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現代恋愛もの

一年目の私たち

作者: 川木

 明日で一年目だ。364日前に私が告白して、拓也と付き合いだした。


 拓也とは高校生になってから出会った。何となく挨拶くらいはする関係のまま2学期を迎え、残暑どころかまだ夏じゃねって気温の中、私たちは同じ委員になった。

 なんてことない図書委員。私も拓也も本を読まないわけじゃないけど、図書室には数えるほどしか行かない。押し付けられたようなものだ。

 委員の集まりでは毎週月曜の放課後に二人で貸し出し当番をしなきゃならなくなった。


 最悪ー、だるいねー、なんて言いながら当番が始まった。

 週末に読んだのか2、3冊返しに来る人が最初に何人か来るけど、その人もすぐに借りて帰ってしまうから殆ど人が来なくて暇だ。

 本は借りないけど数人ひたすら勉強している人もいるから雑談もできなくて、私たちはとりあえず本を読んでいた。


「ん」

「?」


 差し出された紙切れに『なんかオススメの本ある?』と書いてあって、そこから私たちの筆談は始まった。

 そのどこか秘密めいた会話は楽しくて、誰もいない時も私たちはシャーペンを走らせた。

 僅かな手持ちの本を貸し借りするのに、お互いの家を訪ねた。


 そしてキスをした。


 どちらからとも言えなかった。両想いだと確信してたわけじゃないし、そもそも拓也を好きなのかすらわからなかった。

 だけど気づいたらキスをする雰囲気で、キスをしたくなって、キスをしていた。


 これが私のファーストキスで、初恋になった。


 そのあと、改めて告白されたり、告白したりして、あんなことやこんなことがあった。

 あったけど、何故かあのキスした瞬間の方がよりハッキリと覚えている。


 それから明日で、一年目だ。考えると何だかちょっと照れ臭い。

 好き好き好きと競い合うように言い合うのは、もう半年前に終わった。今では戯れに好きーと言ってもはいはいって流される。

 でもやっぱり、ふとした瞬間に、カッコイイなぁって思ったり、カワイイなぁとすら思ったりして、好きだなぁって実感する。


 だから明日はちゃんとお祝いして、デートして、誓いなんて大層なものじゃないけど来年も一緒にいようねとか、そんなことを言いたい。

 あんまり女の子らしくない、素直になれなかったり憎まれ口をきいてしまう私だけど、そんな風にちょっとは乙女っぽいイベントを期待したりするのだ。


「ねぇ、拓也」

「んー?」


 駅前のマクドの表を向いたカウンター席に隣合って座って、私は拓也に声をかけるけど何だかつれない返事だ。


「明日だけどさ」

「うん…」


 拓也の視線を追って、ガラスの向こうの表通りに目をやる。

 ぼいんばいんでびぃなお姉さんが歩いていた。


「……」

「ん? ああ、悪い。なんの話だっけ?」

「…もういい」

「ん? なんだよ。機嫌なおせって、な?」


 頬を膨らませる私に拓也は苦笑して、ごまかすように頭を撫でてくる。

 なんで私が機嫌悪いかなんてわからないくせに。ずるいやつ。とりあえずご機嫌とりしとけばいいって思ってるんだ。


「もう、ばーか」

「はいはい、悪かったよ」


 あしらわれてるってわかってるのに、ごまかされてしまう単純な私。


 世の中にはコトダマってものがある。言葉には力があって、ただ思うだけじゃなく声に出すことで力を持つって考え方。


「ねぇ、私のこと好き?」

「ばか、何言ってんだよ」

「好きって言ってよ」

「…好きだ。これでいいだろ? もう行こうぜ」


 外だからか恥ずかしがりながらも、拓也はちゃんと言ってくれた。

 好きだって言われただけで、ちょっと幸せな気分になる。だからコトダマってあると思う。


 だからね、明日は特別な日にしたいの。大好きだよって伝えて、もっともっと拓也と心を近づけたいの。

 こんなこと思うの、私の柄じゃないかな。でもほんとにね、拓也に好きって言う度に、心から拓也を好きになっていってるんだよ。

 拓也にはわかんないかも知れないけどね。


「ふふ、私も好きだよっ」


 私はトレーを手に立ち上がる拓也の腕に寄り添いながら、そっと気持ちを伝えた。


「はいはい」


 冗談みたいに言ってるけどさ、ほんとは結構ドキドキしてるんだよ?

