第4話
神官長の唱える召喚呪文に魔方陣が光りだす。
最初に始まるスペルが光ると、連鎖するように次々とスペルが光だし、魔方陣全体が光った。
そしてサークルから光が上へと伸びていく。
召喚術の特徴的な現象だ。
この伸びた光が柱となり、部屋全体が光に包まれた後、召喚対象が出現するのだ。
立ち会っていた者は、光が柱になっていくのを固唾を飲んで見守る。
魔方陣から立ち上る光の柱が中心となり、辺りがだんだんと光につつまれていく。
そしてその光は部屋を埋め尽くし、視界は真っ白なって何も見えなくなった。
次の瞬間、パンと音がし、光が一瞬で消える。
立ち会っていた者全員が魔方陣に視線を向け、目が慣れるとそこには困惑した表情を浮かべる神官長だけしか立っていなかった……。
「失敗だ!」
誰かがそう呟いた途端、辺りは騒然となった。
王妃は部屋が召還の光で埋め尽くされ、眩しさに目が眩んだ次の瞬間、王妃の目の前に1人の女性が立っていた。
白髪の真っ直ぐな長髪。
瞳は温かな金色をしている。
たおやかで繊細そうだが、なんとも力強い感じを受ける。
王妃と同じ年齢くらいの女性だ。
「……私の娘を貴女の息子にあげるわ。私の可愛い娘。あなた達は大切にしてくれるのかしら?」
「私の息子は……」
王妃の声が音として響かず消えるが、相手の女性には聞こえているようできちんと答えがかえってきた。
「それでも、貴女には大切な息子である限り信実は不変となる」
「……何故?」
「貴女がそう望んだから、私はその願いを聞き入れただけ」
そう言った途端、王妃は部屋に1人立っていた。
召還の光はすでに消えうせ、床には自分が描いた魔方陣がある。
そして自分のすぐ横に1人の女性が倒れていた。
「運命の相手……」
幻のような女性は自分の息子に娘をくれると言った。
ならば、この女性の母親ということになる。
王妃はそっと屈み、倒れている女性を覗く。
眠っているのか、あどけない寝顔だ。
髪は短く栗色かかった黒髪で、柔らかそうに見える。
ぷくっとしたピンクの唇が、表情を愛らしくさせている。
この娘は息子の運命の相手。
王妃はひと目でこの娘を好きになった。
王妃はメイドを呼び、娘をこの部屋から運ばせた……。
スフィア召喚が失敗し、神殿は大騒ぎだった。
試にと、もう一度召喚の儀式を繰り返してみたがやはり結果は同じ。
スフィアが召喚されない。
スフィア召喚呪文はどこの国でも同じもの。
少し呪文が長いものの書物に書かれた呪文を読み進めるだけで間違いはない。
「もしかして、エルディーアの影響じゃないか?」
誰かがぽつりと言い出し、何人かがそれに反応する。
エルディーア国はルーディアにある8大国と呼ばれる国の1つだった。
過去形なのはエルディーア国が消滅したからだ。
レジルファン国はエルディーア国とは隣接していない国だが、エルディーア国が消滅してからどの国もスフィアの召喚儀式は行っていない。
エルディーア国が消滅したのは女神の娘、スフィアを蔑ろにし、貶めたせいだと伝わっている。
エルディーア国だけが、唯一スフィアの位が低かった。
スフィアに敬愛を示さない国など、エルディーア国ぐらいのものだろう。
国を救ってくれたスフィアの意思を無視し、王が年齢のいった大臣に金と交換にスフィアを大臣に与えたのが女神の怒りを買ったと言われている。
元々エルディーア国は腐敗の進んだ国だった。
金によって全てが決まり、賄賂などが当然のように横行していると聞き及んでいる。
それでも私利私欲でスフィアを勝手にしようなどと、恐れ多い。
その末、今まで歴史上では帰還することのなかったスフィアが帰還した。
結果、女神の怒りに触れ、エルディーア国は『宝珠』を失い消滅することになったのだ。
女神の怒りの声は、エルディーア国にいる者全てに聞こえた。
女神の声を聞いた国中の民が暴動を起こし、結果、エルディーア国は宝珠を失った数ヵ月後に消滅したのだ。
女神の加護を受けながら、女神の愛する娘を蔑ろにする。
愚かなばかりである。
「では、エルディーア国の影響ならば、どうすればスフィアを召喚出来ると? 神器はもう少ししか持たないのだぞ?」
「他に方法はないのか?」
「古代文書には書いていないのか?」
「姫は何かご存知ないか?」
様々な言葉が飛び交う。
その日、夜遅くまで話し合われた。
1は相手がまだ出てこなくて、こっちの2は主人公がまだ召還されない・・・。なので、天花が出る次まで更新しておきます。