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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
49/50

迷宮都市コクマー『馬車を手放さないといけなくなりました』

 久しぶりにさっぱりした気持ちになった。

 そのうちマーリンガンにシャワーだかお湯だかを出せる魔道具の作り方を教えて貰っても良いかもしれない。

 火照る体を冷ますために空いている長椅子にクレイと二人で並んで座っていると、足音が近付いてきた。

 

「クレイさん!ディラさん!こんなのありましたよ!」

 

 一足先にお風呂を上がっていたジルハが、手にコップを持ってやってきた。

 鉄のコップだ。それが三つ。

 

「何それ」とディラが訊き、「高かったんじゃないか?」とクレイが言えばジルハは、いえいえと否定した。

 

「実はそれほどでもなかったです。彼処の屋台で売ってました。それよりも見てくださいよこれ、氷入ってるんですよ。しかも結構な量」

 

 見せられたコップには氷がこんもり。

 それを見てディラとクレイは「うわあ!」と声を上げた。

 何の変哲もない氷だが、二人が驚いたのには訳がある。実はこの世界では氷を手に入れるのは大変なのだ。氷室があれば手に入るけれど、それ意外だと魔法使いや魔道具が作るので割高になっている。だからこんなに氷が入れられたお水は本当に久しぶりだった。

 

「はいどうぞ」

 

 差し出されたコップを「ありがとう」と御礼を言いながら受け取った。

 カラカラと氷を揺らして音を楽しむ。相変わらずこの世界は気温は低いけれど、お風呂上がりは冷たいものをがぶ飲みしたいものだ。

 三人同じタイミングでコップを傾けた。

 口から喉へと冷たい水が滑り落ちていく。

 何の味もしない水の筈なのに、冷たいだけでとても美味しく感じた。

 

「あー~~、うっまー!!」

 

 ディラは思わずそう感想を漏らすと、後ろから声が降ってきた。

 

「何を美味しそうに飲んどるのだ」

「あ、アスティベラード」

 

 いつの間にか風呂から上がってきていた女性組三人が長椅子の後ろにやって来ていた。

 ドルチェットがスタスタと素早くジルハの元へと近付いて、コップを持つ手を掴む。そしてそのまま水の取り合いに発展した。

 

「自分にも一口のーまーせーろーよー!」

「自分で買ってよー!」

 

 子供の喧嘩のような二人に「こらこらそこ二人喧嘩しない」とクレイが仲裁に入った。なんだか兄弟みたいだなと思いながら、ディラはコップの中の小さな氷を口に含んで噛み砕く。

 その後無事アスティベラード達もお水を買って美味しく飲んでいた。

 

 氷を作れる魔道具が作れるかマーリンガンに訊いてみるとしよう。

 

 

 

 

 

「乾杯!」

「かんぱーい!!」

 

 クレイの音頭でジョッキがぶつかる。

 中身はお酒ではなく水だが、あまりにも美味しくていくらでも飲める。しかもこちらも氷がたくさんで、それだけでディラのテンションが上がった。

 これは絶対に氷室があるのだろう。その証拠にメニューもケテルに比べて数が多い。氷があれば肉や野菜を新鮮な状態で保存が出来るからだろう。

 隣の地域だから対して変わらないだろうと舐めていたけど、所変わればなんとやらの方だ。

 

「絶対に氷作れるようになろう。…ん?」

 

 ディラが美味しいウサギシチューを食べていると、隣に座るクレイが神妙な顔で後ろを気にしていた。

 

「どうしたの?」

「しっ」

 

 話し掛けると、クレイに静かにとジェスチャーされる。なんだろうと、ディラも【千里眼/見通し】を発動して後ろの状態を確認した。

 すると、ディラ達のすぐ後ろの席に探索者達が酒を片手に何かを話していた。

 もしかして聞き耳を立てているのか。

 

 ディラも真似をして耳を済ませてみたけど、雑音が多くて聞き取れない。

 もしかしたらクレイは聞き取りが出来るスキルを持っているのだろう。空族ならそういうスキルを持っていても不思議ではない。何せ飛行船の看板にいる間、声が強風で聞こえなくて、ディラは両手を耳に当てていたのに団員達はそんな素振りをしていなかったから。

 

 後で何の話だったのか聞こうと、そう思いながらディラはまたシチューにスプーンを差し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!食った食った!」

 

 ドルチェットがお腹を擦りながら満足そうに言う。そんなドルチェットをジルハがため息を吐きながら注意した。

 

「下品だよドルチェット」

 

 その言葉にドルチェットはムッとしたのか、ジルハに言い返した。

 

「なんだよお前、親父みたいなこと言うな」

「え…、いやいや…誰だってそういうよ」

「えー??」

 

 言う言わないの二人の攻防を後ろから見ながら宿へと戻る途中で、ディラは先ほどのやり取りを思い出して、クレイに訊ねた。

 

「そういえばさ、さっきのアレ、なんだったの?俺じゃあ聞き取れなくてさ」

「ああ、アレか」

 

