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聖女様はグレてしまいました――荒廃谷に捨てられたら現世の記憶が消えて、オジサンが訪ねてきました――誰?  作者: 赤城ハルナ/アサマ
前編 聖王国

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2/12

聖女様の目覚めと謎のオジサン

【レーナ十八歳、ニコラ二十八歳】



↓ ここから半分コメディーです ↓



何だかここ、空気が新鮮。

余計な臭いがしない。


何層にも流れる灰色の()()に視界を阻まれ、焼け落ちた木々と獣の骨だらけの谷をさまよいまくったら、ツタに覆われた円錐形の建物の中にいたんだっけ。


ここ、床ピッカピカ。壁ツッルツル。

窓のない、出来たての図書館みたい。

あ……天井には明り取りがあった。


わたしはここで倒れて、床の上で眠りこけて?


あれっ?

そういえばわたし、どうしてここにいたんだっけ?

わたしの名前は?

あるえぇぇ、記憶が段々薄れていく……。


確かわたしは馬に縛られて谷に捨てられ……。


わたしの名前は?

わたしは誰?


――絶望的に眠い。体が言う事を聞かない

――もう、どうでもいいや。


あっ、あそこにベッドがある、ラッキー。身体が重すぎてグラビデくらったみたい……。


ずりずりっ、ずりっ……。


しばらく眠ろう。



~~~~~



ここ、少し寒い。

設定温度をもう少し上げなくちゃ。

ウサギさんのフリースはどこ?


建物の片隅にある据付ベッドに寝転びながら、自分のことをボンヤリ思い出した。


わたしの部屋は四十畳くらい。ピンクのベッドとコントロールデスクと巨大パネル、十畳くらいのクローゼットがあった。クローゼットには自在に色が変わる、何十着ものドレス。クリーム色のカウチには三体のぬいぐるみ。可愛らしい魔導メイド。

広い窓にはピンクのレースカーテン。

窓の外には忙しなく行き交う魔導車。


まさしくザ・お嬢様のお部屋。


こんなに寒くなかったんだけどな。

お気に入りのウサギさんのフリースはどこ?


いきなり目の前がグルグル回ってわたしの部屋の幻影が消え、代わりに何かがぬうっと現れた。



「……ご主人様」



「どぇっ? お、おおかみ!?」


目の前に黒い獣がいた。気配がなかったから気付かなかったわ。随分な不意打ちね。

「狼ではありません。わたしはこの神殿を守る存在。そして、神殿のご主人様に仕えることになっています」

「ええ〜っ。マジで? ここは神殿なの? まさか、わたしがあなたのご主人様なの?」

「その通りです。ご主人様だけがここにたどり着き、扉を開ける事が出来るのです。御用がありましたら何なりとお申し付けください」


うわ~、それって、しもべじゃん!


――しもべとは……。


「名前はあるの?」

「お好きにお呼び下さい」

「じゃあ、あなたの名前は『ロデーム』、よろしくね!」


あれっ、どうしてわたし、黒い獣にロデームなんていう名を付けたんだろう?


お腹が空いた、わたし何も食べてなかった。よく今まで生きてたわ〜、まさしく奇跡!


「ロデーム、お腹が空いた。今からお買い物へ行くわ、連れて行って」

「かしこまりました、ご主人様」

「ニャニャニャニャニャーって言って?」

「……」

猫じゃないのに変な命令しちゃった。わたし、頭がオカシイのかも。


扉が無い、壁だけの神殿。だけどわたしが手をかざすと360度どこでも扉が開く。

もしかしたらわたし、魔法が使えるのかな。

とうとう念願の魔法少女になったのかな!


♪ 深い谷にそびえ立つ〜

円錐形の神殿に住んでいる〜

魔法使いの少女〜 ♪



谷を出て町へ行こうとしたら、峠に差し掛かった所で、冒険者ルックのお兄さんにいきなり矢を射られた。ロデームが目から光線を発して矢を落としたので、かろうじて助かった。


ロデーム凄い! 本物の魔法使い!


ついでにロデームはお兄さんを焼き殺してしまったわ。

それってどうなの?


「ご主人様に仇なす者は容赦なく消します。それがわたしに与えられた使命です」


ロデーム怖い〜。


はぁ……物騒だから街へは行けないわ。そういえばお金も持っていなかった。こんな辺鄙な所では、父のツケは出来そうにないし。

お腹空いた……水はどこ?

仕方ないからふて寝しよう。



☆ ☆ ☆



ザリッザリリッ……ゴシュッ!


ふて寝してからどのくらい経っただろうか。時計が見当たらないから時間の感覚がない。背中が痛いし寝るのも疲れたから、起きるか~~。

そんな時、不規則に枯れ枝を踏む音がした。次いで、円錐形の神殿を弱弱しく叩く音。


もうすぐ死にそうな……。


「誰?」


自分もふらつきながら、神殿の壁に手をかざして扉を開ける。


シャラシャラ…… ♪


目の前に現れたのは、薄汚れてボロボロのシャツとズボンという姿、赤毛短髪碧眼の若オジサン。外見と対照的な甘いマスクがアイドルのよう。今にも倒れそうな風で立っている。呼吸も苦しそう。

嫌だ、アイドルのくせに臭いも凄いわ。


マスクしていい?


「オジサン、誰? わたしを攻撃するともれなく死ぬけど?」

「ニコラだよ、レーナ」

「ニコラ? フー?」

「忘れたの? レーナは君の名前。僕はニコラ……」

「わたしの名前は……ええと……レイナ。人違いだったね、残念」


こんな臭いオジサンなんて、知らん。


「五年ぶりだね。きっと君は生きていると思っていたよ」

「あ、そうなの。まさかわたし、五年もここで寝てたの?」

「えっ、ずっと寝てたの? 何も覚えてないの?」

「少しは覚えているよ、わたしの名前はレイナ……ええと、父はコージ、母はミツコ、兄はジン。いつもウサギのフリースを着てたよ」


父と母と兄。

どこにいるんだろう、会いたいな。


「さっきも言ったけど、君の名前はレーナだ。父はオキザリス卿。君は年取っていないようだね。あの時のままだ……」

「あの時? わたし何歳だったの?」

「最後に会った時は十八歳だったよ」

「ふ~ん。オジサンは三十過ぎに見えるね。服がヨレヨレじゃない」

「オジサンじゃなくてニコラ。それに三十は過ぎていない」

「あっ、そう。要するにアラサーなんだ」

「……言い方に気を付けなさいね、相手の反感を買うから」


オジサンはどうしてこんな所へ来たんだろう?


「僕はレーナに謝りたくて……それと、厚かましいかもしれないけれど、君に助けを、求めたくて……」

「何の事?」

「今から説明するよ……荒廃谷にこんな不思議な建物があるなんて、知らなかった……それからこれ、君に花と差し入れ……ハァハァ……ウッ……」

ニコラと言い張るオジサンは、それっきり胸を押さえて倒れた。


ここで行き倒れないでくれるかな、迷惑なオジサン。不燃ごみにして捨てちゃうよ。あ、人体だから燃えるか。


「ロデーム!」

「はい、ご主人様」


わたしはオジサンを峠まで運ぶようロデームに指示した。ロデームはオジサンを背中に乗せ、トットコ走って行った。


可愛いな、ロデーム。


オジサンが差し入れと言って持って来た食べ物は、腐ってグチャグチャになっていた。白かった花は枯れていた。


はぁ……ダメになった物を差し入れて、しかも行き倒れるなんて。


迷惑なオジサンだこと。


※レーナ/レイナが谷の神殿で眠っている間は生命維持されているだけで、年は取っていません。

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