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第7話

 いきなり上掛けを体に巻かれ、抱き上げられたことで恐怖を感じた天花は暴れた。



「嫌っ! 離して!」

「大丈夫、心配しないでいい。いつまでもあの格好じゃ、恥かしいだろう? 服のある部屋に連れて行くから、そこで好きな物に着替えるといい」

「服?」

「だってそれ、寝巻きだよ」

「ええっ!」



 天花がスフィアであるなら、1つだけ言える。


 スフィアは天界に住まう天上人だ。

 このルーディアの常識は通用しない。



「その前に1つだけ聞きたいのだけれど、君はスフィアかい?」

「スフィア?」



 背中の方から戸惑っている天花の声に、イフリードは苦笑する。


 元々イフリードは女性との付き合いはあまり誉められた方ではないが、女性を泣かしたり苛めたりはしない。

 それなのに天花の大きな瞳が潤むと、もっと見たいという欲求にかられ、つい意地悪をしてしまうのだ。


 しかも天花は寝巻き姿のままだ。

 これ以上ベッドの上でいれば、後で困ることになるかもしれないと思うほどイフリードは戸惑っていた。


 イフリードは天花の答えも聞かないまま、自分の部屋を出て長い廊下を天花を抱えて歩く。


 元々朝が早いせいもあるが、廊下にはメイドの姿すらない。


 大声で呼べばどこからともなく警備兵が現れるが、呼ぶ必要性を感じなかった。


 長い足をスライドさせ、緋色の絨毯の上を音もなく歩く。

 荷物のように担がれていた天花も、自分が寝巻き姿だと聞いて、すっかり大人しくなっている。



「テンカ」

「……何?」



 しぶしぶと答えたような声に、イフリードは笑みを深くする。



「真名を名乗る恐ろしさは十分わかっただろう? もう2度と誰かに真名を教えてはいけないよ? 俺の予想だと君の呼び名はスフィアだ。もしスフィアではなかったら、俺が別の呼び名をつけてあげるよ」

「……」



 答えないのは肯定の意味だとイフリードは理解し、とある部屋のドアを開いた。


 部屋の真ん中で天花を降ろし、壁沿いにあるワードローブを次々と開けていく。

 イフリードは上掛けから顔だけ出す天花に振り返る。



「好きな色は?」

「……赤とグレー」

「へえ?」



 その言葉を聞いて、赤の使われている服を次々と天花の前に積み上げていく。



「こんなものかな? どう、気に入った服はあった?」

「……これの中から選ぶの?」

「ああ、もちろん」

「……」



 上掛けを体に巻いたまま立ち上がり、天花は山のように積まれた服を物色し始める。

 イフリードもその横に来て一緒に物色し始めた。



「これは?」

「ピラピラしすぎ」

「じゃあ、こっちは?」

「大人っぽい」

「う~ん、じゃあこっち」

「丈が長すぎる」



 意外と注文が多い天花に、イフリードも苦笑する。



「これならどう?」



 イフリードの持っているのは膝下の丈のシンプルな服だ。

 首の縁にリボンがついていて、デザインの可愛いものだった。



「うん」

「じゃあ、これに着替えるといい」

「でも……。勝手に着て怒られない?」

「まさか、ここにある全ての服は、人に貸すために用意された物だよ。誰が着ても怒られることはないさ」

「そうなの?」



 おずおずと受け取る天花に、イフリードはドアの方に向かう。



「着替え終わったら呼んでくれ。部屋の外で待っているよ」

「うん」



 天花を残し、イフリードは部屋から出てそのドアにもたれた。


 スフィア召喚の失敗。

 自分のベッドにスフィアの印を持つ女性の出現。


 何が起こっているのかイフリードにもわからないが、天花には保護欲が掻き立てられる。



「あの……」



 寄りかかっていたドアが開けられ、天花がおずおずと顔を出す。



「見せて」



 そう言ってイフリードは天花の腕を引っ張り出した。

 上から下まで視線をめぐらせ、天花を見る。



「へえ、似合ってる」

「……」

「お腹が空いただろう? 朝食にしよう。おいで」



 そのまま天花の手に自分の手を絡ませると、そっと天花を引く。



「あのっ!」

「ん?」



 天花に少し引っ張られ、イフリードが天花へと振り向く。



「名前、あなたの名前、教えてもらってないんだけど」

「ああ、俺の呼び名はイフリード。イフリードルレジルファン。真名はナイショだ」

「イフリード?」

「ああ」



 首を傾げつつも、天花は復唱する。



「ここはどこなの?」

「ここはルーディアのレジルファン国にある王宮だ」

「レジルファン? あれ、イフリードの名前と同じ?」

「ああ、俺はここの第三子だからね」

「第三子ってつまり、お、王子様っ?」



 大きな目を更に見開いて驚く天花に、イフリードの笑みが漏れる。



「ここでは王子とは呼ばないが君の世界ではそうなるのかな? もし君がスフィアなら君はここではない世界から来た事になる。文献で共通するのはチキュウだ。聞いたことは?」

「地球? 私の住んでいる星の名前です!」

「そ……、じゃあ、住んでいる国は?」

「日本です」



 この世界の文献に残っているスフィアのいた世界は地球だ。

 そして、住んでいた国は日本が圧倒的に多い。



「やはり、君はスフィアか……」



 重要機密の文献を読む事が出来るのは王族であるイフリードには簡単なことだ。



「朝食の後、状況を話してあげるよ」

「状況?」

「そう、君はニホンからこのルーディアに召喚されたスフィアだ。つまり君は異世界へ飛ばされたんだよ」

「異世界っ?」

「ああ、話は長くなるから、まずは朝食を食べよう」



 イフリードの提案に天花が頷くと、手をつながれ、導くままイフリードについていった……。




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