きらきら光、夜の、星。
ここはどこだろう…?
気が付けば私は1人ぽつんと暗闇の中に立っていた。
だぁれもいない、なぁんにもない。
ここはどこ?私は誰?
何も思い出せないけど、とてもとても怖いという気持ちだけは残っている。
怖い、怖い、だけど何が怖いかわからない。
ここにいちゃいけない。動かないと。
漸く私は足を踏み出した。
最初はそろりと、そしてだんだんと早く。
すると背後からキィー…バンッ!と、機械的な音が聞こえた。
ヒッッ!
その音を聞いた瞬間私は走り出していた。
いや、いや、いや、いや!!
あの音は嫌い、あの音は怖い、あの音は危険…。
やみくもに走った。
私はどこに向かっているのだろう…
どこへ走っているのだろう…
わからないのにわかってる気がする、私のむかう場所、私の帰る場所。
走って走って走っていたら光りが見えてきた。
私の光、私の帰る所。
そして辿り着いたのは大きな白いお家。
ここだ!ここに帰りたかった!私のお家だ!
その白いお家を見てだんだんと『きおく』を思い出してきた。
ここに私の大切な家族がいる。
おとうさん、おかあさん、ゆうたくん、ちはるちゃん…私の大好きなかぞく。
気持ちが急いて足がもつれそうになりながら家の中へと入っていくと、家の中から楽しそうな声がした。
私の大好きな『かぞく』の声がする。
みんな!みんな!私は帰ってきたよ!おうちに帰ってきたよ!
みんながいつも集まってた『りびんぐ』へと急ぐ。
そのりびんぐに入れば、やはりかぞく皆がそろっていた。
あぁ…みんな、やっと会えた…ごめんね待たせて。
だが誰もこちらへは振り返らない。
何で?私、帰ってきたんだよ?どうして見てくれないの??
かぞくに近付いてみればその中心には白くてふわふわしたとても小さな生き物がいた。
私はじっと、そのふわふわした生き物を見つめた。
そのふわふわした生き物は元気よく飛びはねかぞくの周りを走り回り時にはかぞくに飛び乗りペロペロと顔をなめている。
「きゃあ、やだぁ、顔なめたよ~」
「あら、ちはるに懐いてるじゃない」
「ずるい!マロンこっちにもおいでっ」
「ははっ、父さんの所にきたぞ、こいつわかってるな~」
かぞくの楽しそうな会話が聞こえる。
まろん…?その白くてふわふわした小さな生き物はまろんって言うの?でも、そこは………
『私の居場所……だよね……?』
その時頭の中に突然たくさんの記憶が甦ってきて立っていられずに倒れてしまう。
『おいで、アンコ』
『アンコって名前変だよー、もっと格好良いのにしよーよー』
『あら、アンコ、可愛いじゃない。お母さん気に入ったわ』
『アンコか、何か美味しそうだな』
これは、一番最初のきおく。
『アンコー、お誕生日おめでとう!』
『今日は特別に犬用ケーキ買ったのよ』
『何それ!僕も食べたい!』
『最近の犬は贅沢だな~俺の誕生日にはケーキなんてないぞ…』
一歳の誕生日のきおく。
『アンコ~、ほら怖がらないで!こっちおいで』
『アンコ怖がってるじゃない』
『こんなに綺麗なのになぁ、変なの』
『線香花火なら大丈夫じゃないか?』
庭でみんなではなびというものをやったきおく。
『アンコ~、私失恋しちゃったよ~うぅ…』
『クゥン…ペロッ』
『アンコ慰めてくれるの…?ありがとう…アンコ大好きだよ~』
ちはるちゃんがはじめてしつれんしたって泣いてたきおく。大好きっていってもらえて嬉しかった。
『はぁ…お父さんは飲み会、ゆうたは友達と遊びにいって、ちはるは新しい彼氏とお出かけ…私だけ家で家事…何か疲れちゃった』
『ワン!クゥン...』
『何アンコ?遊びたいの?』
『ワン!ワン!』
『ふふ、あんたはお気楽でいいわね。何か気が抜けちゃった、ありがとねアンコ』
おかあさん、が悩んで落ち込んでたきおく。
『やばい…どうしよう…もうすぐ時間だ。落ちてたらどうしよう…』
『─────』
『う、受かってる!!!やったっ!!』
『ワン!ワン!』
『アンコ!やったぞ!受かってたー』
しかくいやつを見ながらゆうたくんが喜んでたきおく。
ゆうたくんが笑顔で私もすごく嬉しかったなぁ。
『ただいまー…て、もうみんな寝てるか…はぁ』
『クゥン、ワフッ』
『お!?アンコ!』
『クゥン、ペロッ』
『疲れて遅く帰って来て出迎えてくれるのはオマエだけだな、ははっ』
おとうさん、にお帰りって言ったきおく。
だが、時間が経てば経つほど『かぞく』は私に関心をしめさなくなった。
カシャン。
何も言わずに置かれるご飯。
毎日行ってくれてた散歩もなくなった。
誰も声をかけてくれなくなった。
時が経ち私は上手く歩けなくなってしまった。
目も霞んでよく見えない。
歯が弱り固いカリカリがちゃんと噛めなくてご飯もほとんど食べれなくなった。
ペットシートがよく見えずに粗相をすればみなに嫌な顔をされるようになった。
『きったねぇなぁ!』
『もー、アンコやだぁ~』
『そこらじゅうにやるんだもの、本当に困るわね』
『おいっ!家の中が臭い!どうにかしろよっ』
ごめんね、ごめんね、くさくてごめんね、めいわくかけてごめんね、どうしたらよろこんでもらえる?
