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王様と自称父からの自己中な手紙

あれから何日も過ぎた。

重苦しかった谷の空気は徐々に軽くなり、晴れ渡った青空のもと、ロデームを連れて毎日散歩をするようになった。携帯食料で栄養は足りているらしく、身体はいたって元気。眠ってばかりの生活とはおさらばし、大分健康になったかも。


てくてく……ザッザッ……ダッダッ……シュバッ!


ロデームは音を立てずに歩く、走る、ダッシュする、攻撃する!


――カッコいいな、ロデーム。


草木は蘇りつつあるな。神殿を中心に深くえぐれた谷は、早春のような風景になったよ。両手を広げて歌っちゃおうかな。山脈から小川も流れてきたから、ひょっとして蛍が来るかもよ。


ここはわたしだけが暮らす谷。ロデームによると、わたしがこの神殿のご主人様。

けれど携帯食料ばかりなので飽きたかな。かといって、谷から外に出ると頭の変な奴に攻撃されるし……う~ん、どうしたものか。


そんな悩ましくも穏やかな日々、またあの音が……。


ザリッザリリッ……ズシャッ。


今度は何?


「こんにちは、レーナ。ここは素晴らしい場所になったね。谷特有の重苦しさが無くなって空気も美味しい。昨今はこんなに素敵な場所は見当たらないよ」

オジサン、ローブが土だらけなんだけど。相変わらず変な臭いがするし。その服ちゃんと洗濯しているの?


「前も言ったけど、わたしの名前はレイナ。アオキ・レイナ」

「……アオキとは誰なんだい?」

「はぁ~、オジサン相変わらず顔色が悪そうだから、もうここに来るの止めたら?」

「オジサンじゃなくて、ニコラ。なぜこんな所にいるのか覚えてないかもしれないけど、レーナに対して理不尽な罪を負わせたことを、まず謝罪しなければ……」

「そもそもわたし、どうしてこんな所に一人でいるのかしら」

「それは……分かった、説明するよ。その前にこれ、レーナへの差し入れ。食料はあるの?」

オジサンが見せたのは、紅茶の詰め合わせとお菓子のセット、今回は枯れていない白い花だった。


飲み物に紅茶が加わった!


オジサンの説明が始まる……。


わたしが誕生する十カ月前に現れた火球、空から降って来た謎の種、荒廃谷。

わたしが誕生した時の奇跡。聖女の花。

聖女とされ神殿から聖女教育を受けた事。

周辺諸国から有害な霧が入り込み、謎の病が蔓延した事。

聖女としての力が発現しなかった事。

西方に本物の聖女と言われる女性が現れた事。

私を偽聖女とし、荒廃谷に追放した事。


聞いている途中でオジサンの首を絞めたくなった。


「勝手に聖女認定して、勝手に偽物扱いして。全員死刑だわ、ロデーム!」

「かしこまりました、ご主人様。この国の人間を消せばよろしいですか、それともこの世界の人類を滅ぼしますか」

「いやいや待ってくれ。その後王家は、本物とされた女性が偽物で、レーナが正式に聖女と再認定したんだ……神殿は渋っていたけれど、力技で承認させた」

「ナニソレ怖い」

「君が育てていた聖女の花が有害な霧と土壌を浄化する事を、君の父が証明して……」

「あっ、そう……聖女の花ねぇ……」


父って……コージ?


「それに、君が産まれてから病が流行るまでは、国難は起きなかったからね」

「たまたまじゃない?」

「とにかく、経緯を話すとものすごく長くなるから、首都に戻ってゆっくり説明したい。君に理不尽な罪を負わせ、こんな場所に追放して申し訳なかった……いずれ何らかの償いをする」

「今はいいわ。どうしても許せなかったら世界を滅ぼすから」

「意外と過激なんだね……それと……実は、国全体に瘴気が蔓延しているんだ。レーナが追放される少し前から今までに、国民が半分くらい死んでしまって……」

「それは……流行病? 感染症――ペストとか天然痘?」


――あれ? どうしてわたし、そんな事を知ってるんだろう?