 拓也は余裕に流しちゃうから、わかんないんだろうけどさ。


 でも、そんな苦笑気味の、余裕な顔も声も好きだから、敵わないなぁとか思っちゃうんだよね。









 とりあえず明日のデートの約束は取り付けたけど、拓也は用があるからなんて言って途中で帰った。

 私も明日のプレゼントとケーキでも買うつもりだったから、ちょうどいいっちゃいいんだけど、なんかやだ。

 デートを途中でやめるなんてどんな用よ。気になる。浮気じゃないでしょうね。

 そりゃ、デートって言っても学校帰りにぶらぶらするだけで毎日のようにしてるし、ゲームやるからって帰ったこともあるけどさ。明日で一年目なのにつれない。


 どうせ、拓也は明日が一年目だなんて覚えてないんだろうな。


 ま、いいや。朴念仁めと思うけど、多少そういうとこあった方が浮気の心配いらないしね。

 明日は私がちゃんと準備して、お祝いしようって言えば拓也ものってくれるでしょ。…えへへ。


 明日が楽しみでるんるん気分なまま、私はお店に入る。


「すみません、予約していた木山ですけど」

「ああ、はいはい。できてますよ、ほい、確認して」

「はーい」


 シルバーアクセのこの店はお手頃な値段で、名前入れも安くやってくれる。

 明日のために予約しておいたのは、ペアのリング。名前をいれてもらって、今日できた。


「はい、ありがとうございます」


 清算して店を出る。プレゼント用の簡単なラッピングをしてもらった。拓也は喜んでくれるだろうか。


 拓也はあんまりアクセサリーは好きじゃない。ちゃらちゃらするのは男らしくない、というよりつけたりはずしたりメンドイってタイプ。

 でも、やっぱり特別な日には特別な意味をこめて、特別なモノをプレゼントしたい。それにはやっぱり指輪でしょ。


 それからケーキ屋に行く。

 ホール買いたいなぁとは思うけど、二人で食べ切れないし、好みも違うから梨のタルトとチョコレートケーキのカットを一つずつ買った。

 最近の私はタルトが好き。私は結構好みがころころ変わる。ケーキだけでも苺ショートこそ至高と思ったり、やっぱチーズケーキとか言ったり、通はレアチーズケーキと悦に入ったりしてた。それに対して拓也は小さい時からチョコレートケーキ一筋らしい。

 保守的と思わないでもないけど、そういう一途なとこも好きだ。


 鼻歌なんか歌いながら家に帰り、箱に名前を書いて冷蔵庫にケーキを入れた。


 明日が楽しみだ。









「今日はうち来てよ」

「ん? え? なんで?」


サプライズ的な意味もこめて昨日はデートとしか行ってないので、普通にぶらぶらするとでも思ってたのか普通に聞き返された。


「え、なんでって言うか……私の部屋で自宅デートじゃダメ?」

「ダメってわけじゃないけど…わーったよ。んじゃ一回家帰るから先帰ってろ」

「え?」

「着替えてから行くから」

「わ、わかった」


 拓也の家にはちょいちょい行ってたけど、私の部屋にはめったに招かない。だから不思議がられたんだろうけど、なんで一回帰るの? んー………私の部屋だし、着替える必要ないし…ま、いいか。


「んじゃ、待ってるね」


 そのまま別れて帰宅。昨日のうちに片付けはしてある。ゴムもある。万全だ。

 あ、そうだ。折角時間が出来たんだからシャワー浴びておこう。拓也が私服なら私も私服にならなきゃ。


 30分かけて身支度を済ませるとちょうどピンポーンとドアベルがなった。


「はいはーい、いらっしゃい、拓也」

「おう…後で出かけんの?」

「え? なんで?」

「家ではいつもジャージつってたじゃん」

「いや、拓也来るのにわざわざジャージになるわけないじゃん。制服のままなのも不自然だしね」

「ふぅん」

「とりあえずあがっといて。ジュース持ってくから」

「おう」


 確かに家着にしてはちょっと不自然なくらいにオシャレしたけど、気づくとは。……てゆーか、気づいたなら褒めなさいよ、馬鹿。新しい服なのに。


 ……まあ仕方ないか、拓也だもんね。折角の記念日にへそまげても仕方ない。私は気を取り直して、ジュースをいれてお盆にのせて自室に向かう。


「開けてー」

「はいよ」


 ドアを開けてもらって部屋に入る。


「お待たせ」

「ん。そういえばさ」

「んー? なに?」

「…その服、見たことないけど、似合ってるぞ」

「そ、そう。うん、新しいのなんだ」


 褒めてくれた! やばい。めっちゃ嬉しいっ。拓也がそんな気のきいたこというのめっちゃ久しぶり! 思わず言っちゃうくらい似合ってた!? やった、嬉しいなー。えへへへへへ。