 みんなが何だとクレイの方へ意識を向ける。

 

「探索者達の噂話だ。彼らの言うことには、この近くに首都大迷宮へ繋がる通路を発見したっていうやつさ」

「首都大迷宮??」

 

 なにそれ、とディラが聞き返せば詳しく説明をしてくれる。

 

「コクマーの首都、アイーアツプスが管理している地域の大多数を占める大迷宮の事だ」

「ほー」

 

 大迷宮はよく聞くが、首都が管理しているのは知らなかった。

 

「でもそれが何なの?」

 

 そこまで噂されるようなことなのか、ディラは全く分からなかった。

 だけど、アスティベラードは何か思い付いたことがあったようだ。

 

「…もしや、首都はその大迷宮に潜る物に支払いを命じておるのでは?」

 

 どういう事だ?と視線でアスティベラードに続きを促す。

 

「さすれば首都は効率よく儲かり、一攫千金を夢見る者は仕方なく払う。更には手に入れた宝の何割かは献上しなければならない、というのもあるかもしれんな。それを仮定して考えれば、恐らく噂の真意はこうだろう」

 

 ふ、とアスティベラードは口許に笑みを浮かべる。

 

「ただで宝の山へと踏みいることが出来る素晴らしい場所が見つかった。そうであろう?」

 

 おお、とクレイが感心した。

 

「アスティベラード大正解だ」

 

 クレイに誉められて得意顔のアスティベラード。そうであろうそうであろう、とアスティベラードの幻聴が聞こえてくるようだ。

 だけど、ディラはそこで疑問がひとつ浮かんだ。

 

「でもそれ俺達に関係ないんじゃない?」

 

 こちらは迷宮には興味がない。行く目的もないのだ。

 しかしクレイは「いいや」と否定する。

 

「実はそうでもない。繋がっている、ということはだ。その大迷宮から流れてくるモンスターもいるはずだ。大迷宮は大きい分、モンスターの種類もレベルも質も桁違い。それをちょっと狩るだけでも金になる。なにも宝はとる訳じゃないんだ。悪いことではない。だろ?」

 

 だろ?とクレイに同意を求められた。

 考えた。確かに盗人の真似をするわけでもないし、何なら害虫駆除をするようなものだ。

 

「……そうなのかな??」

 

 念のためにもう一度考える。しかし考えれば考えるほど分からなくなったのでアスティベラードに振った。

 

「そうなの?」

「私に聞くな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿に戻り、明日の準備をしようとしたところで、突然マーリンガンから通信が入った。。

 

「はい、もしもしディラです」

「『はいはーい!マーリンガンだよー!今どこら辺かな?』」

 

 お馴染み小型マーリンガンが現れて、寝台の上で腰に手を当てながら辺りを見回す。

 

「『ふむ、造形が少し違うね。無事にコクマーに着けたようで何よりだ』」

 

 よいしょとディラも寝台に座る。

 

「ところで何か用なの?」

 

 マーリンガンが「ああ、そうそう」と言いながら寝台に座る。

 

「『実は頼みたいことがあってね。迷宮の中にあるとあるものを探してほしい』」

 

 そう言ってマーリンガンはイラストをみせた。

 そこに描かれていたのは真っ黒の四角い、いや、長方形の物体だった。

 

「………羊羮??」

 

 ディラがそう思うのも仕方がないといえよう。何せそのイラストは一見、羊羮にしか見えないからだ。

 そんなディラの言葉を無視してマーリンガンは続ける。

 

「『で、見つけたこれに石をひとつ置いてくれないかい?』」

 

 石とは、ばら蒔くようの石だろう。しかし、そんな所に置いて何になるのか。疑問は残るがディラは頷いた。

 

「まぁ、いいけど。迷宮ったって地域全体が迷宮じゃん。当てなく探し回るとか無理なんだけど」

「『そこは心配いらない。君の鞄の中に地図をいれておいた。それを使うといい』」

「……地図?」

 

 そんなものあったかなと思いながら手を突っ込むと、地図が出てきた。

 しかも迷宮の地図で、目的の場所にご丁寧に星マークが描かれている。

 その他にも変なマークがあったり謎の隙間があったり数字が描かれていたりと変な地図だったけど。

 何でもありになってきたなこの魔術師とディラが小型マーリンガンを見ると、ドルチェットが何かを見つけた。

 

「ん?おいこれ都市大迷宮の地図じゃないか?」

「どこ?」

「ほら、ここに書いてる」

 

 ドルチェットが指差す地図の右上に都市大迷宮と記載されていた。

 

「げっ!まさか都市に向かえとか言うんじゃないよね?」

 

 教会に近付きたくないディラが心底嫌そうにそうに訊ねると、マーリンガンは笑いながら首を横に振った。

 

「『ははは、いやいや、そんなわけ無い。入り口の方に町の名前があるだろ?そっちの方が行きやすいから、そこから向かってくれないかな?』」

 

