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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
8/50

こんにちはエクスカリバー『命名しました』

 帰り際、ディラは足を止めてとある方向を見詰める。


「……」


 やっぱり視線を感じる気がする。

 行ってみたい気もするけど、今行ったところで迷子になるのは目に見えている。

 また今度にしようと、ディラは歩きだした。


「そうだ、名前とかどうしようかなー。ディラって名乗ってたけど、本当は朝陽だったし」


 とはいえ、すでに村ではディラが浸透している。

 それをいちいち訂正して回るのはさすがにちょっとという気持ちがむくむく芽生えた。


「……いいや、ディラで。直すのめんどくさいし」


 ディラの方がきっと言いやすい。

 森に入り出口に向かっている最中、ディラは良いことを思い付いた。

 道から足を出し、一歩踏み出す。


「ほいっと」


 すると瞬時に森の入り口に戻された。

 とっても楽だ。これからこのショートカットで戻ろう。


「さーて、オッサンに返してこなきゃ」






 余談であるが、ここでようやく自分の姿が変わっていることに気が付いた。

 何せバルバロの時期は鏡がなかったし、村では記憶喪失だったからである。


 その姿はまさしくゲームでの容姿そのもので、ディラを混乱させた。



「そういえば功太もゲームでの姿だったような??え?実は異世界召喚じゃなくてMMOへの憑依案件??」



 日本での創作あるあるを引っ張り出して色々考察してみたが、ま、そのうち理由が分かるだろうと早々に思考を放棄したのであった。







 □□□□□







 ディラが鼻歌交じりに森の中を歩いていく。

 目的地はマーリンガンの小屋。

 つまりバイトにいくのだ。

 この森に来て一週間が経つが、すっかり馴染んでしまった。


 ノックもそこそこに扉を開けると、マーリンガンが薬草を仕分けしていた手を止めてディラを見やる。


「やあ今日は遅かったじゃないか」

「来る途中でロンロさんが困ってて、荷物運びしてました」


 左手に持つ包みを近くの台へと下ろして、中のものを取り出す。


「人助けは良いことだね」

「お返しにリンゴを貰いました」


 お礼にと艶々で真っ赤のリンゴを頂いた。

 結構大きめで、見た目からして美味しそうだ。

 そのリンゴにマーリンガンが顔を輝かせた。


「グッジョブだディラくん。すぐに切って食べよう」


 二人はディラが不器用ながらにウサギに切ったリンゴをモシャモシャ食べている。

 そのウサギをマーリンガンが摘まみ、「なにこの残骸…、何を表してるの…?」とぶつぶつ言いながら食べている。

 失礼だな、ウサギさんです。


 お茶休憩を終え、早速作業を開始。

 チャカチャカとディラは効率良く指定されたアクセサリーを作り上げていく。

 ハンマーはダメだったけど、これは昔からやっていた事だから凄く得意だ。

 魔道具制作はひとつ間違えたら大爆発らしい。

 ちなみにその話聞いたの昨日。


 そんな手慣れた様子のディラにマーリンガンが訊ねた。


「君なんでアクセサリー作るの上手いのに不器用なの」

「さぁ、なんでなんですかね?集中力の違い?」

「常に集中してほしいなー。見てよあれ、君に割られないようにお皿を木の器に総入れ替えしたんだよ」


 ほら、と、マーリンガンの示すキッチンの方へディラが視線を向けると、食器棚の中身がほぼ茶色になってた。笑う。


「集中力って何で鍛えられるんですかね」と二人でチャカチャカと指示された魔道具作成中にも訊ねてみたら、「……訓練?」という微妙な答えが帰ってくるだけだった。


「もしくは、弓、とか?」

「弓?」

「標的の動きを予測したり、的確に当てたり。この魔法具を作る作業も相当な集中力が要るんだけどねぇ」


 へぇ、そうなんだとディラはゲームでやり込んだ愛武器を思い出す。


「弓ねぇ…」


 マーリンガンの弓という意外すぎる答えに手を止めた。

 ブリテニアスオンラインではずっと使ってた武器だけど、そんなに集中力いるかなと首をかしげた。


 ブリテニアスオンラインはあくまでもゲーム。

