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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
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迷宮都市コクマー『みんなにトラウマを作りました』

 みんな揃って馬車の預かり場へ向かう。

 さて、何て言おうかとディラは歩きながら考えたが、一向に良い案が浮かんでこない。そもそもディラが相手を説得する為の話術なんて持ち合わせてはいないのだ。

 やはりここはいつものリーダーに任せるかと、思考を放棄した所で預かり所へと到着した。

 すると預かり所の主がやってきた。やや、背が低い彼はドワーフなのだろうか。

 

「おやおや、いらっしゃい。今日の分のお金は貰ったがどうしました?」

「今日は馬に会いに」

 

 クレイがそう言えば主は納得した。

 

「そうでしたか。こちらです」

 

 案内された場所は厩舎だ。

 普通の馬に混じってグラーイが繋がれてた。

 

「ちゃんと馬扱いしてくれてる…」

 

 人形だから食べもしないし出しもしないのでモノ扱いかと思いきや、馬と同等の扱いに驚いた。だけどやはり人形なのでその一角だけ凄く綺麗だった。

 ロエテムがやって来たことにグラーイが気付いて尻尾を振る。

 じゃあ説明をと、クレイが行こうとするとロエテムがやって来て違う違うと止めた。

 

『製作主はディラさんなので、この人の言うことの方が納得する』と書かれていた。

 

「んんーー~」

 

 なるほど。今回はリーダーカードを使えない、と。

 

「じゃ、ディラ頼む。オレは主に馬車が売れるところを聞いてくる」

「……気が進まないけど、わかった」

 

 仕方がないと咳払いをして、ディラはグラーイの元へ行くと、ディラが近付くとグラーイが「お!」という感じでこちらを見た。

 さて、どうしようか。変に誤魔化すのも良くないだろう。

 ここは正直に言ってしまおう。

 

「えー、……、グラーイ、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」

 

 グラーイに全て説明した。

 馬車を手放さないといけなくなったという言葉でグラーイが耳を後ろに倒して怒っていたが、なんで手放さないといけないのかを丁寧に丁寧に説明すると怒りを納めてくれた。

 

「もちろん君は一緒に来て欲しいんだ。そのー、君が嫌じゃなかったら…」

 

 好きなものを他人の都合で手放させてしまうので、嫌われてしまうかもしれないと思っていた。

 人形とはいえ、個人的には所有物とは思ってないし、仲間だからと思っている故の発言。

 端から見れば馬、人形に何言ってんだろうこいつとか思われるだろう。

 すると、グラーイが鼻からブシュと音を出す。

 毎回思うけどどうやって音を出しているのか。

 ロエテムがディラの肩を指先でつついてノートを見せてきた。

 

『グラーイは仕方無いから許してやる、といってます』

「本当に!?」

『その代わり要求を一つ聞いてもらいます』

 

 予想外の返答に戸惑う。

 

「……な、なに?」

 

 一発蹴らせろとかじゃないだろうな。

 ドキドキしながら返事を待っていると、グラーイは予想外の要求をしてきた。

 

『口を作れと言ってます』

 

 口を??

 見間違いかと思いもう一度見る。

 やはり口を作れと書いている。

 思わずグラーイに訊ねた。

 

「口、欲しいの??」

 

 頷くグラーイ。

 

『ついでにベロも欲しい』

「ベロ…」

 

 どうやって作ればいいのだろうか。

 全く案が浮かばない。

 

「………マーリンガンに何で作った方がいいのか相談しながらで良いですか??」

 

 グラーイからオーケーの許可が降り、馬車は売りに出されていった。

 納得したもののグラーイの寂しそうな背中を見て珍しくジルハが一言。

 

「そのうちまた馬車買いません?」

「そうだね」


 それにディラは返事をしながら、今度はグラーイの意見も聞こうと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 クレイが宿に戻ってきた。

 

「スッゲー高値で売れた」

 

 そう言ったクレイの手にはパンパンな袋が握られていた。

 にしては何だか予想していたよりも袋が大きい気がした。

 

「多くないか?」

 

 ドルチェットがそう聞くと、クレイが理由を説明してくれる。

 

「購入したときの二倍で売れた」

「マジかよ」

「そんなことあるの」

 

