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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
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空中遊泳『ブラックボーン』

 人数確認や荷物確認が終わり、アジトへと案内された。

 といっても詳しく案内されたわけではなく、当たり障りのない通路を通って、飛行船のある格納庫部分へと向かっている。

 長い階段を下りながら、なんつーか、とドルチェットが感想を述べた。

 

「アジトってあれだな!思ったよりも岩だったな!」

 

 この時点で既に盛大に勘違いをしているのは明らかだった。

 クレイがドルチェットに「いやいや」とやんわり否定する。

 

「ここは元オーギンアリの巣を改良したやつだから、皆が皆こんな感じじゃない」

「なーんだ。そうなのか」

 

 ドルチェットが納得している横で、ディラは頭にクレイの言っていたモンスターの姿を思い浮かべながらアジトを見回した。

 オーギンアリは柴犬程もある蟻のモンスターであり、蟻塚を形成する。

 確かに言われてみれば人間では思いもよらない場所に通路が伸びている。そこへ人間が梯子や階段を掛けて使えるようにしている感じだった。

 面白いなと観察していると、クレイがディラへと突然話を振った。

 

「ディラのところはどんなだったんだ?」

 

 いきなり話を振られて慌ててディラは天井から視線を外す。

 返答するためにバルバロのアジトを思い出してみたが、残念ながら自分が所属していたアジトは内部しかわからない。

 思えば入る時も出る時も見た外装を見た記憶がない。

 

「正直わかんない。訳も分からないままに突然担がれて連れていかれたし、出るときも馬車の天幕で隠されてたし。でも町中にあったからそこらの家にでも偽装してたんじゃないかな。所詮下っぱだったからさ、外に出る機会も全く無かったし」

 

 恐らく何件かの家を偽装して、地下で繋げていたのだろう。

 今思い返してもアジトは結構な広さがあって、気を付けないと迷子になるほどだった。

 そう言えば、アスティベラードが驚いた表情を見せる。

 

「意外だな」

「ん?」

「貴様の事だから、斥候か攻撃担当をしているのかと思っていたぞ」

 

 脳内で高らかに笑うバルバロ盗賊団、特に人を襲う専門の攻撃担当の先輩方はみな揃いも揃ってムキムキであった。その中にヒョロイ自分を加えてみるも、明らかな場違い過ぎる図が出来上がって失笑しか浮かばない。

 

「いやいや、あそこでは俺はただの下働きだよ。主に皿洗いの」

 

 皿洗いすらちゃんと出来なかったけど。

 アジトの皿を半分ほど破壊した記録はきっとこの先更新されないだろう。

 そう答えると、アスティベラードは眉間に皺を寄せる。

 

「ふん。貴様の価値もきちんと計れぬとは。まさしく宝の持ち腐れをしていた、というわけだな」

 

 アスティベラードの結論に、ディラは心のなかで、買い被りすぎです。と突っ込みを入れた。

 

 先頭を歩いていたオルゾアが振り返る。

 

「着いた。ここだ」

 

 おおおお、と感嘆の声を漏らす。

 連れてこられた場所は大空洞だった。天井は開閉式らしく、今は全開でよく晴れた空が見える。その下には見事な飛行船が鎮座していた。

 船に比べて(※)気嚢が小さい様に見えるけれど、ちゃんと浮き上がるんだろうか。

 ※飛行船の上の風船部分

 

「ほれほれ、見惚れるのはまだ早いぞ。こっちだ」

 

 オルゾアの声で我に返り、慌てて後を追う。

 近付くに連れて分かる飛行船の全貌。そこでようやくディラは理解した。いや、思い出した。ここは魔法や魔法具がある世界だと。

 船の至るところにある“軽量化”の魔法陣と、気嚢には“風呼び”の魔法陣が施されていた。

 何故その魔法陣なのだと分かるかと言えば、その魔法陣はブリオンでも見たことのあるものだったから。しかもご丁寧に解説付きであったため、それを覚えていた。

 なるほど、これならば飛行船として機能する。

 気嚢の部分に気になる部位を見付けたが、きっとあれも何かしらの秘密の機能があるのだろう。

 

 飛行船の階段の前でオルゾアが止まり、ディラも足を止めた。

 

「馬車はこっちで積み込んでおく、先に寝室に案内しよう」

 

 オルゾアの案内のもと、階段で飛行船へと上ろうとした時、近くを通り掛かった船員がディラを見て突然声を掛けた。

 

「ん?お前待て!そこのオレンジ頭!」

「へ?」

 

 見回してもオレンジ色の頭はいない。自分以外は。

 ディラが自分か?と自分を指差すと、その船員はそうだと頷いた。

 

「えーと、なんです?」

「ちょっとこっちこい」

「へい」

 

 手招きされるままに付いていく。

 ワケわからないけれど、場所を移動させられるらしい。

 何かやったっけ?と、遠ざかるクレイに視線で訴えると、クレイは何も問題はなかった筈だけど、と言いたげな顔をした。そして近くにいるジルハに声を掛けてからクレイはこちらに付いてきた。

