新しい国はじめました
※皇帝一家ほか帝国民は、SF的特殊事情によりあまり年を取っていません。
だがレイナはまだまだ甘ちゃんだったのだ。がめついアオキ・コージは虎視眈々と聖王国乗っ取り――さらには世界征服を画策していたのだ!
聖王国軍が首都の城に帰還したのち、王宮上空に巨大な母船が現れた。それは反乱軍を一瞬で倒した船だった。
同時に何十もの飛行体が首都周辺の広大な麦畑に容赦なく降り立ち、船内の帝国民は時を待った。
その結果ボコボコの荒廃地が各所に……。
あぁ、麦の収穫量が……。
※
城の大ホールでは戦勝会が開かれていた。国王、王妃、宰相、各大臣、将軍、大隊長……。
ワインの栓をポンポン開けて乾杯の音頭をとった時、聞き慣れない言葉が大音量で響き渡り、全員が固まった。
「皆の者良く聞け! これからこの地はウォルフライエ帝国が引き継ぐ!」
城の上空からバルコニーに降り立ち、超拡声器で勝手な声明を出したのは、聖女レーナのもう一人の父――ウォルフライエ帝国皇帝アオキ・コージだった。
突如王宮ホールへなだれ込んで来た、黒髪の暑苦しいオッサンはじめ三人の異邦人。
全身黒タイツと金ピカマントの暑苦しいオッサン。
ピンクタイツとスパンコールましまし豹柄マントの厚化粧若作りオバサン。
黒タイツとシルバーローブに『必勝』という痛ハチマキ姿の若オジサン。
戦勝を祝っていた人たちは奇妙な姿の三人が何を叫んでいるのか分からず、戸惑うばかりだった。
「オイオイお前ら、勝手に王宮に侵入してんじゃないよ! 衛兵!!」
賢王ニコラ・ポン・デ・シトリヌスがマジギレした。
「そこの赤髪、レイナを寄こせ!」と、黒タイツのオッサンが叫んだ。
一人だけ、言葉を理解している者がいた。
ぱっか〜〜ん!!
ぱっか〜〜ん!!
ぱっか〜〜ん!!
それは、『トイレスリッパ』で三人を叩いた王妃、レーナだった。
「あなたたち、何をふざけた事を言ってますの!?」
「お、王妃様!?」
「言葉が分かるのか、レーナ?」
「「「レイナ!!!」」」と叫び、異邦人三人が一斉にレーナに飛びついた。
「とうとう生き返ったのだな、国の重要人物になったのだな、我にそっくりじゃないか!」
「お帰りなさい、レイナ! どうしたの、そのエリマキトカゲみたいな格好。ウエストほっそ! エリザベート?」
「随分茶色っぽくなったな、レイナ! それに大人っぽくなっちゃってさ……髪の毛長過ぎ!?」
「「「会いたかったぁぁ!!!」」」
何十年かぶりに再会した家族だが、王妃は至って冷静だった。
「――わたしは帝国の皇女レイナだった。今は伯爵令嬢で王妃になったレーナ。でも遺伝子はレイナ。ニコラに質問です、わたしはどっち?」
「あ、あのさぁレーナ、三人の通訳プリーズ!」
※
レーナとレイナを巡り、王宮で二つの勢力が泥沼の争いを始めた。
「もちろん、あなたはわたしの優秀で可愛い娘レイナよ、誰が何と言っても! あぁレイナ、ママ会いたかった……! これからずっと一緒に寝よう?」
「いえいえ皇后様、彼女は伯爵令嬢レーナです! そして僕の嫁です! 僕と一緒に寝るんです!」
「まぁっあなたたち、わたしの許可も取らずに結婚なんかしていたの!?」
「結婚して半年です、まだまだ新婚です! レーナは僕の嫁です!」
「何だって、いつの間に可憐な娘に男が!? そ、それもこんなオジサン。許さーーん!!」
「父さんやめろよ! 何勝手な事をしてんだよ、俺たち移民だよ?」
バリバリッ!!