 ディラとドルチェットは驚いて見せろ見せろとせがむと、クレイは机にお金を広げてみせた。二倍の話は本当だった。

 おかしい。中古品だから普通は値が下がる筈なのに、何故高値で売れたんだろう。

 その答えは単純だった。

 

「車輪の改造が値を吊り上げたっぽい。買い取りたい業者複数で競り合いしていたから、買取価格が二倍になったんだ」

「なるほど」

 

 道理で高く売れた筈だよ、とディラは納得した。

 購入してすぐに馬車の揺れの酷さにげんなりしたディラは、勝手に馬車を改造したのだ。勿論マーリンガンの魔道具の力も借りてだけど、馬車の揺れはほぼ消すことに成功していた。

 この世界にはまだ板バネすら普及されてないらしいから、揺れない馬車なんて革命的だっただろう。

 というか。

 

「みんな、馬車の揺れ嫌なんだね」

 

 そう言えば、みんな「だろうな」と同意した。

 ディラは考えた。これ、もしかしたら後付けできる揺れ吸収バネとか作ったら相当売れるのではなかろうか。

 が、ここで名前が広がったら教会がすっ飛んでくるかもしれない可能性にディラは頭を振って考えを消し去った。

 そういうことはもっと上手い人がやればいい。

 

 

 

 後にこの時に売った馬車の揺れ吸収の仕組み、板バネが元となって馬車革命時代が到来するのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 アスティベラードの元へ、馬車購入時のお金が戻った。

 まさかこんなにも早く返ってくるとは思ってなかった、とアスティベラードが漏らした。

 

「せっかく出してくれたのに悪いな」

 

 クレイがそう言うと、アスティベラードはお金の入った袋をノクターンに手渡しながら「ふん」と鼻で笑う。

 

「なに、必要になればまた購入すると良い」

 

 アスティベラードは男前だった。惚れそう。

 

 

 

 

 翌日、グラーイを預かり所から引き取った。

 心なしか、グラーイはやっぱり寂しそうな雰囲気を醸し出していた。納得はしても、それはそれ、これはこれだ。

 なにか慰める方法はと思案していると、アスティベラードが「グラーイよ!」と話し掛ける。

 

「貴様は実に善い馬だ。力も強く、運び方を心得ている。よって、私の荷物を運ぶ権利を与える」

 

 どういう慰め方??

 そう思ったが、アスティベラードはさっさと自分の荷物をグラーイの装備に吊るした。

 

「あの、アスティベラード??」

 

 固定を終えたアスティベラードはグラーイを撫でながら言う。

 

「人のために作られたモノは、人の役に立って喜びを得る。見よ、こやつの尻尾を」

 

 アスティベラードがグラーイのお尻を指差すと、グラーイの尻尾がパタパタと振られていた。

 これは喜んでいるのだろうか。

 

「……グラーイ。俺の荷物もお願いできる?」

 

 そう言って、内職用の鞄を見せると嬉しそうにした。ついでに前足で地面を各動作をする。何かを要求する時に良くする行動だけど、これは果たして喜んでるのだろうか。

 ロエテムを見ると早速通訳してくれる。

 

『仕方ねえから持ってやるよぉ!』

 

 とのことだった。

 ロエテムのお墨付きも得られ、じゃあお願いします、とクレイも食糧鞄もお願いして、みんなも小さいものを預けてみたら、荷物フル装備になった。

 心なしか誇らしげなグラーイが馬にしては上手なスキップをしながら歩いていく。

 喜んでいただけて何よりだ。

 これからは余分な荷物を持ってもらうのも良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 洞窟に向かって進んでいると、既に何人かの探索者の隊が集まって来ているのが見えた。

 早速挨拶に行こうとしたら、待てとクレイに止められる。

 

「なんで?」

「あの連中、良く見てみろよ。牽制しあってる」

 

 言われてみてみると確かに仲良さそうには見えない。

 

「ここでオレ達のようにノホホンと参加したら袋叩きに会うのは目に見えている。時間をずらして入るぞ。いいな」

 

 みんなの賛同を得て、隊が潜ってしばらく経ってから洞窟へと近付いた。

 

「一旦グラーイを鞄の中に仕舞ってくれ」

「へいへーい」

 

