これから向かう戦場の匂いを運んできたような一一一一一一



「では、行こうか。俺たちの戦場に」









次回からがっつり戦闘です^@^

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