 でも言われてみれば確かに、ターゲットロックオン、射出威力調整&軌道の指定やらとやることは多かった気がする。

 とはいえ、すでに慣れ過ぎて、息をするように敵の急所を撃ち抜いていた。

 その技術が此処でも引き継げれば良いのになと思ったとき、「そういえば…」とマーリンガンが話を変える。


「ディラくん家に来るとき、というか帰るときもどっか見てるけど…。何か、見えるのかい?」


 意味深な表情で訊ねてくるマーリンガン。なんだその顔と突っ込みを入れてやりたい。

 しかし、まさか見られているとは思わなかったな。

 それにディラが答えた。


「…うーん。見えるというより、視線を感じるみたいな?」


 何かが突き刺さってくる。

 そう説明したら、マーリンガンが手を止めた。

 その顔は何かを企んでいるような笑顔だった。


「もしよかったら、君に見せたいものがあるんだけど、この後どうかな?」






 □□□






 マーリンガンに連れられて、気になっていたあの森の中へと入っていく。

 そこには道はなく、マーリンガンが雑草を踏みしめて道を作るレベルで森であった。

 それなのに、なんでかディラはまだ森の中にいる。


「なんで森の入り口に戻されないの?」


 通常であれば、俺は今頃入口ワープ完了しているはずだ。


「ボクがそう望んでないからね」

「意味わからん」

「わかんなくて良いよ」


 ザクザクと草を掻き分けて進むマーリンガンの後を付いていく間、ずっと感じていた視線が強くなってくるのを感じていた。

 なんだろう。体がソワソワする。


「そら、着いた」


 マーリンガンのその言葉と共に森が開けた。

 森の中に突如として現れた開けた場所に、地面に半分程埋まっている岩があった。

 その岩から少し視線を上げて、ディラは思わずテンションが爆上がりした。


「うおおおおおおーー!!!!なにこれ凄い!!!」


 岩には金色の棒が突き刺さっていたのだ。

 大きさは一メートルほど。

 例えるならば金色の鉄パイプである。


「エクスカリバーだ」


 このシチュエーションならば、きっと誰もがこう言うだろう。

 残念ながら刺さっているのは剣ではなくパイプであるが。


「ボクはノーネームゴッズ(名無しの神具)って呼んでる。君んところではそう言うのかい?」

「岩に刺さった武器はエクスカリバーなんですよ」

「へぇー、そうなんだ。はじめて知ったよ」


 ディラは岩に駆け寄り、そのパイプを上から下へと舐め回すように観察した。

 この刺さり具合、まさしくエクスカリバー。

 むしろエクスカリバー以外の何者でもない。


「これ抜けます?」

「さあね、でも簡単には抜けないんじゃないかな?」


 やってごらんとマーリンガンが促した。

 なら一回だけ試してみよう。

 気分はアーサー王。

 ディラは腕捲りをすると、よーしとパイプをしっかり握りしめて集中する。

 そんなディラを傍目にマーリンガンはなおも説明を続ける。


「何せこれは選ばれたものしか抜けないものだからね。例えば勇者とか、英雄とか、武器の精霊に愛されたものとか」


 呼吸を整えて…。


「君が変に気にしてたから連れてきたけど、まさか抜けることなんて「ふんっ!!」──」


 いけると思った瞬間、一気に引き抜いた。


 きれいに抜けた棒がキラキラ煌めき、マーリンガンが驚きのあまり口をあんぐり開け、天からは光のスポットライトがディラを照らした。


「……抜けちゃった」

「戻しなさい」

「はい」


 ヤバイヤバイとディラが慌てて棒を戻そうとしたが、何故だか岩にあったはずの穴が無くなっていた。


「………」

「………」


 ディラとマーリンガンが無言で見つめ合う。

 お互い顔は青ざめていた。


「あの、ごめんなさい?」


 解決策が何一つ思い付かず、とりあえず謝る以外思い付かなかった。







 頭を抱えたマーリンガンが、ゆっくりと顔を上げた。


「そうか、そう言うことか」

「何がです?」

「君も一応勇者として召喚された事になっているのか」


 巻き添えなのに?それでも勇者判定とか、基準ガバガバじゃない?という突っ込みを飲み込む。

 せっかくマーリンガンが思い付いた“抜けた理由”の考察なんだ。

 聞かなきゃと、ディラは先を促した。


「というと?」


 それとこの棒に何か関連が?