 私はにやけそうなのを堪えて微笑みながら、お盆を部屋の丸テーブルに置いて机を挟んで拓也の向かいに座る。


「ねぇ拓也」

「なんだ?」

「今日、何の日か覚えてる?」

「は、お前覚えてたの?」

「え?」

「え?」


 …覚えてたの?

 ぱちぱち瞬きしながらしばらく見つめ合い、確認のため口を開く。


「付き合って一年目って、覚えてた?」

「てかお前が覚えてる方が意外だっての。ずぼらな性格なのに」

「ずぼらと記憶力は関係ないでしょ!」


 怒ったように言いながら、覚えていてくれたという事実に頬がゆるむのが抑えられない。

 期待してなかっただけに覚えていてくれたなんてめちゃくちゃ嬉しい!


「あのさ、私、実はケーキとプレゼント用意してるんだ。一緒にお祝いしてくれる?」

「まじかよ」

「…え、い、嫌なわけ?」

「そうじゃなくて…俺も用意してんだけど。プレゼントはともかくケーキダブってんじゃん」

「え!? 用意、してくれたの?」

「…悪いかよ。お前が忘れてるだろうから仕方なくだからな」

「う…嬉しいよ。悪くなんかない。覚えてくれて嬉しい…し、プレゼントとか、マジ嬉しい」


 素直に嬉しいと言うのは少し照れたけど、今日という日にあえて意地をはるのもどうかと思ったし、照れながらも拓也も言ってくれてるのだから、素直になることにした。


「私、ケーキとってくる!」


 プレゼントしてからと思って目立つケーキ箱はまだ冷蔵庫だ。私は慌てて部屋を出てケーキを手に戻った。


「お待たせ!」

「だから、俺のあんだからいいっつの。家族で食えよ」

「いいの! 二つくらい食べられるでしょ」

「俺はいいけど…お前ダイエットは?」

「今日はお休み! 明日から!」

「はいはい。何買ったんだ?」

「チョコと梨タルト」

「くそ、モロかぶった。俺は梨タルトとチーズケーキ」


 私がケーキを出すと拓也が舌打ちしながら鞄からケーキ箱を出した。同じお店のだった。


「もしかして今日買った?」

「いや、家に呼ぶつもりだったから昨日だ。別れてすぐケーキ屋行った」

「なるほど。すれ違ってたか」


 一歩間違えばケーキ屋で顔を合わせてたわけだ。危ない危ない。……それはそれで問題ないか。


「って、あれ? 拓也何でチョコレートケーキ買ってないの?」

「…お前の好みはころころ変わってわかりにくいんだよ」


 ん? んん? ……つまり、私の好みそうなの二つ買って余った方食べるつもりだったってこと?

 うわー! 拓也私のことめちゃくちゃ好きじゃん! 知ってたけど! 知ってたけど! 知ってたけどー!!!


「ありがと。なら拓也は私の買ったの食べて。私は拓也の二つもらうから」

「おう」

「いただきまーす。お、梨タルトうまっ。そいや、タルトはまってるって言ったっけ?」

「いや。ただ限定だったし。お前限定に弱いだろ」

「う…まあ、ね」

「ん、タルトも結構うまいな」

「でしょ?」

「なんでお前が自慢げなんだよ」


 ケーキ食べて、いよいよプレゼントタイムでーす!


