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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
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空中遊泳『認識が変更されたようです』

 

 木製造りの廊下を歩き、オルゾアが途中にある扉を開けた。

 

「お前らの部屋はここだ。鎧はすまねーが床で寝てくれ」

 

 中に入ってみればハンモックがたくさん吊られた部屋だった。上下に二人ずつ横になれる使用で、ハンモックで寝るのに憧れていたディラはとてもテンションが上がった。

 アスティベラードが壁際を見て何かに気が付いた。

 

「窓があるな」

 

 アスティベラードが丸窓へと向かう。

 そこからは整備をしている船員達が見えるらしく、アスティベラードがガラス越しに下を覗き込んでいた。

 一応開閉が出来るような造りだった。しかも親切なことにカーテンも備えられている。

 ドルチェットとジルハがじゃんけんでハンモックの上下を決めているのを横目に、オルゾアは説明を続ける。

 

「飯は1日3食あるが、雑穀パンと豆スープのみだ。物足りなかったら各自の携帯食で凌いでくれ。水はありはするが限られているから、制限させてもらっている。質問は?」

 

 はい!とディラが手を上げる。

 

「トイレは?」

「そこの突き当たりだ。排泄孔は外と繋がっているから落ちたら助からない。夜は気を付けるように」

 

 それを聞いてゾッとした。ポットンかよ怖いな。

 これはめんどくさがらずに灯りを持っていった方がいいかもしれない。

 

「さて、そろそろ出発だ。揺れるから安定層になるまではこの部屋からでないように」

 

 そう言い残し去ろうとしたオルゾアが、ディラの方へとやって来ると、皆に聞こえない程の声量で一つ忠告した。

 

「お前はあまり動くな。直接は手を出されんかもしれんが、間接的に何かされるという可能性は否めないからな」

「……へーい」

 

 オルゾアのありがたい忠告にディラは【気配探知】スキルを発動しておく事に決めた。何もしていないのに危険が降ってくるなんて冗談じゃない。

 

 

 

 

 

 

「出立!!!」

 

 飛行船が浮き上がる。

 丸窓から見る景色が下へと流れ、飛行船が浮上しているのが分かった。

 アジトを出ると、さっきまで晴れていたのに結構な量の雲が出ている。その雲に紛れるようにして上昇し、ある程度の高度に至ると、前進し始めた。

 風の影響からかとても揺れる。

 

「ひぃ…、…お、小川に揺れる木ノ葉舟は、ゆらりゆらりと揺蕩って、見知らぬ地へと至るため、波に帆を立て走り出す…、一筋の光る道よ、惑うな揺れるな前を向け、走れ走れ果てへと至れ…[ズナーキフィユ]…、うっぷ…」

 

 ノクターンが必死に酔い止めの魔法を唱えているが、効き目は弱いらしい。

 これはノクターンに聞いた話だが、魔法の発動において効果を最大に引き出す条件というのがあるらしい。

 まず一つは熟練度。

 意外なことだが魔法にも熟練度、レベルが存在するらしくそれは正しく使えば使うほど経験値が溜まってレベルが上がり、一定のレベルに至ると更に効果の上がる詠唱が見えるようになるらしい。そうしていくことでその魔法の精度、効果を上げていくんだとか。

 それともう一つは集中力。

 魔法を発動する際にちゃんと集中してなければ弱くなってしまう。なんとなくスキル発動時と同じようなものなのだと理解した。

 実はスキルを発動するのにも消費するのがある。

 魔力少量と、(※)気力だ。

 ※ブリオンではSPと表記されていたそれにはゲージがあり、スキルを発動すれば消費される。魔力と違うのは、これが尽きると異常状態“無気力”が発生し、最悪死ぬ。

 これの消費、ノクターン曰くイメージの注入が鮮明なほど魔力がしっかりと肉付いて効果を最大に発揮する。

 ところが今回は船酔いが酷くて集中がうまく出来ずに効きが悪い、というわけだ。

 

 ディラはあまり酔わないために、マーリンガンからそういった魔道具の製作法方を教わらなかった。

 教わっとけば良かったなぁとか思いつつ、気休めになるならとエクスカリバーを起動して、医療システムスキル【回復薬】を発動し、対象者をノクターンに設定しておいた。

 これで魔法を発動できるくらい回復すれば良いんだけど。

 ディラの持つこのスキルは、自分以外に指定すると、その効果は半分程度まで落ちてしまう。しかもディラはこのスキルよりも回避ばかりを育てたので、ノクターンにとって実質このスキルは低レベル。焼け石に水ほどの効果しかない。

 でもやらないよりはマシかなと、思ったゆえの行動だった。

 

 だが、時間が経つに連れてますます船の揺れば酷くなった。

 思ったよりも激しい揺れにノクターンと、予想外のドルチェットが早々にダウン。

 そして意外なことにジルハが顔色を青くしてハンモックへと横になって耐えるようにして目を瞑っていた。船酔いかと思ったのだが。

 

「どうしたの?ジルハも船酔い?」

 

 ジルハに代わってグロッキー状態のドルチェットに「そいつは気圧病……」と一言返された。

 なんなのだろう、その気圧病とやらは。

 

「ノクターンはこうなればしばらく使い物にならん。私も疲れたゆえ、少し寝る」

 

 そしてアスティベラードは疲れたらしく、寝るといってハンモックへ横になるとすぐに寝てしまった。ロエテムもノクターンの側の床で寝転がり、クレイは先程やってきた船員に呼ばれて行ってしまった。

 床に胡座をかいて、ディラはポツリと呟いた。

 

「……暇だな」

「ケイケーイ」

「お前は楽しいか?何も見えないだろ?」

 

