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10股していた私(クズ)がわからせられる話  作者: やっちゃいました。反省はしてません。
1/1

伊佐坂光太郎の場合

主人公が本当にクズです。すぐ言い逃げしようとします。なんなら全部の回で隙あらば逃げようとします。そして全てで捕まります。真正のクズなので不愉快な方はご遠慮ください。分岐小説というか、1人1endみたいな感じで進みます。

※事後表現があります。

「怒らないで聞いて欲しいんだけど」

大理石のような、しかし冬になれば床暖房も入れられる、なんともまあお金がかかっている床の上で正座した私は目の前に座る彼氏、伊佐坂光太郎と目が合わせられずに言った。

「怒られないような話だったらな」

目の前で腕を組んでソファに座る彼も何かを感じ取っているようで、床の上で正座している私にソファを勧めてくれようとしない。ーーまあ私が今から言うことはおそらく彼の思っている十倍は衝撃の事実だろうが。

「ええっと…」

「なに」

「その…」

「おう」

「だからね…」

「…」

「あの…」

「……」

「なんというか…」

「………」

「どこから話せばいいのか…」

「ええいめんどくさい良いから早く言え!」

「はいすいません!私にはあなた以外に9人の彼氏がいるので別れて欲しいです!」

「おうそうかよ!………………って、は?」

目の前で動きを止めた光太郎を見て、よし逃げるチャンスだ、と軽く腰を上げる。

これできっと別れてくれるだろう。今逃げるが吉だ。聞いた瞬間暴れ出さなくてよかった。

「それじゃあ、ごめんね!次はクズじゃない人と幸せになって!」

「おい待てクズ」

私の腕をがっと掴んだ彼の手を振り払い、駆け出そうとした私はその場に崩れ落ちた。

「しまった足が痺れて…!」

正座していたせいだ。しかし、やばい。これじゃあ逃げられない。どういうことだボス戦闘は逃げられないってことか。

芋虫のように転がる私が動けないことを察したのか、彼は大きなため息をついて

「…どういうことだ」

私に説明を求めた。諦めて私もため息をついた。

ーーーーー

ちょうど二年前くらい。

私は立て続けに十人に告白され、それを全て受け入れたのだ。

もちろん時期は多少違うが、短くて一週間、長くて三、四ヶ月のサイクルで様々な人間から、それこそ性別や年齢も問わずに。

何故受け入れてしまったのかわからない。断れなかったのだ。

そこから二年。流石に抱え切れなくなってしまったのだ。ずっと気を張って騙し続けるのも疲れたし何より罪悪感がすごい。

十人の恋人は純粋に私を好いてくれているのだ。多分。

そこで私は全員との関係を切ってしまおうと思った。

こんなクズのことは忘れて幸せに過ごして欲しい。

そんなわけで別れましょう。ごめんなさい。

とかなんとか、そんなことを言った。嘘を言うつもりはなかったが、自分で言っときながら中々クズムーブだなと思った。

私の話を聞きながら彼はずっと頭を抱えていた。

「……俺がお前に告白したのは半年前だが、その時にはもう九人恋人がいたってことか?」

話終わった私にようやく口を開いた彼に一言目はそれだった。

「いや、八人。三ヶ月前にも告白された」

「…まじかよ」

また深く頭を抱えて唸る彼を横目に自分の足を確認する。よし痺れもほぼない。光太郎が下を向いて油断している今がチャンスだ。

「うん。本当にごめんなさい。もう二度と顔を見せません反省してますそれでは」

最後の方は早口になりながら、すっくと立ち上がって踵を返し、足を踏み出そうとしたが体が動かない。

「おいおい、ここで逃げる気かよ。とんでもねえな」

肩ががっしり掴まれていて動けないのだ。

「ええっと、光太郎サン…?できれば手を離してくださる…?」

怖すぎて振り向けない私はやんわりと肩の手を外そうとしたが、微塵も動かない。

背中の冷や汗ダラダラすぎてブラの紐も浮き出てるのではないのだろうか、なんて半分現実逃避しながらどうにかする方法を模索する。

ーーどうしよう。

ーーいや、どうにも無理だな。

どうにもならない現実に覚悟を決めた私は振り返って叫んだ。

「顔だけは勘弁してください!」ガチャン。「え?」

