ランスイセン島の戦い
小さな無人島に素っ裸の青年と水着のような服装をしている高身長のエルフと子供の天使。彼は2人がいきなりこの島にやって来て動揺。彼女達は男性の裸に目のやり場に困っている様子。普通は前を隠す仕草はあると思うが彼には一切ない。
それでもなんとかコミュニケーションをとろうとまず天使の子供であるソフィは彼に一礼してから話しかける。
最初に言葉は通じるかどうかを確かめ、彼は首を縦にふる。言葉が通じると分かりソフィは次に自分達がこの島に来た理由を話した。
彼女は生物の担当している研究者であり、1ヶ月ほど前に偶然にもランスイセン島の周辺に生命反応がある事を知った。すぐにでも調査して確認したい所ではあるが彼女は子供でしかも、その島は国によって近づく事を禁止されており国王から特別な許可が必要だった。
ソフィはこの生命反応を新種の生物を発見したとおおはしゃぎする。それも当然な反応である。ランスイセン島は数百年前に正式に生物は存在せずこれからも誕生する事もない。と発表された歴史がある。そんな事もありその場所をわざわざ生物がいるかもと研究する人はいない。
ソフィが研究者になったのは6歳の時、どうして生物の事を研究したいと思うようになったかは、正直自分でも覚えていない。気づいたら生物に興味津々だった。2年が経ち大きな水晶を使い新種を探す仕事をしていると気分転換がてら冗談半分でランスイセン島周辺を調査していたら、生命反応があると水晶が反応した。長年使われている水晶だったため最初は壊れている?それともバグ?そう思ってその日は無視して気にしない事にした。
数ヶ月後に水晶が新しくなり生物の研究も捗る。ある日、ふとした事でランスイセン島の事を思い出しなんとなく調べてみた。すると、生命反応があった。こればっかりは流石に驚いた。一瞬不良品とも思ったが古い水晶でも反応があった事もあり研究者達は大騒ぎした。
生命が存在しない場所で生命反応があれば、誰もが「新種」と思ってしまうのは不思議ではない。ましてやソフィはまだ8歳である。目をキラキラ輝かせながらかなり興奮し普通の子供のようにはしゃいだ。これは世紀の大発見だ!歴史が動く!新たな発見!子供も大人もとにかくはしゃぐ。
早速国王から国の許可を得た研究者達は最初に発見したソフィに全てを任せた。子供といえどソフィは魔法にも才能があり直接ランスイセン島に向かうのに1番の適任者でもあった。ソフィはエルフのウイネルを連れてこのランスイセン島にやって来たのだった。
そんな島になぜ彼は生存しているのか?と疑問に思ったが、単純に考えるなら彼には完全な毒耐性があるのではないか?と想像が付く。
毒...それは彼にも心当たりがある。島の近くには生き物は存在せず、毎回かなりの距離を泳いで魚を捕まえ貝を取り近くの無人島まで持っていき、そこで食べる。
ランスイセン島の生命反応の正体は彼だった。2人からしたら彼がなぜこの島にいるのか?ソフィ達は国の許可を得てここにいる。しかし、彼はどうだろうか?新種だろうとそうでなかろうと、国の許可を得ていない彼をこのまま見過ごす事は出来ない。いや、そもそも2人はこの島周辺に発見した全ての生き物を捕獲するつもりで来ていた。
彼にとってこの島は故郷とも言える場所だ。ここを離れるつもりもない。どちらにしろ2人は自分を見逃してくれる気配がなく、それは言葉にしなくても彼にも伝わってきた。そうなると当然2人は力ずくで彼を捕獲する行動を選択する。
念のためにソフィは彼に確認した。私達は訳あってあなたを国に連れて行くために一緒に来てくれるかどうか。
彼は首を横に振った。
ウイネルが右足を大きく前に出し、槍を強く握り身構え戦闘体制に入る。ソフィからは何かを仕掛ける様子はなく、戦うのはウイネルだけのようだ。
先に動いたのはウイネルだった。彼の腹を貫く勢いで一瞬で間合いに入り槍を突く。あまりの速さに一瞬反応が遅れたが、ギリギリ避けて右腹の部分にかすった程度で済む。
初撃で終わらせるつもりだったウイネルは避けられた事に少々驚いたが、続けて両脚、両足の部分つまり足元に連続で攻撃を仕掛けてきた。どうやら出来るだけ傷つけず捕獲するつもりらしい。また、海へ逃げられないように回り込んだりして彼に反撃する余裕を逃げる余裕も与えないように仕掛けてくる。
しばらくするとウイネルは一旦手を止めた。思っていた以上にここは戦いにくい。砂浜で足場が悪く島が小さいせいで小回りするような感じで動かなくてはならず、オマケに彼を逃がさないようにたち振る舞わなければならなかった。殺す事も出来ず出来るだけ傷つけないように足元を狙ったりして戦うのはやりづらい。そのため疲れてしまう。
ウイネルは冒険者として働いている。彼女の実力は冒険者の中でも強い方で手を抜いているとはいえ、こんなにも戦いにくいとなると多少はイラついてくる。
2人にとってこの島に長くいられない理由があり、出来るだけ早く決着をつけたい。
「いつまでここにいられる?」
ウイネルが彼から目を離さないよう耳だけかたむける。
「そうですね...帰りの時間を含めますと35分くらいでしょうか?」
問題ない。そんな自信あふれる顔つきでウイネルは攻撃を仕掛ける。今度は足元ではなく、槍をブンブン振り回し攻撃がより激しくなる。これを躱し続けるのは非常に困難で彼は徐々に追い詰められていく。
残り30分...時間経過で彼は勝ち、彼女達は引き返す事になる。彼とウイネルの交戦はまだまだ続く