第1話
ルーディアには大国と呼ばれる国が8つあった。
過去形なのは、今は7つになってしまっているからだ。
その大国の1つ、レジルファン国。
国の重要人物である『姫』からの報告を受けてから、神殿の神官長を呼び出し、王宮の奥深い部屋の一室で数日間に渡り深刻な話し合いを行っていた。
この世界は女神ルーディアの加護を受けし世界。
世界の理はすべて女神ルーディアによって定められている。
かって、この世界は『悪魔の雫』の呪いにより、魔物が徘徊するようになってから人は滅ぶ寸前まで追い込まれた。
しかし女神より加護としてそれぞれの大国に5つの宝珠を与えられ、この宝珠を国の随所に置いてみれば特別な磁場が発生し魔物が入り込めなくなったのだ。
この宝珠の力を持続させるため、女神は自分に仕える巫女達を使わせ、その者に力を維持させた。
それが今の『姫』である。
姫は宝珠に力を与え、宝珠はその力を受けて加護の力を発生させるのだ。
しかし、『宝珠』に力を注ぐには『姫』と『宝珠』の間を繋ぐ媒体が必要となる。
その媒体を「神器」と言う。
しかし、その「神器」は人間が造ったもので流用している為、使い続ければ当然劣化していく、そのために周期的に新しい器を用意しなければならない。
その器を新しい神器にするには神の力が必要だと、女神は娘であるスフィアの召喚術を伝えた。
今、レジルファン国では、その神器に600年ぶりに亀裂が入ったと報告が入ったのだ。
新しい器を用意する為には、素晴らしい技術を持つ造形師を選び、新しい器を作らせなければならない。
国王や神官長を中心に、国の主要人物が集まり協議した結果、「神器」を作る造形師が決まった。
新しい器を作る造形師が選ばれたと同時に、スフィアの召喚が準備され始めた。
その同時期、レジルファン国の王妃は古い書物に埋もれていた。
美しく、聡明でありながら力のある召喚師だった彼女を王が見初め、王妃となってから3人の息子を生み立派な王妃として敬われている。
そんな王妃にはたった1つ、頭を悩ませることがあった。
それは第三子、イフリードのことだ。
今年29歳になるイフリードはいつまでもふらふらと浮きよ名を流すだけで、まったく身を固めようとしない。
イフリードは王位継承権からもっとも遠いということもあり、気楽な立場である事と魔道力を使える魔道剣士だった。
魔道剣士は稀な存在であるということで、周りも王子としての立場より剣士としての立場を要求したせいか、王族であることを口やかましく言う者がいなかったせいで、イフリードは王族としての立場をあまり重要視せず妻を持とうとしない。
上の2人の王の子にはすでに子供がいる。
血を残す必要性はないが、母である王妃にとっては早く身を落ち着け、その孫を抱きたいと思うのは仕方のないことだろう。
先日、その事をイフリードに話したところ、運命の相手なら身を固めていいと妙なことを言って誤魔化された。
運命の相手。
たとえその場しのぎの言葉であろうと、息子の為に王妃はその娘を見つけ出し、イフリードと結婚させようと決めたのだ。
そうして王妃は、古い書物を開き、運命の相手を召喚できる呪文を探しているという訳なのである……。