「あううっ!」
ウォルフライエ帝国皇帝コージの杖から繰り出される魔導術・雷撃によって、賢王ニコラの服が灰に……。
「陛下!」
宰相クィン・デ・オキザリス卿が慌てて助け起こし、半裸になった王にマントを掛けた。
「愛しのダーリンを傷つけるなんて許せない、許さない!」
「「「うわああぁぁぁ!!」」」
レイナの反撃が始まり、王宮ホールは阿鼻叫喚となった。
「ロデーム、聖王国に仇なすこの三人をやっちゃって!」
「かしこまりました、ご主人様」
「ま、待て、レイナ!!」
ピカドシャーん!!
ピカドシャーん!!
ピカドシャーん!!
「あうっっ! ロデーム、なぜ我々を攻撃するのだ、お前は味方だろう!」
「わたしのご主人様はレイナ様のみ。ご主人様以外の命令は聞きません。世界中の人類を滅ぼしてでもご主人様を守ります」
「マズイものを造ってしまった……」
畳み掛けるようにレイナは父皇帝を攻撃した。
すぱこ~~~ん!!
「ウッ、トイレスリッパ攻撃! 久しぶりにくらう娘からの痛み……グフッ……」
「レイナ! どこからそんな物を! ママは……ママはそんな子に育てた覚えはありません!」
「オイオイ、こんな所で親子喧嘩はやめてくれよ、恥ずかしい……」
「わたしがこの国で受けた超絶ヒドイ試練を知らないで……! わたしの両親はオキザリス夫妻だもん!」
気絶している半裸の賢王ニコラは何も見ていない……賢王ニコラは何も聞いていない……そもそも言葉が分からない。
しかし密かに(王妃教育をしておけば良かった……)と反省するのであった。
「わたしの大切なダーリンに雷撃はヤメて! それに父! 移住させてもらうくせに、帝国がこの地を引き継ぐとか何ほざいてんの!? 王国を助けてくれたことは感謝してるけど、普通土下座して『おねげえしますだ、どうかおらたちをこの藩に住まわせて下せぇ、お代官様。何卒おねげぇしますだ』でしょ!」
「す、すまん! 帝国だから当然世界征服するとしか頭になかった……」
「帝国と名乗っているだけの弱小都市国家のくせに、まずその思考回路を何とかせい! 三人とも手土産持って土下座して、ニコラ陛下にお伺いをたてること! サッサと出直して来なさい!!」
皇帝一家は素直に出直した。
手土産は真冬でも暖かい下着だった。
※
「ウォルフライエ皇帝陛下、ご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません。聖王国の国王ニコラ・ポン・デ・シトリヌスと申します。この度は我が国を助けていただきありがとうございました」
「う、うむ。娘がいるのだ、当然のことだ。こちらこそいきなり現れてすまんかった」
「帝国民を受け入れるにあたって要望があります」
「何だね、娘婿よ」
「それは……」
☆ ☆ ☆
間もなく聖王国は、圧倒的な科学力と技術力、魔導術を持つウォルフライエ帝国民およそ三十万人を受け入れ、新しい政治体制を始めた。聖国民と帝国民は同等の権利を得、共通語として王国語のほかにウォルフライエ語も採用された――聖皇国の始まりである。
圧倒的なパワーを得た聖皇国は世界で最強の地位を確立した。
荒廃谷の神殿は皇国遺産として輝きを取り戻し、新たに生じた荒廃地は、帝国民の責任で環境改善されることになった。
帝国船は病院や工場に生まれ変わった。
皇国を統べるのは三人の統治者。
一人は政治を司る赤毛短髪碧眼の皇王ニコラ。
もう一人は科学・技術・魔道術を司る漆黒の副王ジン。
聖女として神殿の祭祀を司るのは、茶髪茶目の皇王妃レーナレイナ。
そして新皇国が驚異的な軍事力を披露したとたん世界のほとんどの国が支配下に下り、皇王は『ニコラ・ポン・デ・シトリヌス・アオキ・ザ・エンペラー』と名乗った。
