第11話
その後、天花達は王と会う為、謁見の間にいた。
謁見の間は、玉座の前を紫の布が横一文字にひかれる。
その上に、王に謁見する物が膝をついて謁見するのだが、今回、スフィアであると報告された天花が王と同等の立場であることから、椅子が1つだけ用意され、天花はそこに座って王と向き合うことになった。
もちろん天花の横にはイフリードが立っている。
普通ならイフリードも膝をつくのだが、今回は異例のことであり、イフリードが第三子ということで立ったまま謁見が許された。
真ん中の王座に王が座わり、その左横には先ほどの王妃が寄り添うように座る。
反対側の席には『姫』が座っていた。
天花達の後ろには神官長や大臣などが並び、膝をつき頭を垂れている。
初めに、『姫』の言葉によって姿が伝承とは違っていても、天花が間違いなくスフィアであることが認定された。
そして王妃の説明がされたのだ。
「姫の報告によるとその者は、スフィア様であると確認された。しかも王妃の話からすれば、我が息子、イフリードの運命の相手でもあると言う。双方とも報告の事実に間違いはないな?」
「姫の力において確かです」
「ええ、その通りですわ。我が王」
姫と王妃の肯定に、王は少し困惑気味にあごを指でさする。
「そうか。では、スフィア様には混乱を避ける為に、神器移行の儀式が終了するまではフィアと名乗り、イフリードの婚約者として王宮に滞在を願いたい。神器の移行が無事に終わった後、スフィアの身柄は本人の希望を元に話し合うということにし、その間、スフィアの世話はイフリードに一任する。スフィアの安全はもとより、すべての権限をイフリードに委ねるものとする」
王の宣言をもって天花はイフリードの婚約者として、また、スフィアとして認められた。
その決断を聞いてイフリードは困惑しきっていた。
天花の面倒を見ることに意義はないが結婚となれば別である。
結婚に対し異議を唱えたいが、いくら王の子とも言えど、そう簡単に王に意見することは出来ない。
王の言葉は決定事項なのだ。
「はい確かに承りました」
しぶしぶといった声で、イフリードが受けた。
それを横にいた天花はイフリードを不安げに見るだけだった……。
王との謁見が終了後、天花とイフリードは花金鳳花の館に来ていた。
スフィアである天花の部屋。
表向きはイフリードの婚約者としてこの部屋を与えられたことになる。
ある国の重要人物の娘、フィアリディン。
それが表向き、天花に与えられた名前。
これから天花は、イフリードの婚約者として王宮の花金鳳花の館に住むことになったのだ。
いきなりイフリードの婚約者になるという急展開についていけず、天花も戸惑いを隠せない。
「あの、ごめんなさい。私なんだか混乱して話が理解出来てないみたいなの。作った器を私が神器にするっていうのは間違いないですよね?」
「ああ」
「それが終わったら私は帰れるんじゃないの?」
物語では、主人公は役目を終えれば自動的に自分の世界に帰れた。
そんな根拠もないことから、天花は自分が異世界にいると知っても、元の世界に帰れると思い込んでいたのだ。
「違う。今まで召還されたスフィアはすべて帰ることは叶わず、そのままこの世界に留まった。唯一帰還出来たのは、エルディーア国に召還されたスフィアだけだ。だがそのスフィアもすでに帰ってしまっていてどうやって帰還したのか判らないまま。しかも記録が残っていそうなエルディーア国はすでに消滅している。こんな事は言いたくないが、今までの例を考えれば帰れないと考えた方がいいかもしれない」
「……帰れない?」
突然突きつけられた言葉に、天花はショックを隠せないようだ。
「この国にいる限りここでの生活は保障される。君は女神の娘であり大切な客人だ。……俺も出来る限り君の世話をすと約束しよう。だが俺は誰とも結婚しない」
「……つまり婚約は口約束だけってこと?」
「そうだ」
そう話すイフリードには苦悶の表情が浮かんでいた。
そんなイフリードの言葉に、飲み込みの早い天花がその後の言葉を続ける。
「俺は君の運命の相手ではない」
ぽつりと話すイフリードの顔を天花が静かに見つめる。
少し伏せられたイフリードの瞳の奥には、深い悲しみが見え隠れしていた。
王族でありながら身を固めようとしないイフリード。
天花はイフリードには何か事情があり、そのせいで苦しんでいるようにも見えた。