第5章 正しい判断
呼び出しは、書面で届いた。
白い封筒で、差出人は市の名前だった。
中には、説明会の案内と、事故に関する報告書の概要が入っている。
日時は平日の午後だった。
出席は任意と書かれている。
私は予定を確認し、出席の連絡を入れた。
会場は市役所の会議室だった。
机がコの字に並び、中央は空いている。
同じ事故に関係する家族が、数名座っていた。
顔を知っている人はいなかった。
正面に、三人並んでいる。
説明担当、技術責任者、記録係。
最初に、事故の経緯が説明された。
次に、救助判断の流れ。
時刻が並ぶ。
入力、解析、優先順位、出動。
画面には図が出ている。
二つの現場が表示され、線で結ばれている。
「当時、同時刻に二件の重大事案が発生しました」
声は落ち着いていた。
「人的資源と搬送手段の制約から、システムは総合的に判断を行いました」
総合的、という言葉が使われた。
生存確率。
被害拡大の可能性。
二次災害の危険。
説明は順序立てられている。
曖昧な部分はなかった。
「結果として、多数の救助が可能となりました」
数字が示される。
助かった人数。
誰かが質問をした。
なぜもう少し早く判断できなかったのか。
技術責任者が答える。
入力情報の確定に数秒の差があったこと。
誤情報を排除する工程が必要だったこと。
私は資料を見ていた。
線は交差せず、矢印は一方向だった。
質疑のあと、個別の時間が設けられた。
順番に呼ばれる。
部屋に入ると、椅子が二つ向かい合っている。
担当者が頭を下げた。
「大変、申し訳ありませんでした」
その言葉は、形式ではなかった。
声は震えていないが、目は逸らさなかった。
私は座ったまま、資料を受け取る。
「今回の判断について、ご説明は以上です。ご不明点があれば、何でも」
私は首を振った。
聞きたいことは、特に浮かばなかった。
「……仕方なかったんだと思います」
自分の声は、思ったより平らだった。
担当者は一瞬だけ表情を変え、それから深くうなずいた。
「そう言っていただけると……」
その続きを、私は聞かなかった。
署名を求められた書類に目を通す。
内容確認の欄に、名前を書く。
部屋を出ると、廊下は静かだった。
他の家族と目が合うことはなかった。
外は曇っていた。
風は弱い。
建物の階段を下りながら、私は考えなかった。
判断の是非も、数字の意味も。
誰かが迷わなかった。
その結果が、ここにある。
それ以上のことは、浮かばなかった。
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