表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第二話 思い出の行方

 喫茶店を出ると、冷たい風が肌を撫でた。冬の終わりの名残を感じる、ひんやりとした夜の空気。


 気づけば、足は商店街へ向かっていた。


 あの夜、僕らはこの通りを歩きながら、祭りの屋台で線香花火を買った。細い道にぶら下がる赤い提灯の明かり、屋台の喧騒、浴衣姿の彼女の横顔――記憶の中の情景は、どこか遠く、霞がかかっているようだった。


 今、そこに屋台はない。店じまいを終えたシャッターが規則的に並ぶ、静まり返った商店街の風景があるだけだった。


「こんな時期に、花火なんて売ってるのか……」

 そう思いながら、僕は商店街を歩いた。


 コンビニの店先、スーパーのレジ前、小さな雑貨屋の片隅――どこを探しても、夏の風物詩はそこにはなかった。


 まあ、当然だろう。季節外れの買い物だ。店員に尋ねても、怪訝な顔をされるばかりだった。


 途方に暮れ、ふと目に入ったのは、昔からある駄菓子屋だった。


「まだ、あるだろうか……」

 半ば諦めの気持ちで、扉を押す。


 店の奥には、所狭しと並ぶ古びた棚。瓶ラムネ、ブリキの玩具、色褪せたパッケージの駄菓子たち。


 そして――見つけた。


 店の隅の木箱の中に、線香花火の束が無造作に並んでいる。


 指でそっと摘み、手に取る。袋越しに伝わる懐かしい感触。


「こんな季節に珍しいねえ」


 レジにいた店主の老婆が、皺だらけの手で商品を包みながら言った。


「ええ、ちょっと試したいことがあって」


 自分でも、なぜこんな曖昧な答えをしたのか分からない。でも、店主はそれ以上何も聞かず、静かな笑みを浮かべた。そして小さな紙袋に線香花火を入れ、僕に手渡す。


「楽しんでおいで」


 その言葉に背を押されるように、僕は店を出た。


 向かう先は、決まっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