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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
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俺は誰ですか?『マーリンガン』

 早速小屋へと歩を進めていたディラだったが、その直前、不思議な視線を感じた気がして足を止めた。

 小屋の方でなく、何故家の周りの森の方向へとディラが視線を向けるが、別段そこに何があるわけでもない。なのになんか視線みたいなの感じる。


「鹿とかかな?」


 森なら鹿の一頭や二頭はいそう。

 でなければウサギだ。じゃなかったら怖い。


「まぁ、いいや。とりあえずはこっちだ」


 先に用事を済ませようと無視することにした。

 看板とかは見当たらない。

 小屋自体は素朴で、木造作りのこじんまりとした感じだった。

 話によると、ここに家主が一人で住んでいるとか。

 ディラは扉に付いたドアノッカーで扉を打ち付けながら「こんにちわー」と声を掛けた。

 するとすぐに返事が返ってきた。

 若い男性の声だ。


「開いてるよー」


 入っていいのか。


「じゃあお邪魔しまーす!」


 ディラが扉を開けると、お花畑の中にいるような香りに包まれた。

 次いで部屋の中にキラキラのアクセサリーやらなんやらの装飾品が溢れ返っているのを見て、思わずテンションが上がる。


「おおおー!めっちゃキラキラしてるー!」


 そんな部屋の中で、青銀の髪の人がゆったりとした椅子に腰掛けコーヒーを飲んでいた。

 幻想的な人で、一瞬女の人かと思ったんだけど。


「あれ?知らない人だね?でもここに来ることができたってことは村の人間ってことだよね」


 女性のような見た目して声が男だった。

 ギャップ凄い。萌えないけど。

 ディラはおばあちゃんの教え通りにお辞儀をして挨拶をする。


「つい最近住み着きました。ディラです」


 大切なのは第一印象、ということで元気よく自己紹介。

 すると、青銀さんは俺を何かを値踏みするように見た。

 瞳が綺麗な緑色で若葉みたいだなと思ってると、指を口許に宛てた青銀さんが「ふーん」とつまらなさそうにする。


「真名隠しか、でも魔術師ではなさそうだね」

「え!?」

「え?」


 真名隠し?なにそれ!?本当の名前じゃないって事!?

 ディラは青銀さんの言葉に軽くパニックを起こし、焦りながら質問した。


「あのあのあの、俺の名前はディラではないんですか?」

「え?んん?どういうこと?」


 青銀さんは予想外の反応だったのか頭をこてんと傾けた。

 その反応を見るに、おちょくりとかではなくて、本当の事のようだ。

 ディラは思わず天を仰いだ。


「………自分の名前すら忘れるおっちょこちょいでした」

「落ち込まないで、事情はきくからさ」


 一通り事情を説明しつつ、未だに名前すら知らない青銀さんに自己紹介をしてもらった。

 この人の名前はマーリンガン、こんな美少女のような見た目して87歳のおじいさんだった。

 詐欺じゃん。


「つまるところ記憶喪失と」

「頭打ったらしいですからねー」


 うっすらとだけどおでこに傷が残ってしまった場所をさする。

 ここを思い切り強打したらしく、おばあちゃん曰く割れていたとか言っていた。


「ふむ。記憶を治すために少し頭の中を見させてもらうよ。良いかい?」

「どーぞどーぞ」


 とんだ棚ぼたな提案にディラはよろしくお願いしますと頭を差し出すと、マーリンガンに遠慮無く鷲掴みされた。

 そんな掴み方ある…?


「うーん。落ちたときに打ったね。痛そうな打ち方。上から降ってきた人に弾かれてだから勢い凄いし」


 どんな打ち方したんだろう。


「おっと、その前に結構ショックなことあったみたいだよ?お友達かなー?絶望のような顔してるね。二人とも」


 何があった。


「…君盗賊団だったの?へー、意外だなー。刺青痛そう」


 まじか。俺悪者だったの?てか、刺青とは?

