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善意の所在  作者: 普通
3/10

第3章 同時刻

 最初に知ったのは、帰宅してからだった。


 テレビはつけっぱなしにしていたが、音は小さくしていた。画面の端に、赤い帯が出る。速報という文字だけが目に入った。


 集合住宅で事故。

 詳しい状況は調査中。


 私はリモコンを手に取ったが、音量は上げなかった。

 画面では、建物の外観が映っている。遠くから撮られた映像で、壊れた部分はよく分からない。


 テロップが切り替わり、時刻が表示される。

 発生は、数時間前だった。


 その時間、私は病院にいた。

 待合室で番号を見て、呼ばれて、診察を受けていた。


 ニュースは、すぐに別の話題に移った。

 天気、為替、スポーツ。


 私は夕食の準備を続けた。

 包丁で野菜を切る。音は一定だった。


 そのあとで、スマートフォンが鳴った。

 知らない番号だった。


「お近くで事故が発生しています」


 自動音声だった。

 必要な情報は、すでに画面に表示されているという。


 私は通話を切り、通知を確認した。

 避難指示は出ていない。行動の必要もない。


 数分後、今度は別の通知が来た。

 交通事故による渋滞の知らせ。


 場所は、少し離れている。

 通る予定の道ではなかった。


 同時刻、という言葉が頭に浮かんだ。

 何かと何かが、同時に起きている。


 それだけの意味だった。


 夜になって、詳細が出始めた。

 集合住宅の倒壊。複数の負傷者。救助活動中。


 画面には、救急車と作業員の姿が映る。

 人の顔は、はっきりとは映らない。


 私は食事を済ませ、食器を洗った。

 水を止めると、部屋は静かになる。


 机の上に置いたスマートフォンが、また震えた。

 今度は、知っている名前だった。


「大丈夫?」


 短いメッセージだった。

 誰に向けたものなのか、一瞬考えた。


 「うちは大丈夫」と返す。

 それで会話は終わった。


 深夜、目が覚めた。

 喉が渇いて、水を飲む。


 そのとき、画面に新しい表示が出た。

 救助の進捗。対応状況。優先度。


 専門用語が多く、全部は理解できない。

 ただ、作業が続いていることだけは分かった。


 翌朝、ニュースは続報を出していた。

 倒壊の原因は調査中。

 救助は段階的に行われている。


 同じ画面の下に、別の事故が表示される。

 交通事故。一名重体。


 時刻を見ると、ほぼ重なっていた。


 私は画面を消した。

 出勤の支度をする。


 その時間、誰かが判断していた。

 私ではない誰かが。


 私は、何も選んでいなかった。

ありがとうございました。

感想をいただけるとありがたいです。

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