【第1章 辺境農村の生活】第1話 転生
はじめまして、作者の寂しがり屋のサンタクロースです。
この作品は、「戦うために転生したわけじゃないのに、なぜか最強になってしまった男」が、のんびり農民として生きながら、気づけば世界の中心に巻き込まれていく――そんな、スローライフ系異世界転生ファンタジーです。
チート能力でド派手に暴れまわる作品とは少し違い、主人公は基本「畑が好き」「平和が好き」「戦いたくない」タイプ。
ですが、地道な生活の中で力をつけ、結果的に“規格外”の存在になっていく成長過程を、ゆっくり楽しんでいただければと思います。
本作は、日常・恋愛・ちょっぴりコメディ・たまに本格バトルといった要素を交えながら、長期連載を目指して執筆していく予定です。
気軽に読めてクスッと笑える、でも気づけば熱くなる――そんな物語を目指します!
ブクマ・感想・評価などいただけると、作者の畑仕事(執筆)がとても捗ります
それでは、ゆるくてちょっと不思議な“農民最強ストーリー”を、どうぞお楽しみください!
──暗い。
何も見えない。何も感じない。
けれど、意識だけは確かにあった。
ああ、そういえば俺……死んだんだったな。
ブラック企業で身も心も擦り切れて、やっと辞表を出して自由の第一歩を踏み出したその日。
駅前の横断歩道を渡っていたら、信号無視のトラックが突っ込んできて──。
人生、マジでタイミングって大事なんだな。
悔しいとか悲しいとか、そんな感情すらもう湧いてこない。
あるのは、なんとなくの“諦め”と、“解放感”だけだった。
――だが。
ぼんやりとした意識の中、やがて光が差し込む。
次の瞬間、全身を包み込むような“温かさ”が俺を飲み込んだ。
◇
「……おぎゃああああ!」
あれ? 俺、今泣いた? いや、ていうか声、高くない?
「生まれたぞ! 元気な男の子だ!」
……ちょ、待て待て待て。
聞き間違いじゃなければ「生まれた」って言ったぞ、この人。
まさか……いや、まさかそんなテンプレみたいな──。
「この子の名前は……“リンドウ”だ。竜胆の花のように、強く優しく育て」
……転生、確定。
というか、花の名前って。渋いセンスだな、おい。
◇
それから十数年が経った。
俺──リンドウは、アーベント村という小さな辺境の農村で生まれ育った。
父は畑を耕し、母は家畜の世話をし、兄弟たちは畑仕事の手伝いに追われる。
この世界では、農民というのは決して裕福でも華やかでもないが、村の生活を支える大切な仕事だ。
そして俺は、転生してなお、また「地味な日常」に戻っていた。
「リンドウ、畑の水やり終わったかい?」
「うん、もうすぐ終わるよ。あとは南側だけだ」
バケツを持って畑を歩く。
不思議なもので、この世界に来てからというもの、体を動かすのがそれほど苦じゃない。
土に手を入れて、作物の育つ音を聞くと、不思議と心が落ち着くのだ。
……元社畜だった俺が、農民ライフを気に入ってるって?
自分でも笑える話だよ。
◇
この世界──エルダラシアは、魔物がうようよしている。
迷宮と呼ばれる巨大なダンジョンが点在し、冒険者たちが命懸けで挑んでいるが、俺には関係のない話だ。
俺は農民。鍬を握って畑を耕す、それが俺の仕事。
冒険も戦争も関係ない……はずだった。
……その日までは。
「リンドウっ! 村の外れにオーガが出た! 子どもが取り残されてる!」
村の入口まで響く叫び声。
振り向けば、汗をかいた村人が必死の形相で走ってくる。
「オーガだと……?」
オーガ。魔物の中でも一段上の脅威。
冒険者でも中級以上が相手にするレベルの魔物だ。
農民の俺には無関係──そう言いかけた言葉は、喉の奥で止まった。
……子どもが、取り残されてる。
気がつけば、鍬を掴んで走り出していた。
◇
「うわあああっ!」
「大丈夫か!」
木の根元で泣きじゃくる幼い子を抱え、俺は巨体の影を睨みつけた。
──オーガ。
灰色の皮膚、鋭い牙、筋骨隆々の腕。
普通の人間なら、近づくだけで腰を抜かすほどの威圧感。
だけど──。
「……離れろっ!デカブツっ!!!」
握りしめた鍬を振り抜く。
“ズガンッ”という衝撃とともに、オーガの身体が弾き飛ばされた。
……え? 今、何が起こった?
「な、なにあれ……鍬で……?」
後ろで誰かが呟いた声が、やけに遠く聞こえる。
俺はただ、子どもを守ろうとしただけだ。
それだけなのに、村人の視線はどこか“異様”だった。
「……俺、もしかして普通じゃない?」
このときの俺はまだ知らなかった。
畑を耕すだけで力が伸び、作物に魔力を込めるだけで魔法が進化する──
そんな“規格外”の存在になっていたことを。
それは、“最強農民”への第一歩だった。