 次から次に出てくる衝撃的な言葉にディラは心の中での突っ込みが止まらない。

 その内マーリンガンが「はて?」と言いたげな顔をし始めた。


「んん?これは、どういうことかな?」


 マーリンガンが目を開けてディラを見る。


「聞きたい?」

「聞かせてくださいよ」


 今さら何を言われてももう驚かないぞ。

 そんな気持ちで次の言葉を待ってると予想外の言葉が降ってきた。


「君別の世界から来たっぽいよ。勇者召喚の巻き添えで」


「へぇ、別の世界から。そうなんすかー」


 あまりにも予想外過ぎる言葉に嘘っぽく聞こえてしまった。

 本当だとしてもどういう反応したらいいか分からない。

 しかしマーリンガンは思った反応と違ったようで、おや?と不思議そうにする。


「思ったよりも反応薄いね」

「実感ないんですもん」


 無いものは客観的にしか感じられない。

 マーリンガンは残念そうな顔をしているが、あえてリアクションしてやる義理もない。


「こんなもんかな。どうするかい?君、結構ショックなことあったらしいけど思い出す?」

「拒否したらどうなるんですか?」

「多分もう思い出せないよ。毒が回ってそれでおかしくなっているみたいだから」

「えええー」


 どうしよう。別に今のままでもとりわけ不自由してないけど。

 でもせっかくだしな。

 貰えるものは貰っておこう精神に天秤が傾く。


「治してください」

「わかった。じゃあ力を抜いて」


 言われた通りに力を抜くと、頭の中のノイズが取り除かれていく。

 ああ、なるほど。

 すべてのピースが填まったように、すべて納得した。


「俺は小野寺朝陽か。なんで盗賊団の時の名前は覚えているんだよ。短期間だったのに」

「怒られまくってたからじゃない?記憶って恐怖体験の時のが強く刻まれるっていうし」

「なるほど、一理ある」


 どうりで思い出すときに怒鳴り声ぎみで名前呼ばれてたんだな。納得納得。

 得るものは得た。

 思わぬ収穫でホクホクとしたディラはよいしょと立ち上がった。

 何か目的を見失っている気がしないでもないけど、まあいいかと思うほどに。


「じゃあ、お会計かな。記憶再生の」


 有料だった。

 まぁ、そうか。無料なわけがない。


 でも有益だったのには変わらないからお支払をして帰りましょうかディラがポケットをまさぐり、その途中で重要なことに気が付いた。


「…あ、待ってください…」

「ん?」


 ディラは青ざめた。

 しまった。もっと早くに気が付くべきだった。

 つい癖で出掛ける際ポケットに入れている財布を取り出そうとして、この世界に来るときに鞄に入れっぱなしだったことを思い出した。

 なお、その鞄は持ってこられていない。


「ごめんなさい俺今一文無しなんです」


 するとマーリンガンは、覗いた俺の記憶を思い出したようで、「うわ、そうだった」と驚いていた。


「じゃあどうしよう。……あ!」


 考えている最中、マーリンガンが案を思い付いたように声を上げ、ディラに向かってにんまりと笑う。

 その顔が何故か怖くてディラはやや引いた。


「君、向こうで内職で硝子玉と針金でアクセサリー作ってたよね」

「そこまで記憶見たんですか。完全趣味でしたけどやってましたよ」


 推しに合う色で合わせたりと、針金細工とか結構上手いと自負している。


「実はボク少しスランプ気味でね、良ければ手伝ってくれないかい?それでお金はチャラという感じでさ」


 言いながらマーリンガンが部屋に飾られている数々の装飾品を示した。

 それでディラは察した。

 それなら出来るし願ったり叶ったりである。

 というよりも、はじめからそれを目的で来たんだったとディラは頷いた。


「元々そのつもりだったんで良いですよ」

「よし、決まりだね。じゃあ明日の朝から来てくれないか?はい、これ持ってれば辿り着けるから」


 マーリンガンに工房のオッサンに渡されたのと違うデザインの物を渡された。

 鳥みたいな綺麗なアクセサリーだ。


「了解であります」


 こうして棚ぼた的に記憶が甦らせることができ、さらには職場まで手に入れたのであった。

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