 それだけで少しホッとする。仲間が近くにいるだけで心強い。

 

 飛行船を大きく回り、裏側の、ちょうど皆から見えない位置に着いた。

 

「後ろ向け」

「え、なんで」

「はやく」

「……へーい」

 

 言われた通りに後ろを向く。

 一体なんなのだろうと思っていると、突然ずばっと服を捲られた。

 

 

「ぎゃあああああ!!!セクハラあああああ!!!」

「やっぱりお前バルバロか!!!貴様はダメだ!!!」

「なんで分かったの!?ていうか、やっぱりダメじゃんクレイの嘘つき!!!」

 

 船員が敵発見!!とでも言いそうな勢いでディラを取り押さえにかかり、ディラは服が捲り上げられたまま精一杯腕を振り回して抵抗する。

 こんなことになるのなら、マーリンガンに背中のタトゥーでも消してもらえば良かったと後悔しながら、ディラは押さえ込もうとしている船員に向かって潔白だと叫んだ。

 

「もう抜けているから!!!これ(刺青)残ってるけど、もう俺は関係無いですから!!!!」

「言い訳は聞かん!!!!」

 

 悲鳴を聞き付けたクレイが慌てて走ってきたらしく、後ろの船員の腕にしがみついて弁明をする。

 

「違うんです!!!これあるけどもう違うんです!!!」

「何が違うんだ!!!何も違わないだろう!!??」

「あたたたたた!!!腕もげる!!!!」

 

 腕がもがれそうに痛いと悲鳴を上げながら必死に申し開きをしようとするが、違う違わないの大問答になる。

 そうこうしていると一人の女性が怒鳴りながらやってきた。

 

「何騒いでるんだい!!!!」

「ボス…!」

 

 船員の手が緩んだので慌てて捲れ上がっていた服を戻すと、目の前にはアスティベラードとは違う圧を纏う恰幅の良い女性が乱入してきていた。

 

「ダッチさん…!」

 

 その女性に向かってクレイが名前らしきものを呼んだ。

 船員がボスと言ったからこの人がボスなのは分かったが、ソレよりもディラはその女性の腕の方にあるものに気が付いて顔を青ざめさせていた。

 黒いシャチのような骨格のタトゥー。

 これは空の女帝。ブラックボーン一家のタトゥーだ。

 そして恐らくはこの目の前の女性が、ブラックボーンの女主人、ダッチラーノ・ペペレシア。

 バルバロにいた時に関わりたくない組織の上位にあった名前だ。

 なんでも、昔バルバロ盗賊団とブラックボーン空賊団での縄張り争いでお互いすごい被害が出たらしい。

 バルバロとバレれば即時拷問の末に殺されて鳥のエサにされると先輩方から連日脅されたのでディラは反射的に逃げ腰になっていた。

 そんなディラの様子にダッチラーノの目を細める。

 

「……ふーん?その反応、ってことはこちら側の人間かい」

 

 不味いと思ったが、ダッチラーノはずいずいやってきて、ディラの襟首を掴むとくるりと反転させて背中のタトゥーを確認された。

 

「ハン!バルバロの人間かい!?うちに何の用だい!??」

 

 威圧的に尋ねられても、ディラはあまりの恐怖に借りてきた猫の様に固まって動けなくなってしまった。

 そんなディラに代わりクレイはダッチラーノに必死に説得する。

 

「聞いてくれダッチさん!確かにこいつはバルバロの人間だったかもしれないけど!もう足抜けしてるし!オレの大事な仲間なんだ!」

「……ほう?」

 

 ダッチラーノが固まっているディラの顔を覗き見る。

 あまりの恐怖で目が逸らせないでいると、ダッチラーノの瞳の色が茶色から瞳の輪郭だけを残して白色へと変わっていく。

 まるで千里眼や呪眼のような目の変化に驚く。

 ダッチラーノとディラは無言で見詰め合い、しばらくするとダッチラーノが「ふん」と面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

「…嘘はついてないようだね」

 

 意外だった。

 もしや信じてくれたのだろうか。

 

「でも、もし変な真似したら即空に放り投げるから覚えておきな!」

 

 そう忠告するダッチラーノにディラは思わず敬礼で返した。

 

「へい!!!勿論です!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ダッチラーノとの約束で“特別に”乗せて貰える事になった。

 この場にアスティベラードいなくて良かったよ。いやほんとに。

 でもさすがにディラの悲鳴は聞こえていたようで、ディラとクレイが戻ってきて説明を終えた後、アスティベラードが必要以上に辺りを警戒するようになってしまった。

 もう少し考えてから付いていった方が良かったかもしれない。

 

「安心しな。船長命令は絶対だ。約束を守っている以上は、絶対にお前には手を出さん」

「あ、あははは…」

 

 オルゾアがそう言ってはくれたが、飛行船に乗り込むと、既に情報が行き渡っているらしく乗組員達の視線があちこちからグサグサと突き刺さってくる。

 しかも盛大に視線で『警戒しているからな』と伝えてきていた。

 ディラは改めて思った。

 やっぱり賊は大嫌いだ。

 


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