「瘴気にやられたんだよ」

「瘴気とかよく分からないけれど、感染症なのかなぁ……隔離施設を設けるとか、衛生管理をするとか、害虫や害獣対策をするとか……でも、霧が原因なら違うわね。周辺諸国で何かあったのかな? やっぱり分からない」

「周辺諸国も同じような状態だ。原因は分かっていない。今は差し当たっての応急処置が必要なんだ。君は国のことは気にならないのかい?」

「そう言われても、わたし聖女じゃなくて魔法少女だし、この国の人間ではないし」

「そうだよね、君を追い出した国なんてどうでもいいよね」

「わたしを非難してるの?」

「いや、そうじゃない」

「じゃあ何なのよ、ハッキリ言いなさいよ!」


チョット突っ込み過ぎたかしら。


「……実はレーナに手紙を持って来た」


ニコラはわたしに二通の手紙を渡した。


「ホラシオとラミレス。誰?」

驚いたことに、この国の文字が読めた。


「ホラシオは現国王、ラミレスは君の父親だ」

「へえ……国王と父親? わたしの父はアオキ・コージだよ。ところで、今日は随分長く話せるんだね」

「谷の空気が軽くなったからかな。随分楽になった」

「そういえば最近、周りの環境が良くなったわ」

「君のお陰かな。国には死人が出ているけれど」


「どうしてかしら?」


「……君がいなくなったからだと思う」

「わたしには関係ないわ、だってわたしが追放される前から謎の病が出ていたんでしょ?」

「オキザリス卿が証明したんだけれど、レーナが育てていた聖女の花が咲く場所だけは霧はなく、病も蔓延しなかった。レーナが荒廃谷へ来てからは、オキザリス卿にしか育てられなくなった。ただもう一箇所、咲いている場所があって……そこは王宮の噴水広場だ。僕はそこから花を持って来ている」

「不思議な話。じゃ、後で手紙を読んでおくね」


「本当にちゃんと食べてるの?」

「大丈夫よ。じゃ、さようならオジサン。ロデーム!」

「はい、ご主人様」

「あっ、まだ話したい事が……」


わたしはロデームを呼んで、強制的にニコラを谷から追い出した。


「お菓子はプレーンスコーンか。オジサンはお土産係りと話し相手くらいにはなりそう。今度チョコレートをもらおう」


今日の差し入れは全部食べられた。

わたしは白い花を神殿の外の土にそのまま挿した。



☆ ☆ ☆



オジサンから渡された手紙。

一通はホラシオとかいう王様。

もう一通はラミレスとかいう人。


どれどれ――。


〜〜〜〜〜

『レーナ・デ・オキザリス嬢へ

この度の不幸な誤解を解きたく、王城へ招待する。ニコラを派遣するから、早急に登城せよ。

国王 ホラシオ・ポン・デ・シトリヌス』


みかんジュース(?)みたいな名前だな。

王様は、わたしを追放したのは誤解だったと言い訳したいから、お城へ来いと命令しているらしい。

〜〜〜〜〜


〜〜〜〜〜

『どこで遊んでいるのだ、レーナ。一刻も早く帰って来なさい。お前の花が上手く育たないのだ。

父 ラミレス・デ・オキザリス』


わたしの運命みたいな苗字だな。

わたしの父という人は、花が上手く咲かないのは娘が遊び歩いているせいだ、と非難したいらしい。

〜〜〜〜〜


(何だよコイツら)


わたしは手紙を細かく千切って風に飛ばした。


(バイバ〜イ)


わたしには国を救う義務はない。だって追い出されたんだもの。

それにわたし、縁もゆかりもない魔法少女だし。


そもそもわたしはその方法を知らないから、残念ながら不可能なのだ。


挿絵(By みてみん)


Adobe Fireflyで考えた20代の頃のニコラです。実際はもう少し大人っぽいと思います。

一話にレーナの画像をアップロードしました。

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