謎の帝国、聖女に代わってざまあする
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聖王国はレーナ復活後、二人の統治者によって治められた。一人は政治を司る国王ニコラ。もう一人は神殿の祭祀を司る聖女レーナ。
そして二人の結婚式が盛大に執り行われた。
レーナとロデームによる浄化、皇女レイナによる環境改造、また、国内のインフラ整備と衛生管理に勤しむニコラによって、聖王国は落ち着きを取り戻したかのように見えた。
しかし、王家に不満を持っていた行方不明の元神殿長と、共同墓地管理棟を脱出した西部領の元領主は、聖王国を得ようとする隣国と共謀してとうとう反乱を起こした。
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アハハハハ……ウフフフフ……。
「レーナ〜」
「ナーニ~」
「陛下、王妃様、いい加減皆の前でそういう事はお止め下さい!」
内務大臣だわ。この人結構厳しいのよね。でも、ニコラがわたくしを離さないのよ。
「うるさいな〜、僕たち新婚なんだけど」
「新婚って……結婚式からもう半年はたちますぞ!」
――聖女で王妃だけど、思ったよりは楽しいわ。ロデームがいれば悪意は遠ざけられるし。
ところが事態は急変したのだった。
「陛下、西部方面の斥候が緊急の報告とのことです!」
ニコラとわたくしは謁見の間に急いだ。斥候の報告を取り次いだのは、新しく宰相になったクィン・デ・オキザリス卿、わたくしの叔父だった。
「国王陛下に報告でございます。西部国境付近に敵兵あり、元神殿長らは西方諸国と共謀の上反乱軍を組織し、聖王国へ向かっております!」
「反乱軍……以前から報告はあったけど。今から鎮圧に行かなければならないくらい緊急?」
「将軍ほか大隊長クラスを呼んで大至急軍議を行って頂きたい!」
「分かった……国政にばかり気を取られていて周辺諸国の動向が良く分かっていなかった……一国が西方諸国連合に対抗するのは難しいかもしれないけれど、負けるわけにはいかないね」
平和になった聖王国に反乱が起こるなんて……しかも行方不明の元神殿長ですって?
「ロデーム、わたくしも軍と一緒に行きたいわ」
「ご命令とあれば」
「そ、そう。決めた、行くわ!」
わたくしは聖女。少しは役に立てるかしら。ロデームに命令出来るし、砲弾だって持ち運べるかもしれないし、フフン!
「ニコラ、わたしも連れて行って下さい」
「馬鹿な事を言うんじゃない、レーナは城で国民の生活を守ってほしい」
「聖獣ロデームが必要になると思うから連れて行って下さい。わたくしだって役に立ちます!」
「ウッ、聖獣……がいれば物凄い戦力になるんだろうけど……レーナ以外の命令は聞くの?」
「わたしはご主人様だけを守る存在です」
「ほら、わたくしがいないとロデームの力に頼れないのよ。だから連れて行って!」
「ハァ……分かった。後方にいると約束するなら」
「ありがとう。ロデーム、あなたは必ずわたくしを守るのよね」
「もちろんです、ご主人様」
※
とうとう聖王国軍が反乱軍の鎮圧へ向かう。
聖王国軍は数万人程度。謎の病で兵士の数が減ったから。間諜によると、西方諸国は傭兵を含めた軍を組織し、反乱軍の規模はその二倍になるらしい。もはや反乱軍ではなく、正規軍なのでは。
「全軍西部領へ向けて進軍!」
「聖王国に希望を!」
「聖獣フェンリルの守護の元に!」
凄い、ロデームがまるで神様になったみたい。
そもそもなぜ聖獣がわたくしの隣にいるのか謎なんだけど……。もう一人のわたくし、レイナなら分かるのかしら。
先頭はニコラ率いる近衛騎兵隊、次に聖王国軍の各部隊。わたくしは衛生兵と共に移動する。ロデームと一緒に馬車に乗ったわたくしは、聖女を守る聖騎士団に護衛されながら進んだ。
沿道からは、『ニコラ王!』『聖女様!』という叫び声が聞こえる。
初めての戦争。何としてでも勝ちたい。わたくしが祈れば勝てるのかしら?
