変容
「こんばんわ〜」と最後の子が引き取られて帰ったので帰宅準備してると玄関に人が立っていた。
友美はビックリして立ち尽くす。
幼い頃、保育園の帰り道、もうすぐ入る小学校の校庭を眺めてると綺麗なお兄さんに声掛けられた。
「この小学校入るの?」と聞かれて「うん、春になったら入るの!」と答えたらすごく綺麗な微笑みを返してくれたのだ。
幼心にもその笑顔が刻み込まれた人が!
いくらか年を経て目も前に立っていた。
「まあ、有間さん!わざわざ迎えに来て下さったんですか?」恭子さんが驚いている。
「エッ、エッ、知り合いですか?」友美が聞く。
「はい、同居人の方です。夫とかではありませんよ!
あくまで同居人です。」なぜか強く念を押す。
「うわっ、ヤダ!同棲?いい歳でえ〜」と間髪入れず清子さんが嫌みを言う。
「下世話な人が居ますね…ああ、あの人が清子さんですね。
家にも警察から素性を聞かれた人だ。」有間も遠回しに嫌みを言う。
清子さんを名指しでは無かったはずだが…ワザとか?
友美は、美しい天女のようなお兄さんもちゃんと人間なんだなと思い知る。
バイクの音がして頼政も入ってきた。
「うわっ、本当に迎えに来たの?」友美がしかめっ面をする。
「オイッ!お母さんが本当に心配してるのに!
来てやったんだから感謝しろよ!全く!」頼政がヘルメットを投げつける。
「あ〜っ、ハイハイ!皆さん、お熱いですね〜
裏門は私が閉めますから!サッサと帰って下さいな!」と清子さんに追い出された。
「ハァッ、どいつこいつも!好き勝手に生きて!
私は世間から後ろ指刺されないように、ちゃんと生きてるのよ!
なんで、イライラして生きなきゃいけないの?
アイツらでしょ?世間にとやかく言われなきゃいけないのは?
結婚もしてない男と同居?(恭子)
親も一緒に住んでるのに男と同居?(友美)
呆れるわ!全く!」学童はセキュリティが入ってるので、部屋から決まった時間以内に出なくてはいけないのだ。
ココで時間潰して家に帰る時間を1分1秒でも短くしたいのに!
…家に帰れば否応なく認知症の義母の世話が待っている。
学童の間だけは、夫が仕方なく清掃のお手伝いさんに見守りのオプションを付けてくれているのだ。
地域の名士として、人手が足りない学童にサナトリウムから院長直々に夫が頼まれていたからだ。
…なのに、本部ももう更新しないとは!
主人経由で文句を言えば、清子の仕事のミスがバレてしまう。
それでなくても、夫は感謝もしないでさも当然と母親の介護を清子に背負わせて夜のトイレすら、
「母が嫌がるだろ?女のお前じゃないと。」と1度もやったことはない。
清子と顔を合わすと文句を言われるから、逃げてばかりで顔も何ヶ月もろくに合わせてもいない。
早朝に20代の女性秘書が運転する車で会社に行き、帰りはタクシーで帰ってくる。秘書も酒の席に同伴する為だ。
清子に母の事は任せっきりでだ。
「これが、日本の普通なのよ!常識なのよ!
女は嫁は下働きして、なんぼの生き物なのよ!
どうして、あんな非常識な人達が幸せそうに生きて
ちゃんと妻として嫁として頑張ってる私がこんなに苦労しなきゃいけないの?
おかしいわよ!この頃、日本は?」ブツブツ言いながら清子は玉姫大明神、いや鵺神社の鳥居をくぐる。
昔、この鵺の森でやはり藤原家のため全てを耐え我慢して生きた藤原詮子が息子を天皇に据えた後、東三条院として隠居していたのだ。
だが、妖怪が不気味な声で鳴き人が死ぬ。
その妖怪がこの森から飛び立つ姿を何度も目撃されたのだ。
顔は猿、身体は虎、尻尾は蛇の羽根を持つ妖怪だ。
鳥居をくぐった清子は明かりもない境内でその姿を変える。
が、しばし羽根を閉じる。
「今、何か起きれば私が疑われる。ダメだ。リーダーは殺せないわ。」と言うと鳥居から出てきた。
その姿は、元の清子だった。




