表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

謎の神殿と謎のオジサンと押し問答

神殿中央は楕円形の吹き抜けになっていて、壁に埋め込まれた照明に加え、上から自然光が入ってくる。真ん中のどデカい机には謎のボタン群と、見たこともない文字盤があった。机の下には数冊の説明書があるけれど、見たこともない文字なので読めません。


「ロデームならこの冊子読めるよね」

「もちろんです、ご主人様」

「神殿の事を教えて」

「かしこまりました」


この世界で生きていたという記憶はないのに、どうしてわたし、オジサンの言葉が分かったんだろう。ロデームも理解できるみたいだし。

わたしはここの住人だったのかな。だとしたら、どうしてこんな所に独りぼっちなのかな。


「ご主人様、神殿内部の説明をしますので」

「お願いね」


中央空間の両側には、神殿に似つかわしくないお洒落な間切りがいくつかあり、右側は倉庫になっていた。中には衣服やバストイレ用品、携帯食料品などの日用品がギッシリ積まれていた。服は光に当たって色が変化する、不思議素材。

左側には清潔なバス・トイレ・小さなキッチン。水とお湯の出る蛇口付き。

この神殿のどこかに給湯器があるんだろう。

燃料は???


これならしばらく生きていけそう。黄色い棒状の携帯食料は見たことがあるような……下着や服のデザインは……ちょっとダサいわ。いつのデザイン? 誰の見立て?


お腹が空いたので、棒状の食料を食べる。味は……まあまあかな。唾液がなくなりそうになるけど。


「それは非常用携帯食料です。食料はそれしかありません。飲み物は水かお湯か緑茶です」

「そ、そうなの、ロデーム。なかなか厳しい状況だわ」


確かカ◯リー◯イトとかいう食べ物だったような……おぼろげながらわたしの記憶が蘇っているみたい。賞味期限みたいなのが書いてあるけれど、残念なことに文字が読めない。


「ちょっと寒いわ、室温調節はどこで?」

「手前の青いボタンで自動調節できます」


ポチッとな。


ガコン、シュー……。


とりあえずお腹は満足したし、室温も快適になったから、各種ボタンを理解しよう。

赤・黄・青……信号みたいだな。


――信号?


青は室温調節。赤は? 中央に存在するひときわ大きい赤ボタン、とても気になる。


ええい、ままよ!


ポチッとな!


ウィンウィンウィンウィン……。

しゅ~しゅ~しゅ~しゅ~……。

ポコポコポコポコ……。


天井から変な音がした。


「な、何が起きてるの!?」


ロデームが低くて長い遠吠えをした。


試しに外へ出てみたら、今まで薄暗く霞んでいた空が徐々に明るくなっていくではないか!


「わあ~、久しぶりに見る青空!」



☆ ☆ ☆



ザリッザリリッ……ゴツンッ。


もしかして、またあのオジサン?


「レーナ、前よりも元気そうだね、良かった……」

「何かご用?」

「以前も言ったが、君に謝罪と……頼み事があるんだ」


前回のような薄汚れたシャツ・ズボンではなく、黒く分厚いローブを身に着け、目だけを残して顔を黒い布でぐるぐる巻いていた。


「変な格好、忍者みたい、プフッ」


――忍者って何だっけ?


「生き物はこの谷特有の重苦しい()()にやられるんだ。前回は馬に乗ったまま来てしまい、途中で馬が倒れた。今回は防護用ローブを着て峠から歩いて来たんだ。馬は峠に繋いでいる」

「わたしは外に出ても平気だよ。それにオジサンもここへ来れたじゃない」

「君は聖女だから影響は受けないんだよ。僕は前回も今回も、聖女の花を身に着けているからね。そういえば、この不思議な建物の周りだけ空気が澄んでいるね。以前よりも、もっと……」


「聖女って何?」


「君が聖女なんだよ」

「だから、何? わたしは魔法少女なんだけど」

「は? イヤイヤ、君は聖女なんだよ」

「いやいや、魔法少女だから」

「レーナは魔法が使えたっけ? そもそも魔法使いがこの世界にいた?」

「ロデームが魔法を使えるわ」

「その犬?」

「ロデームは犬じゃないわ」

「じゃあ、オオカミ? いや、聖獣かな。さすがはレーナだね、聖獣を従えたんだ」

「た、たぶん? それに、わたしの名前はレイナ。アオキ・レイナ。聖女ではないから人違いだと思う」

「君は確かにレーナだよ、薄茶色の巻き毛も、可憐な顔も、姿も……」

「褒めてもらってありがとう。オジサンとても苦しそうだけど、大丈夫? 中に入れば?」

「う……ん」


バチチッ!!


「あうっっ!!」


オジサンは扉にはじかれ、中に入れなかった。見えない結界がありそうだ。


「僕はオジサンじゃなくて、ニコラという名前がある。ところで、ちゃんと、食べてる? これ、差し入れだよ」

オカンみたいなオジサンだな。

「大丈夫なの? この前持って来てくれた物は、腐っていて食べられなかったわ」

「ゴメン……ハァハァ……この谷の空気、ちょっと苦しいね」


そんなにシュンとした顔をされると、わたしの方が傷つくんだけど。


「そろそろ、谷から出て来ないかい? レーナを追放した人たちは今はもう反省しているから、首都に戻っても大丈夫だよ」

「えっ、わたし追放されたの?」

「覚えていないんだね。五年前レーナを偽物の聖女と言って断罪した勢力は排除した。だから堂々と戻って来ればいいんだ」

「それは嫌。買い物へ行こうとしたら、峠で知らない人に矢を射られたから。訳が分からない」

「それは……すまない。みんな僕らのせいだ」

「何がどうしてこうなったのか、説明してくれるかな」

「詳しく説明したいから、帰って来てほしい」

「それは嫌。だってここ案外居心地がいいんだもの。話したいことがあるんだったら違う日にまた来て。オジサンも気分悪そうだし」

「……まだ、大丈夫だよ。それよりも、君のことが、心配で……」


大変、息継ぎが辛くなっていそうだわ。このままだと死んじゃうかも……。


「もう帰れば? ロデーム!」

「はい、ご主人様」

「あっ、チョット、待って!」

「待たない」

「君は……いつまでここにいるつもりなんだ? ……ハァハァ……」


わたしはロデームを呼んで、強制的にオジサンを谷から追い出した。


渡された差し入れはスコーンらしき食べ物だった。今度は半分だけ食べられた。一緒に入っていた白い花は、しおれかけていた。

面倒だからもう来ないでほしいけれど、わたしに何が起きたのかは聞きたい。



「ねえ、ロデームはどうしてこの冊子を読めるの?」

「わたしはこの言語を使う世界で造られたのです」

「えぇっ、ロデームはロボットなの? 本物の動物みたい。よくできてるわね」

「ロボットではありません。人間の手によって造られた、形状記憶有機生命体です。それに、ご主人様もこの文字を読めるはずなのです」


色々びっくりした!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