明らかに不自然な音に驚いて音のした方、というか、その時に感じた右手首あたりの違和感を見ると、何故か手錠がハマっていた。

「え?」

「全くお前はすぐ逃げようとするじゃねえか。話はまだ終わってねえぞ」

私の中では終わってるんだけど、なんてどうにも様子がおかしい彼には流石の私も言えなかった。

「な、なんで」

おかしい。こんなはずでは。というか、そもそも光太郎はこんなことをするような人だったのか。付き合う前も付き合ってからもずっと彼とは友達のようなノリでいられた。だからこそ、一番最初に別れを告げたのだ。それに、

「一番後腐れがなさそうだったのに、とか思ってんだろ」

私の思考をトレースしたかのようにそう言った光太郎はずっと俯いていた顔を上げた。

「テメエは全くクズだな。そんでもって大事なところが抜けてて、俺のこと舐めてて、馬鹿ですっごくかわいい」

私のことが愛おしくてたまらないというように笑う彼の顔は歪んでいて、いつものなんだかんだで優しい彼の顔ではなかった。

「なんだよ、怯えた顔するなって。言いたいことがあるんなら言えよ」

揶揄うようにそう言われて

「こ、この手錠はどこから…ずっと私に後ろにいたのに…」

私は一瞬頭に浮かんだ一番どうでも良いことを尋ねてしまった。

「…それを一番初めに聞くのかよ」

彼も流石に拍子抜けしたような顔をしてそう言った。確かにこの状況で一番初めに聞くことではない。私が一番わかってる。

しかし、そのおかげでいくらか空気が緩んだのを感じた。重苦しい雰囲気が緩和されて思わずほっと息をつく。

そして

「もしもの時のためにソファの下に入れてたんだ」

彼の言葉に再び凍りついた。よく見ると確かに手錠はソファに足から鎖が続いている。しかし足は床に埋め込まれているため、手錠が取れそうにない。それよりもしもの時ってなんだ。いつもこんなこと考えてたのか。いや、もしかしたら家に侵入した泥棒さんのためかもしれない。きっとそうだ。そうに決まってる。普通彼女の手に手錠を嵌めることなんて考えない。目的なんて考えたくない。

(フチ)の手首のサイズにピッタリだろ。特注だぜ」

監禁犯予備軍(半分現行犯)の自白が取れてしまった。

「…聞きたくない、聞きたくないけどなんで手錠なんて用意したの…?」

「もしもの時のためだよ」

もしもの時とは。私の手に手錠をするもしもとは。

「わ、私をどうする気なの?!こんな手錠までして、変態的なプレイでもするわけ?!×××とか、お仕置きとか言って(自主規制)とか、(ピー)させて(掲載不可)で(見せられません)で(放送できません)とか、(18歳以下お断り)に(そろそろふざけんな)とか!やっちゃうわけー?!」

一気にそう叫んだ私を心底ドン引きした目で見てきた彼はしかし、足を組んでニヤリと笑った。

「おう、×××とか、お仕置きって言って(自主規制)とか、(ピー)させて(掲載不可)で(見せられません)で(放送できません)とか、(18歳以下はお断り)に(そろそろふざけんな)とか、それに加えて、(いい加減にしろ)を使って(こんなのに尺を使うな)も(本当にやめろ)とかもやろうと思ってる」

「な、なんてえっちな…!」

今度ドン引くのはこちらの方だった。発言に伏せ字だらけすぎる…!こんなのはムー◯ライトの方でやるべきなのに!というか、彼氏の性癖がアブノーマルすぎる件。

「こ、こんなところ一秒だっていられるか!俺は逃げるぜ!」

「『ホラー映画で一番最初の被害者』ムーブすんなよ。そして逃がさねえよ」

こっちの方がホラーでした。

「こ、光太郎…?ほんとに悪かったと思ってる。許して…?」

正直コントかましてる暇ではないのだ。このままでは結構やばい。なんとか許してくれないだろうか。

そんな私にソファの肘置きに肘をついて軽く首を傾げた光太郎が口を開いた。うっ、顔が良い…。

「じゃあお前は俺が十股してたら許せるのかよ」

「絶殺」

しまった。思わず口が。慌てて口を押さえた私に向かって

「ほらな。殺さないだけ俺の方がマシだろ。てかお前にそんなこと言う権利ねえけどな」

宥めてるのか脅してるのか判別の難しいことを言いながら光太郎は立ち上がった。立ち上がられると私との距離が余計に近くなった。離れようとするがぐいと腰を抱かれて動けない。