またわらってもらえる?
そうだ!
昔これをしたらよろこんでくれた…
私はふらつく足でちはるちゃんの所まで行きペロリと頬をなめた。
『ちょっ!!!やだっ!くさっ』
ドンッッ!
ちはるちゃんは私を強く押した。
足が弱ってた私は床に派手に転がる。
いたい、いたいよぉ…。
足が激痛で全く動かせなくなってしまった。
どうしよう、これじゃあおといれいけないよ…
がまんして、がまんしてがまんしたが限界が来てその場にもらしてしまう。
『あーーー!こいつ!やりやがった!』
『もー!やだこの犬、なんとかしてよっ』
『マジでくせーわ』
そしておとうさん、が言った。
『もう、処分…するか?』
かぞくは誰も何も言わなかったが、言わない事が同意だった。
それから数日がたって、私は小さな箱の中に詰め込まれた。箱の中は真っ暗で何も見えない。ガタガタと揺れかぞくとは違う声がする。
そしてかぞくの声もにおいもしなくなった。
みんなはどこ?私のかぞく、私の大好きなかぞく。
私を置いていかないで、みんなと一緒にいたいの。
めいわくかけないからお願い、私をすてないで。
お願い。お願い。お願い……。
『ワン!』
マロンの声で私は我に返る。
私の居場所はもうここにないんだ…。
私の目からポロポロとたくさんの水がこぼれ落ちる。
生きている時には流せなかったもの。
私の苦しみ悲しみがどんどんと流れ落ちていく。
そして私は光りの玉となり静かに消えていった。
さようなら、私の大好きなかぞく。
さようなら、私の大切なひとたち。
『あなたはまたこの星に生まれたいですか?
辛い思い、悲しい思い、苦しい思いをしたこの星に生まれたいですか?』
私は、私は…
もう…あんなにかなしい思いはしたくないです…
つらい思いもしたくないです…
でも、でも、私を、私を心から愛してくれるかぞくに会いたいです……。愛し愛されたいです…。
だから、またあの星に生まれたいです。
『…そうですか、ならばあなたに新たな生を与えます。そして、みつけなさい。あなただけの愛を』
私はまた小さな光りとなり星へと帰って行った。
私のかぞく、私の愛する人がみつかりますように。
『うちでさ子犬生まれちゃって困ってんだよねー、りな1匹もらってくんない?』
『は…?生まれちゃったって、生ませる気がないのに避妊とか去勢手術してないの?』
『ちょっと!そんなの可哀想じゃん!人間のエゴだよそれ』
『あんたさ…責任も持てないのに生ませる方がおかしくない?引き取り手がない子犬はどうするの?それでまた生まれたら?マジであんた生き物飼う資格ないよ』
『は???オマエマジでむかつくんだけど』
『ムカつくのこっち。最後まで責任持てないなら最初から飼うな!!』
『キュゥンン…』
『お、初めまして。私があんたの飼い主になるりなだよ、これから宜しくっ』
『………』
『ありゃ、人見知りちゃんかな?』
『………クゥン…』
『いいんだよ、ゆっくり仲良くなろうぜ~』
私のかいぬし…
この人を好きになれるのかな?
なんて、思ったりしたけどりなの事を大好きになるのはあっという間だった。
だって、心から私を愛してくれたんだもん。
たくさんの愛情をくれた、私だけのかぞく。
優しくてあたたかな、りな。
それから十数年、私はまたこの星を旅立とうとしていた。
◇◇◇
『キラ…どう?体調は、辛い所はない?』
私はすでに食欲もなくなりほとんど寝たきりになっていた。あの時と同じだ。だがあの時とは全然違う。
りなは優しく私を抱き締めてくれる。
『キラ、キラ大好きだよ。ずっと私と一緒にいてくれてありがとう…』
りなはさするように私の体をなでてくれる。
とても、とても心地が好い…。
大好きな人に抱き締められて、撫でてもらえるなんて…なんてなんて幸せなんだろう。
『キラ、聞いて。やっとね動物のシェルターを設立出来る目処が立ったの…沢山の人の協力で、やっとやっと…』
りなの瞳からポツリと涙がこぼれ落ちた。
『あなたのおかげなの。キラが私に慈しむ心を、愛する心を教えてくれたから頑張れたんだよ…。苦しんでる動物達を1匹でも多く救う。救いたい…必ず、約束するよ』
私は最後の力を振り絞ってりなの手をペロリとなめた。
ありがとう、りな。
たくさん、たくさん愛してくれてありがとう。
たくさん、たくさん、愛させてくれてありがとう。
『キラ…!!キラ!キラ!!大好きだよ、私のキラ。また必ず私の所へ戻っておいで…ずっと待ってるからね…愛してるよ』
さようなら、りな。
さようなら、美しい星。
私の魂は幾多の星が輝く美しい夜空へと消えていった。
さようなら、いつかまた会えるその日まで………。