「そのノーネームゴッズは勇者の為の武器なんだ。だから勇者の資格がないと抜けないはずなんだ」

「ほうほうほう」

「その武器を守る役目がボク」

「ウンウン」

「面白半分で見せたらまさか抜くなんて思わないじゃん!!」


 じゃんじゃんじゃん…と、エコー。

 森の中なのに。

 それは本当に申し訳ないと思いつつ、抜いた俺も悪いけど抜けた棒も悪いし促したマーリンガンも悪いとディラは開き直った。


「どうします?立て掛けておきます?」

「抜いてしまったからにはそれは君の所有物だ。きっと何処までも追いかけていくだろう」

「なにソレ怖い」


 呪いの人形みたいじゃん。

 内心びびりながらもどうやって追い掛けてくるのか少し興味もある。

 飛んでくるんだろうか。跳ねるのか。

 ちょっと見てみたい気もする。


「仕方がない。ボクは見なかったことにするしかない。君もあれだ。さっさとそれを何かの武器に変化させて村を出た方がいい」

「なんで?」

「近くの教会が察知して来るはずだ。ボクは全力でこの村を守るけど、どうしても生まれたてのソレの気配は隠しきれないだろう。やつらは君のお友達に持たせたかったはずだからね」

「というとつまり?」

「この村から逃げるしかない。嫌だろ?君の嫌いな兵士がたくさんやって来て、君からソレ奪うだけじゃ飽きたらずに、多分消されちゃうぞ」

「それは嫌だな」


 一番嫌だ。

 なんせ俺はこの世界に来て教会と兵士という言葉が大っ嫌いになっていた。

 第一印象って大事よ。

 たぶん一生好きになることはない。


「今なら抜いたという気配で、移動するソレの気配を誤魔化せる筈だから、明日くらいには村を出た方がいい。ボクの責任でもあるから、何とかして旅に役立つ物をかき集めよう!」

「俺もおばあちゃんに言い訳考えないと…」


 あーあ、この村好きだったんだけどな。

 穏やかで、田舎のばあちゃん家に似ていて親近感が沸いていた。

 俺がでも此処をでないと、この村はもっと大変なことになってしまうのは嫌でも分かる。

 あーやだやだと心の中で子供のように地団駄を踏む。

 しかしマーリンガンはそんなの関係ない。


「とにかく武器に変化させてやれ。今のままだと可哀想だ」

「わかった。どうやるんだ?」

「念じるんだ。変われ!って」


 あまりにもシンプル過ぎるアドバイスに心配になったが、やってみるしかないとディラは棒を持ち直して念じた。

 すると棒がぐにゃぐにゃ動いて姿が変わっていく。


「おお…!」


 ものの数秒で、仕込み弓に変化した。

 しかもブリテニアスオンラインで使い慣れた仕込み弓そのままだ。嬉しい。

 色合いも重さも全く同じで、軽く感動しながらあちこち確認していると、何故か得意顔のマーリンガンが微笑む。


「名前は決めたのかい?」


 名前か、伝説の武器には確かに名前が必要だ。

 だけどこいつは考えるまでもない?


「名前はもう決まっている」


 弓を天に突き出した。

 キラキラと陽光に照らされた弓にディラは言い放つ。


「お前の名前はエクスカリバーである!!!」

今回も読んでいただきありがとうございます!!!

面白かったと思う方は是非しおり&評価をよろしくお願いします!!!

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