「はい拓也、プレゼントでーす」

「おう。俺も用意してるぞ。…ん?」

「あ…」


 ちょ、お……プレゼントの包装紙同じとか、どんだけ被ってんの。


「……ちなみにブツは?」

「ネックレス」

「セーフ! 私指輪だぁ」


 ほ。これがダブってたらさすがに笑えない。

 私と同時に拓也もほっとしたように笑う。大きさ違うから指輪じゃないとは思ったけど、袋同じだしマジびびった。


「同じ店とか、どんだけ田舎だっつーの、なぁ」

「だよねぇ」


 大都会ではないけど、アクセサリー買うにしてもいくらでも選択肢ある町でなんて被り率だ。ある意味気があうのか。


「ほれ、プレゼント。大事にしろよ」

「ありがとー」


 チャームは二つをくっつけるとハート模様になるやつだ。赤いちっちゃい石がついてる。シンプルだけど悪くない。


「はい、私からはこれね」

「指輪ねー…ふーん、悪くないな」

「でしょ。ちゃんと左手薬指につけてよね」

「だが断る」

「へ?」

「こーやって、ネックレスにプラスしよう。名前入りだしちょうどいい」

「ちょっとちょっと!? 何でつけないのよ!?」


 チェーンに通してネックレスのチャームにしようとする拓也に全力で突っ込む。


「指にはめるとうざくね?」

「酷い!」


 拓也とお揃いの指輪にしたかったのに! 恋人なんだからペアリングが基本なのに! むしろずっと憧れてたのに!


 言いたい文句はたくさんあったけど、拓也がどうも思ってないのに私だけ指輪指輪とこだわってるとは、何だか言いづらい。


「……」

「…わかったわかった。つけりゃいいんだろうが」

「……ほんとに?」


 じっと見てると拓也は視線を泳がせてから、指輪をはずして今度こそ指につけた。もちろん、左手薬指だ。


「でも、これって結婚専用じゃねぇの?」

「そんなことないよ。ステディがいますって証なんだから」

「ステディって…お前はいつの人間だよ」

「うっさい。さて、私も-」

「ストップ」

「え? なに?」

「俺はつけるけど、お前は首な」

「は?」


 拓也は私の指輪をとると、私のネックレスにプラスした。


「つけるぞ」


 つけられた。つけてもらうのは初めてで悪くない……けどちょっと待って。何で? 私もつけなきゃペアの意味ないじゃん?


「なに? なんなの?」

「何だよ。俺のプレゼント気にいらないか?」

「き、気にいらなくはないけど……いや、やっぱりおかしい。ちゃんと理由がなきゃ納得できない」

「…お前さ、空しくねぇの?」

「え?」


 急に真顔になった拓也にびっくりする。


「左手薬指につける初めての指輪が自分で買ったものとか、空しくねぇの?」

「は……は? いや、別に」


 てか、そんな気にするほどでもないし。恋人でつけるのには憧れたけど、薬指に指輪自体はたまにはめてるし。そこしかサイズ合わないのがあるんだよね。


「とにかく、薬指は空けとけ。…そのうち、俺が買ってやるから」

「え!? マジで!? いつ!?」

「…大人になったらな」

「……はぁ?」


 ど、どういう意味?


 1.そのうちの変化形で特に意味はない。単なるごまかし。

 2.そのまま。大人になっても付き合ってる予定で、結婚的なアレをくれる。


 普通は1だけど……それだと、私が今指輪をするのをとめるのはおかしい。つまり……2?


「た、拓也…マジで言ってる?」

「…何だよその反応は。嫌なのかよ」

「う、ううん! 嫌じゃない!」

「…なら、指輪つけんなよ」

「つけないつけない! 絶対つけない!」


 もう薬指しか合わない指輪は捨てる! 絶対つけない!


「……ふふふふ」

「気色悪い笑い方すんな」

「またまた、そんな言い方しちゃってー。私のこと大好きなくせに」


 ふん、と鼻をならしてそっぽを向いた拓也に私は微笑む。

 照れて黙っちゃって、可愛いんだ。


 これが絶対の約束になる保障なんてないけど、それでも私といつまでも一緒にいたいて思ってくれていた。

 それが私はとても嬉しくて、拓也を好きになってよかったと心から思った。拓也と恋人になれた私は、きっと世界一幸せだ。

 来年も再来年もずっと一緒にいれるようにと願いをこめて、私は言う。


「私も拓也が大好きだよ」

「はいはい」


 拓也はちょっとだけ笑った。












読んでくれてありがとうございました。


思い込み激しくて隠し事できないタイプなのに隠せてると思ってる女の子と、ぶっきらぼうで一途な男の子の話だと思う。

ノリで書いたから微妙にキャラができてない。


ちなみに『びぃ』=美人の意味。

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