ザッザッザッ……ガタゴトガタゴト……。
※
先頭の近衛騎兵隊に少し遅れ、わたくしたちは五日後、西部領と隣国との境に到着した。
「いたぞ、西方諸国連合だ!」
小高い丘の上、左右に長い大軍が現れた時、誰かがつぶやいた。
「ヤベ〜、ざっと見積もって歩兵二万、騎兵三千ってとこかなぁ……後ろにはもっと控えているだろうしなぁ……」
聖王国軍は数万。心配だわ。
わたくしは音を立てずに前衛へ移動した。
「……こんなに大規模な反乱軍だなんて……知ってたの、ニコラ?」
「び、びっくりした!! ちょっと待った、レーナは後方支援と言っておいたはずだよ、どうして前衛に出てきたの! 聖騎士団は何をしている!」
「ニコラ王、我々は常に聖女様と共に有ります」
「わたくしはここから動かないわ! あんな所にいたらロデームに何も指示出来ない。それに、反乱軍には神殿長がいるんでしょう? わたくしを流刑にした神殿長が許せないの!」
「ハァ……レーナは本当に強情なんだから。それなら僕と来てくれる? 将軍、後は頼んだ!」「お任せ下さい!」
わたくしはニコラと聖騎士団に守られたまま本体を離れ、小高い右翼へ移動した。
「王国砲撃隊と投擲隊準備!」
将軍が号令を出したわ。太鼓の音が響き、とうとう戦闘が始まる。
「……レーナ、君に頼ってばかりで心苦しいんだけど、聖獣ロデームに命令を頼んでいい?」
「何をすればいいの?」
「敵が砲撃してきたら、聖獣の雷撃で敵を全体攻撃してほしい」
「分かったわ、ロデーム、頼める?」
「お任せ下さい、ご主人様」
身体全体に響く音がし、反乱軍各所に散らばった砲撃部隊が一斉に徹甲弾を発射した。
ロデームは音を立てずに歩く、走る、ダッシュする、攻撃する!
ピカドシャーン!!!
ピカドシャーン!!!
ピカドシャーン!!!
――凄い、丘陵地帯一面の雷撃!
放たれた徹甲弾は雷に打たれ、聖王国軍に届かず落ちた。
とてもカッコいいです。ロデーム、愛してる!
「聖獣フェンリル!」
「聖獣様!」
ロデームの大規模雷撃を受け、反乱軍は動きを封じられた。その隙に先頭の王国マスケット隊が走り出し、左右の騎兵隊がランスで突撃した。しかし反乱軍の左右後方から次々と兵士が現れ、聖王国軍を取り囲むように動いた。
圧倒的な兵力の差!
みんな、死なないで!!
わたくしが両手を合わせて祈ったとたん、ふわりと全身が光り、上空に巨大な船が音もなく現れた。
――あれは何?
「うわっ、何だ!?」
「聖騎士団、聖女様をお守りしろ!」
聖騎士団がわたしをぐるりと囲んだ。
巨大船が戦場上空を覆い、陽の光を遮った。暗闇の中、わたくしだけが輝いていた。
(わたくし、どうしてしまったの?)
雷そして暗闇。両軍は何も出来ず混乱したまま。
「聖女様をお守りしろ!」
「聖女様!」
《……レイナヲ 害スル 者ハ ユルサナイ……》
レイナ……もしかして、まさか、わたくし?
途端に何百もの光が反乱軍を標的にして地上に刺さった。
一瞬の出来事だった。
反乱軍はなぎ倒され、動かなくなった。
生きているの? 死んでいるの?
ポトッ……コロコロ……。
わたくしの目の前に頭が転がってきた。
「ヒエッ!!」
「し、神殿長様が!」
「わあああぁぁ!!」
聖騎士たちが叫び声を上げた。
「ご主人様、お望み通り神殿長の首を捧げます」
「まっ……まさかロデーム、あなた本気で……!」
聖騎士団が首を取ろうとした時、ニコラがランスをズブリと突き刺して首を高く掲げた。
「反乱軍の首謀者の首だ、聖王国軍の勝利っ!!」
「ッアアアアアアァァァァァ!!!!」
突然頭が締め付けられるように痛み、わたくしは地面に突っ伏した。
「レーナ!!」
「ご主人様!」
「聖女様!!」
圧倒的な量の記憶が複雑に交差し、パニックになった。
――お父様、お母様、殿下……父、母、お兄ちゃん、帝国……わたくしは……わたしは……、
――誰?
「アアアァァ……わたくしは……わたしは……ワタシ、皇女レイナ……」
「皇女レイナ? また人格が変わったのか!?」
「ワタシハ 聖女レーナ ソシテ 皇女レイナ」
とうとうわたしの中で、聖王国の聖女レーナとウォルフライエ帝国皇女レイナが一つになった。
「わたしは聖女レーナ、そして皇女レイナ! わたしたちを援護したのはウォルフライエ帝国よ!」
(父、母、お兄ちゃん、わたしを助けてくれたのね……)
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巨大船はスシャッと静かな音をたてて上空から消え、陽の光が戻った。
聖王国軍は一個大隊を反乱軍の後始末に充て、帰路についた。
何もせず勝利した戦いは『聖女の奇跡』と呼ばれ、それ以来聖女レーナは違う意味で恐れられる事になる。
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ニコラは一人で頑張るタイプではなく、人心掌握術に長け、部下のやる気を起こすという人たらしタイプです。また、軍隊はナポレオン以前の近世を参考にしました。
この回はざまあ回にかこつけてカッコいい帝国を書きたかっただけで、いきなり反乱軍鎮圧ストーリーになってしまい申し訳ありません。
次回最終回です。