「光太郎…!」

「さっきからわざとふざけたこと言って逃げようとしてるのは分かってるんだよ。お前がその態度なら俺が遠慮する必要もないだろ?俺のクズちゃん」

胸を押し返そうとしてもぴくりとも動かない。それどころか、面白がってより力強く抱きしめてくる。

「浮気してることは気づいてたよ。スマホとか絶対見せてくれないし、連絡つかない日もあったしな。まさか十人とは思ってなかったけど。全く予想外でかわいいなあ。隠せてると思ってたところもアホでかわいい。俺がこんなにお前が好きなことに気が付いてないのもかわいい。逃げようとして全く逃げれないのもかわいい」

かわいいの豪雨で溺死しそうだ。というか、さっきから当たってる一部分の主張が激しい。どことは言わんが。どことは言わんが。だって健全サイトだからな!でも、貞操の危機には変わらん。

「今まで一度も抱かせてくれなかったのもそういうことか。十人は相手できないしな。…え、俺以外誰かに抱かれてたりする?」

グッと腕に力がこもって、もはや痛い。慌てて首を振る。ほんとにそういうことは誰ともしてない。

「…怪しいけど確かめればわかる。うん、良かった。もうすることもないしな。一生一緒だ」

やばいやばい監禁ルートにこのままだと一直線ゴールイン。なんなら陵◯ルートにも入ろうとしてる。ゴールキーパー仕事しろ…!

焦る私は結局何もできず、光太郎にゆっくりソファに押し倒された。

ーーーーー

「…ほんとに誰ともしたことなかったんだな」

数日後、ようやく起き上がれた私は手首の手錠をジャラジャラ鳴らして夕方の朝食をとっていた。

「だから言ったじゃん…。未成年もいたからさ」

「うわっ…真正のクズだな」

スマホは没収され、破壊された。もう誰とも連絡が取れない。場所も少し山に入った大豪邸なので誰にも探せない。

「…性別を問わずとも言ってたけど、もしかして女もいたのか…?」

両親も他界してるので行方不明届も出されないだろう。

「うん、一人。かわいい子だよ」

他の恋人たちも私は見つけられないだろう。これまで深い話をしたことがなかったのが悪かった。家に呼んだことのある人も少ない。

「……。なんか、ムカついてきた」

友達もいない。学生時代の友達も何年も会わないと全く連絡を取らなくなる。

「は?なにが」

会社はブラック気味だったので、何も言わず逃げる人も多かった。その中の一人と思われるだろう。

「俺以外の恋人の話したこと」

マンションの部屋はどうなるのだろう。家賃が入らなくなった時点で部屋に清掃が入って勝手に空き部屋になるのだろうか。きっとそうなる。

「…自分で聞いたんじゃん」

逃げる機会は常に伺っているが、正直逃げられる気がしない。

「……寝室行くぞ」

もう誰も私を見つけられない。

「…え、嫌なんですけど」

こうやって私は密かに社会から消えるのだろう。

「嫌と言われてもやめないさ。クズ相手だからな」

これで良いような気もした。

「うわ、持ち上げてまで連れてくの…?クズにも人権はあるんだぞ」

クズにはふさわしい結末かもしれない。

「お前、ほんとによく言えるな」

誰にも気づかれずに消えていくのも一興だ。

……そうだよね、唯。


ーーーーーー

監禁end

これで光太郎ルートは終わりです。手錠はめちゃくちゃ長いです。ソファを起点に一階は自由に動き回れます。そのうち、なんか頑張って2階にも行けるようになると思います。でも監禁なんで外には出れません。手錠も出れないギリギリの長さです。

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