 町の名前?そんなものあったかなとディラがもう一度地図を見てみると、今滞在している町の名前が紙の下側に書いてあった。

 その事にディラは小型マーリンガンに質問する。

 

「…監視カメラか盗聴機でも仕込んでる?」

「『いや?仕込んでないけど?』」

 

 疑惑の目を向けたディラにマーリンガンは首を傾けた。本当に仕込んでいないのか。

 

「まぁ、いいけど。いいかな?」

 

 念のためにみんなに訊ねると、「いいよ」と承諾された。

 

「『いやぁ、ありがたい。ああ、そうそう。注意事項がひとつあってね』」

 

 小型マーリンガンがディラの持つ地図を指差した。

 

「『この道一方通行だから、戻れないから気を付けてね。じゃあ、よろしく!』」

 

 ちょい待てとディラが引き留める前に小型マーリンガンは消えた、

 再度通信を試みても繋がらない。

 

「とりあえず、その噂のところに行ってみよう。問題は素直に話してくれるかどうかだが…」

 

 クレイの言葉にジルハ挙手した。

 

「それなら僕に任せてください!」

 

 ジルハは自信たっぷりだった。本人がやれると言うなら否定するまでもない。

 

「じゃあよろしく頼むよ」

 

 クレイが頼むと、ジルハは元気に「はい!」と返事をした。

 

 

 

 翌日、本当にジルハは場所を特定してきた。

 

「やっば。どうやったの?」

 

 ディラが訊ねると、ジルハは答える。

 

「簡単ですよ。追跡してきました」

「…あーー…本職…」

 

 忘れてたけど暗殺者アサシンだったこの人。

 

「じゃあ案内しますね」

 

 ジルハの案内のもと辿り着いたのは険しい横穴だった。正確に言えば、崖の途中に空いた穴。

 そこに行くために簡易的なロープが張られている。

 みんなで下を覗く。結構な高さがあって、気を付けなければ事故が起こるのは間違いなかった。

 

「こりゃあ…」

 

 思わずクレイが言葉を詰まらせた。

 恐らくみんな思っているのは同じだろう。

 

「……一旦戻るか」

 

 

 

 

 

 宿屋にて会議を始めたが、みんな沈黙をしていた。

 先にクレイが気まずげに口を開く。

 

「……、あー、その。みんなもなんとなく感付いているとは思うが…」

 

 チラリとノクターンを見る、そしてノクターンはディラを見ていた。

 クレイとノクターンの視線の意図を察したディラは、確認するように口に出した。

 

「あーと、うん。マーリンガンの用件を達成するには馬車を捨てないといけないって事だよね」

 

 クレイが頷く。

 折角みんなで買って、メンテナンスや改造を施した馬車を手放さないといけない。

 何よりもグラーイが気に入っているものを取り上げないといけない事実に一同気まずくなっていたのだ。

 グラーイは人形とはいえ、今じゃ立派な仲間だ。それを自分達の都合で取り上げるのが気が進まなかった。

 

 アスティベラードが提案をする?

 

「他の所から向かうってことは出来ぬのか?」

「俺もそう思って地図を見返してたんだよ。回り道になっても行けそうな所がないかなって」

 

 本当ならそうした方がいい。だけど、それが出来ない理由があった。

 

「なんだけどさ、これ見る限り本当に一方通行なんだよね。というより、これ以外の道が記載されてないんだよね。あとこれ恐らくなんだけど広大な道のりを無理やりこの一枚に詰め込んでいるっぽい」

 

 ヒラヒラと地図を振り、みんなに見えるように広げて机に置いた。

 

「そもそも大迷宮の地図がこの一枚に丸々収まるの無理がある。それにマーリンガンがこの地図寄越したってことは多分意味があるんだろうし」

 

 わざわざ地図に道順を書いてる。手間だろうにそこまでするのはきっと意味があるんだろう。

 

「確かに、あやつが直接言ってきたからには何か意図があるのかもしれぬ。ノクターン」

「……、…………」

 

 ノクターンは複雑そうな顔をしていた。

 きっとノクターンが悩んでいるのはグラーイの事でだろう。

 言っていることは分かるが、納得できないという顔だ。

 そんな時、ノクターンの後ろに控えていたロエテムが立ち上がりディラの元へ来て、指さしで肩を叩いた。

 

「なに?」

 

 ディラは肩を叩いたロエテムを振り返ると、今度は腕をグイグイと引っ張って立ち上がらせようとする。

 何だろうかと素直にディラは立ち上がると、今度は何処かへ引っ張って連れていこうとしたのでディラは焦った。

 

「なになになに??どこに行くの???」

 

 目的も分からないまま着いていけないと立ち止まると、ロエテムが腰に装備している首から下げたノートに文字を書いた。

 そこにはこう書かれていた。

 

『グラーイとおはなしをしよう』

 

 と。

 


二章は毎日更新したいので、一旦完結して書き溜め期間を設けます!!!!

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