 運んでくれていた荷物を回収し、グラーイを鞄の中に納めた。

 

「さて、このロープであそこまで降りるんだけど…」

 

 クレイがノクターンを見ると顔色を悪くしていた。

 ドルチェットが崖を覗き込む。

 

「……結構高いなここ」

「あの人達はどうやって降りたんでしょうか?」

 

 ジルハもドルチェットと同じようにそう感想を漏らした。

 言われてみればどうやって渡ったのか。

 

「滑車とかもってたとか」

 

 クレイのその言葉に下を見たままドルチェットが「そんなのもってねーぞ!」と言い返す。

 残念なことにディラも持っていない。

 ならばどうするかと頭を捻ると、とある案を閃いた。

 と言うよりもディラがブリオンで良くやっていた方法をやれば安全に渡れる。

 

「はい!」とディラが挙手した。

 

「いい方法があります!」

「なんだ?」

 

 クレイがディラに言葉の先を促すので、ディラは弓を手に答えた。

 

「俺のスキルであそこに射ち出す」

 

 一斉にバカなのかお前みたいな視線を向けられた。

 しかし一人だけ何かを思い出したような顔をした。アスティベラードだった。

 

「……もしや、貴様の友人がお前を飛ばしたあれか?」

「そうそれ!」

 

 アスティベラードは覚えていたらしい。

 その言葉でみんなも「そういえば」と思い出していく。

 

「しかし、あやつのは剣だったから何となく分かるが、貴様は弓であろう?できるのか?」

 

 アスティベラードが疑いの目を向けたが、仕方ないとディラは思った。

 こればかりは実践してもらう方が早い。まさに百聞は一見に如かず、だ。

 ならば一番手は誰にするか。

 それはもう決まっていた。

 

「クレイ、お手本お願いできる?」

 

 ということで生け贄を用意。

 生け贄といっても怪我はしないから適切な言葉では無いだろうが。

 

「オレかよ」

「一番防御力強いし、何よりリーダーだし」

「それはそうか」

 

 リーダーを出すとクレイはあっさり納得してもらえた。

 なんて便利なんだろうかこの“リーダー”は。免罪符か。

 

「使うのは【人間ロケット】っていうスキルで、人間を文字通りロケットの様に飛ばすことができるんだ。飛んでいる間はほぼ無敵状態で、調整次第では着地も安全。崖越えには良く使われるスキルなんだ」

「怪我する奴とは居ないのか?」

「意地悪で崖側面に指定したり、河に指定したりではあるけど、基本大丈夫だよ」

「そうか」

 

 ドルチェットも納得。

 

「じゃあ、やってやるか。リーダーだしな」

 

【人間ロケット】スキルを発動すると、専用の矢が現れた

 赤い矢印みたいな矢だ。

 弓職はこれで人を飛ばす。ちなみにそれぞれの武器に【人間ロケット】スキルは発言可能で、それぞれ飛ばし方が微妙に違った。

 剣とハンマーは同じモーションだが、弓と銃は専用の武器が出てくる。何故か格闘家はナックルがその専用武器に辺り、人間を殴って飛ばす。

 運営は一体何を考えているのだろうか。

 

 それはさておき、飛ばしますか。

 矢をつがえ、声をかける。

 

「じゃあ飛ばすよ」

「まてまていきなりだな!なにか用意とか無いのか?」

「もうこっちで指定してるから別に」

「そうか…」

 

 不安な顔のクレイにロケット指定すると、洞窟の平らな面へと向かって矢を飛ばした。

 するとクレイの体が矢に引っ張られるようにして飛び、悲鳴を上げながら崖を飛び越す。

 

 そして。

 

「うおおお!!」

 

 クレイが指定の場所に着地した。

 

 念のための確認としてクレイを見れば、しっかりと矢も役目を果たして砕け散っている。ポカンとしているクレイにディラは口横に手を立てて訊ねた。

 

「どうだったー???」

 

 するとクレイも同じようにして答える。

 

「なんか凄かったーーー!!!」

 

 わりかし好評のようで何よりだ。

 これで安全性も証明できただろう。

 残った皆を振り返り、人数分の矢を生成する。

 

「よっしゃ!次行きますか!」

 


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