鳥頭
「どうしたの?皆さん。」後ろから清子も入ってきた。
しかし、化粧や香水の匂いじゃない!動物園の匂いが辺り一面に立ち込める。獣臭だ!
「大変よ!リーダーと本部役員まで5人一気に心不全で昨夜亡くなったって!どうしょう!もう、学童終わりだわ。
こんなんで、子供達預かれないわ!
もうすぐ子供達が下校して来るけど、どうしたら良いの?」気が強い聖子さんもオロオロしてる。
「大丈夫よ!私が今日からリーダーやるから。
皆さん、私の言う事をしっかり聞いて、ちゃんとルールを守ってくれれば、リーダーも本部役員も要らないんだから。
ササッ、早く掃除よ!
モップは必ず2度拭きよ!そう昔から決まってるんだから!」清子さんはいつもと同じ動きをする。
明らか…変だ。おかしい。
母のミキも聖子も恭子も唖然として沈黙する。
リーダーは正社員だからパートやバイトとは違うのだ。清子さんだって、それくらい分かっているはずだ。
そして、辺りに漂う獣臭…
来た子供達も臭い臭いと言っていたが、誰も清子さんに近づかない。
友美は、昨夜のニワトリのような動きをする清子さんを思い出す。
今も歩き方も顔を突きだしてお尻を引いて両手を前に出して手首を折り曲げて歩く。
首をキュキュと突然右左にグイッと回すので子供で泣き出す子までいる。
確かに大人が見ても怖いのだ。
聖子さんが本部スタッフと連絡を取り合い、何とか東山学童を閉鎖するよう頼んでいるが、そうするとサナトリウム病院も止まってしまう。
無理なのだ。
受付へ清子が来た。
「どうしたの?リーダー遅いわね〜施設長も。
淀川さんはどうしたの?」と質問してきた。
聖子も恭子も友美もゾッとする。
清子さんが全て忘れているのだ。最近の事件を。
まるで鳥頭だ!(鳥は三歩歩くと全部忘れると言う俗説)
そこにまた電話が来る。
「清子さん、危篤だった義母さんがさっき亡くなられたそうよ。もう帰って良いから…」言われて清子が視点の合わない目でニヤッとして玄関から出て行った。
頭を前後に振りながら…
「何?あれ?怖いんだけど…」聖子がやっと口を開いた。
話し合いの結果、他の学童からサポートが明日から3名来ることになった。
「明日ここが始まる前にリーダーのお家に私とミキさんが様子聞きに行って来るわ。本当に訳が分からない。」聖子さんが頭を抱えて突っ伏し母のミキが肩をさする。
恭子と友美で必死で子供の世話をした。
一応5年と3年のキャリアの母と聖子さんで本部へ今から行きリーダーの仕事も山科の学童のリーダーに引き継ぐ事になった。
しばらく2人は毎日出勤しサポートさん達に指導をし、土日はサナトリウムに親が子供を連れて出勤し、
山科から施設長が迎えに来て山科の学童で保育する事になった。
土日は2.3人なので、何とか山科の学童で見てもらえることに。
母と聖子さんが疲れた顔で出掛けたので学童は恭子さんが閉め方を聞いて友美と2人で締めることになった。
「何だか大変な事になりましたね。私もヘトヘトです。」いつもは4人以上でもやってた仕事を2人でやったのだ。もうヘトヘトだ。
玄関扉が開いたので、恭子さんは「有間さん?」と声を掛けたが、立っていたのは清子さんだった。
目をギラギラとギラつかせて。
もう人間とすら思えない様子で…
「何でよ?やっとお義母さんも亡くなって、やっと自由に普通の嫁になれると思ったのに!
屋敷を売るって!離婚だって!
手切れ金1000万やるからって!
私のこの10年をなんだと思ってるのよ!
バカにするんじゃないわよーーーーーッ!」清子さんが唸っている。
とうとう屋敷を売る事になったのだ。
清子さんが結婚する前から決まっていた事だ。
700坪もある屋敷と庭を維持するには年間1000万は掛かる。そんなムダ金をいつまでも払う理由無いのだ。
お義母さんの為に維持してたのだ。
聞かれなければ話す義理も無いのだ。
騙された訳じゃない。
聞かれなかったので答えなかったのだ。
金持ちの世界では結婚は契約なのだ。
アラサー派遣で実家暮らしで焦った清子さんが玉の輿と浮かれて調べなかったのが問題なのだ。
「清子さん!ココは学童なんです!
アナタのストレス発散する場所じゃないんです!
旦那さんに文句言いなさいよ!
出て行って下さい!」恭子さんが友美を庇うように前に出た。
なぜか受付横に置かれてる竹刀を握ってる。
イザの為に置かれているのだ。
「知るか!学童なんで貧乏な働かなきゃいけない女が子供預ける所なんか!
私のツバ吐くだけに存在するのよ!
私は選ばれた女なの!働かなくても良い女なのよ!」
まだ玉の輿婚の妄想から覚めてないのか?
「バカね!専業主婦なんて家の仕事をタダ働きさせる男の悪知恵だよ!
本当に感謝して大事だと思ったら、相続権を奥さん自身に付けるでしょ?
分かれよ?それくらい。」いつもの恭子さんじゃない!
これが本当の恭子さんなの?