質実剛健にして豪華絢爛に生まれ変わった旧城の片隅には、聖女レーナとその両親、そして聖王国最後の王――賢王ニコラの石像があった。
像のある噴水広場の周りには、白い聖女の花が咲き乱れていた。
『聖王国最後の王 賢王ニコラ・ポン・デ・シトリヌス』
☆ ☆ ☆
「……あのね、帝国民は長寿なんだ。これからはニコラも長生きしようね」
「そんなことよりレーナ、早く子作りしようよ。後継者をもうけなくちゃ。これからはずっと僕の寝室で暮らすといいよ、うん、そうしよう」
「ここは狭すぎるわ。二人で暮らすのなら寝室だけでも五十畳以上、クローゼットもそれぞれ五十畳ね。居間は百畳以上。お風呂は天然温泉」
「レーナは贅沢さんだね」
「ニコラには従兄弟がいるし、ジンにも子供がいるし(妻はいない)、後継者問題は大丈夫よ」
「次期皇王は僕とレーナの子じゃなくちゃダメ! 皇国にする時君の父と約束したんだ」
「えぇ〜、まさか密約?」
「別に内緒でも何でもないよ、当たり前の事!」
「結局あの白い花は何だったんだい?」
「わたしの誕生花、レイナリウ厶。わたしの遺伝子に反応して咲くの。わたしの遺伝子を運んだ船が環境改造の一環として蒔いたんだと思う。オキザリス屋敷と噴水広場に残ったのは、わたしの欠片があったから。大神殿に残らなかったのはどうしてなのか分からない」
「なるほど? 帝国でもレーナは聖女だったのかい?」
「違うわ、帝国ではわたし十六歳で死んでしまったのよ」
「あ、そうだったんだ……」
「健気なレーナはどこへ行ったの?」
「わたしはここにいます、ニコラ」
「……やっと来てくれたんだね、キスする?」
「生え際が心配だから、薄毛専門クリニックへ行って下さい」
「……妃が二人いるみたいだ」
てくてくてく……。
「ご主人様、先帝様と母后様がお呼びです」
「すぐ行くわ、ロデーム」
「僕は?」
「今日は主だった会議がありませんので、皇王様はこれから骨密度測定だそうです」
「あっ、そう……その前にチョットだけ……ん〜ちゅっ」
「待って、父と母に呼ばれているから後にして。それから、子供は体外受精で人工子宮にして」
そこに少々問題があった。結婚していなくても望んだ人の遺伝子が手に入るということが分かり、聖女の遺伝子を欲しがる男性がわんさか現れたのだ。
「うん、いいよ」と先帝が気前よく返事をするので、ニコラは気が気でない。
「体外受精で人工子宮だって!? だが断る!!」
ぽすっ。
☆ ☆ ☆
聖皇国ニュースキャスターのサクラがお送り致します:
聖王国に詳しい皇王陛下にお聞きします。どうしてかの国は素直に帝国民を受け入れたのだと思いますか?
皇王ニコラ:
だってさぁ、あんなのと争っても勝てるわけないじゃん。荒廃谷の神殿内部を見た途端悟ったね、こんな凄いものを作れる人たちがいるんだって。それに国の人口が半分になっちゃったから、技術力のある移民はちょうど良かったんだ。
まぁ、不満は残るけど……国名とか肩書とか国名とか。
みんな、仲良くしてくれるよね?
イラストは聖王国最後の王:ニコラ・ポン・デ・シトリヌスの像(あくまでもイメージイラスト、Adobe Firefly AI)です。
完結で予約投稿したあと、あれもこれもと書き換え書き換えでヤケになり、とんでもないキャラとラストになってしまいました。いわゆる聖女断罪ストーリーを期待した方々、申し訳ありませんでした。また王様の半裸をさらしてしまい、申し訳ありませんでした。赤城山に向かって殴っていいです(あらかじめ謝罪いたします)。
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