隣の家のリヒト
高橋短造の息子はどんな人物なのだろう。
「あーー」
男の大きなダミ声は、今日もあたり一面に響き渡る。晴れた暑い日。
髪はボサボサ、メガネをかけていて小太り。
オレンジのパーカーを着て、暑い日でも寒い日でもフードを深く被っている。
彼の名前は、光人。隣の家の息子である。友達もいない。近所の人も相手にしない、40歳も近いのに、ニートのような風来坊という感じである。
外に出て来ては、ニヤニヤしながらこちらの様子を伺っている。自宅の周りを行ったり、来たりと謎の行動である。
光人は、小さなビニールハウスに入るのが日課のようだ。しゃがんでは、またこちらを見てニヤニヤニヤニヤとしている。きっと自分を天才だと思っているのだろう。
今日は、
「母しゃん、母しゃん!おっかー、かー!」
と、今度は大きなダミ声で、母を呼んでいるようだ。自宅の後ろから光人の母の和子が駆け寄って来た。鼻にかけた大きな声で
「光人!なんした?」
光人は、大きなダミ声で
「あーー?これはここで、それはあそこだよな?」
和子はまた鼻にかけた大きな声で
「んでねべったー!光人!これはあそこで、それはここだべったー」
光人は…………………………………………………。
「母さん、スーパーさ野菜卸しに行ぐがら。まずそれやってれよ。なっ!」
和子は、N-BOXのリアハッチを開けて、籠に入った野菜を車に積み、リアハッチを力強くバンッと閉めた。運転席側のドアも強くバンッと閉めて走り去って行った。まるでカーレースを見ているような速度だった。
光人は
「おっちょーーん!おっちょーーん!」
と、叫ぶのである。
「リヒト!」
後ろの小屋から光人の父の短造が光人に駆け寄って来た。足が悪いので、歩くのが大変そうだ。
短造は、僕を見るなり
「おれは、警察と検事に顔が利くからな」
大きな声で言いながら、中指を立てるのである。
そして、トラクターに乗って畑へと行ってしまった。
光人は、また自宅の敷地をウロウロ、こっちを見てはニヤニヤ。
そしてまた小さなビニールハウスに入って行った。
何を考えているのだろうか……。