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善意の所在  作者: 普通
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第7章 選べない

 翌朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。


 理由はなかった。

 眠りが終わった、という感覚だけがあった。


 カーテンを開けると、空は白かった。

 天気予報は見なかった。


 朝食を作る気は起きず、

 冷蔵庫から水を出して飲んだ。


 仕事の連絡が、いくつか届いている。

 返信を求めるものもあった。


 画面を見つめてから、

 端末を伏せた。


 急ぎではない。

 誰かが困るわけでもない。


 そう判断すること自体が、

 少し重かった。


 昼過ぎに、外へ出た。

 目的はなかった。


 交差点で、信号が点滅している。

 渡るか、待つか。


 立ち止まったまま、

 赤に変わるのを見送った。


 次の青も、見送った。


 誰かが横を通り過ぎる。

 私を避けるように。


 それでよかった。


 店に入っても、同じだった。

 棚の前で、商品を手に取る。


 元の場所に戻す。


 価格でも、品質でもない。

 選ぶ理由が、見つからなかった。


 店員が声をかけてきたが、

 首を振るだけで済ませた。


 何も買わずに、店を出た。


 公園のベンチに座る。

 子どもが走っている。


 転びそうになるのを見て、

 一瞬、体が動きかけた。


 でも、止まった。


 助けるべきか。

 余計なことか。


 その判断をすることが、

 怖かった。


 子どもは転ばず、

 そのまま走っていった。


 私は、何もしなかった。


 夕方、電話が鳴った。

 家族からだった。


「最近、どう?」


 問いは軽かった。

 答えも、軽くした。


「問題ないよ」


 嘘ではなかった。

 問題が発生していないだけだ。


 電話を切ったあと、

 胸の奥に、わずかな圧が残った。


 夜、ニュースを見る。

 別の事故の報道。


 判断の結果、救助が遅れたという。


 コメンテーターが言う。

 「難しい判断だった」


 私は、音量を下げた。


 誰かが判断する。

 誰かが説明する。


 誰かが納得する。


 その輪の中に、

 自分が戻る気はしなかった。


 ベッドに横になり、

 天井を見る。


 選ばなければ、

 間違えない。


 間違えなければ、

 奪わない。


 そう思ったところで、

 ようやく、少し息ができた。


 眠りに落ちる直前、

 ひとつだけ気づいた。


 選ばないという選択が、

 すでに何かを、選んでいることに。


 でも、その意味を考える前に、

 意識は途切れた。

ありがとうございました。

感想をいただけるとありがたいです。

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