 いつもはアスティベラードかノクターンのどちらかと居るトクルが、窓際で外を見ている。

 ディラも暇潰しに窓から外を見るが、ずっと雲のなかを飛んでいるようで常に白一色でつまらない。

 でもトクルは鳥だからこの景色が懐かしかったりするんだろうか。

 

「……俺も寝よ」

 

 仕方ないので安定するまでは大人しくするかと、ディラもハンモックへ寝転がり目をつぶった。

 

 

 

 

 

 ようやく安定し始めたらしく、揺れが収まってきていた。

 窓を見ればまだ白い。未だに雲の中を進んでいるようだ。

 ディラは大きく欠伸をしてから伸びをした。

 

「暇だーぁ」

 

 先程も同じ言葉を言った気がするが、それ程までにディラは暇だった。

 皆理由は様々だけど寝てしまっているので相手もおらず、本気でディラは暇をもて余していた。

 どうしたものかと頭を捻り、唐突に良い案が浮かんだ。

 暇ならば、暇潰しもかねて掃除くらいすれば、少しは警戒が緩むのではなかろうか。

 

「よし!そうしよう!」

 

 そうと決まればディラの行動は早かった。

 部屋から出て、見つけた船員にディラは駆け寄る。

 うわ!と嫌なものを見たような目をされたけれどディラはめげない。

 

「暇なので何か仕事をください」

「ハァ?」

 

 何かの冗談か?と言いたげな視線にディラは同じ言葉を繰り返すと、船員は冗談でないことを理解した。

 

「んじゃ…、これでもやってろよ」

 

 心底嫌そうな顔をしながらも、船員から掃除道具を渡された。

 望んでいたものを渡されて、ディラはその船員にお礼を言うとすぐに掃除を開始した。

 

 失敗しないようにすごく慎重に、それでいて出来る限り徹底的に細かく掃除をした。ちょうど良い暇潰しに夢中になっていれば、あっという間に時間が過ぎていく。

 

 

 

 

 

「ちょっと休憩しよーっと!」

 

 掃除道具を片付けて部屋に戻ると、ちょうどクレイと部屋の前で遭遇した。

 手には机と、大きめのかごがあった。

 

「ちょうど良かった。昼御飯を持ってきたんだ。扉開けてくれ」

 

 

 

 

 

 

 クレイによれば、山脈越えは早くて3日遅れて5日程らしい。

 雲の中を進んでいるのは、この辺りを偵察している教会関係の船に見付からないようにするためだった。

 

 みんな寝ているので、ディラとクレイ二人だけでご飯にすることにした。

 包みを開けて雑穀パンを頬張る。

 揺れが激しいのでスープはなしだが、マーリンガンからの贈り物の魔道具、水源筒と呼ばれる水の尽きない水筒のお陰で口のパサパサはなんとかなった。

 

 そういえばと、クレイがディラに話し掛ける。

 

「皆からお前の手綱を握ってろって言われたんだが、なんかした?」

「いんや?別に(掃除以外は)なにも?」

「そうか」

 

 ご飯を食べながら軽く雑談をし、食べ終わると早々にクレイがまた何処かに行ってしまった。

 

 

 

 

 安定層にのると床の揺れが安定して歩きやすくなった。

 早速雑巾を取り出してあちこちを拭く。

 皿洗いは苦手だけれど、失敗しては掃除を繰り返していたため、いつの間にか掃除スキルが上がっていたようだった。

 

「ふぅー!廊下は綺麗になったぞ!」

 

 ピカピカになった廊下を眺めて満足するディラは、他に掃除するところは無いかと階段を上がった。

 たどり着いたところは甲板で、そこでは船員達が忙しなく動き回っていた。

 此処ならもっと長い時間暇潰し出来そうだと、ディラは早速船の縁の方へと向かった。

 風がかなり強い。

 そこで船員達がディラに気付いたらしく、遠巻きに警戒しながら見ているが、ディラは気にせずに縁を丹念に掃除した。

 そこで風景が変わっているのに気づいた。

 

「おおっ!」

 

 雲が晴れて山脈の上方が見えてきていた。雲の中とはまた違う白い景色にディラは感動した。

 

「ほわー…、すげー…」

 

 見とれていたら危うく雑巾が風に飛ばされそうになったのを慌てて持ち直す。

 危ない危ない。

 

「おい!!!」

「ん?」

 

 飛行船に乗る前に一悶着した船員が足音を立てながらやって来た。そしてディラの前に立つと、苛立ちを隠そうともしない声色でこう言った。

 

「何の真似だ」

 

 船員が怒っているのは声と態度ではっきりと分かった。だが、船長命令は絶対で、手が出せなくて悔しそうな感じだった。

 その船員にディラは正直に言う。

 

「暇なので、暇潰しに」

「…………廊下を掃除してたのも暇潰しか」

「……そうですけど、他に雑用とか無いですかね?」

 

 ディラの予想外の返答に船員は興が冷めたのか、それとも呆れ返ったのか、変な表情を浮かべると盛大に溜め息を吐いた。

 その時にはもう船員からは怒りの気配が無くなっていた。

 船員はディラを指差す。正確にはディラの傍らにあるバケツをだ。

 

「空の上では水は貴重だ。そいつを片付けてあそこに散乱しているロープ類を片付ける方にしろ。それでも暇潰しにはなるだろ」

 

 願ってもない提案だった。

 

「あざーす!」

 

 ディラは元気よく返事をすると、掃除道具を片付けて、言われた雑用へと取り掛かったのであった。

 この一連の出来事を見ていた船員達のディラの評価がスパイからただのアホに変更されたのは言うまでもない。

 

 


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