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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
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山脈を越えましょう『関所突破作戦!』

 ゴトゴトと順調に馬車は進む。

 ここしばらくは結構平和で聖戦なんか無かったんじゃないかと錯覚してしまう程だ。

 

 販売用のアクセサリー作成の手を止めてノクターンの方へと向かう。

 今ではノクターンの代わりにロエテムが手綱を握り、御者をしていた。その内ロエテム用の外装か変更できるようにしても良いかもしれない。

 

 マーリンガンの話によると、ロエテムの本体は内部にある木製のパペットらしいから、それさえ壊されなければ大丈夫と聞いた。

 もし作るのならフードを着けて顔がわからないようにしないといけない。

 いくらパッと見の外見が人間でも、顔を見られればどんな反応をされるかわかったもんじゃない

 とするならばコミュニケーション方法も考えないとな。

 いや、さすがにそれはノクターンが何とかするか。

 

 ノクターンがディラに気が付いて、ロエテムの位置を変えてくれた。

 

「馬、グラーイの調子はどう?」

「すごく良いです…。魔力を多く使うかと思いましたが、思ったよりも少ない量で動いてくれて助かってます…」

「それは良かった」

 

 勿論だけどパペットを動かすのだってスキルとはいえ魔力がいる。

 しかもそれは重さが増えれば増えるだけ多くなっていくらしい。

 マーリンガンが鞄に色々入れていた道具の中には軽量化の魔法陣とやらが彫られた飾りボタンがあったから馬具飾りとして使ってみたのだが、きちんと効力を発揮しているようだった。

 

「あ…、でもグラーイが一つだけ不満があると…」

「え!?」

 

 まさか作り物のグラーイが不満を言うとは思わなかった。

 

「ち、ちなみに何て?」

「蹄鉄を着けてくれと…。歩く度に石で削れて完璧な爪が歪んでしまうので悲しいそうです…」

「ごめんわかった購入次第すぐに着けるね!!!」

 

 グラーイを止め、蹄を確認すると確かに削れてしまっていた。

 

 なんだなんだとみんなが馬車からこちらを見る。

 

「…………痛みとか無いよね?」

「痛みは無いそうです…」

「うーん…」

 

 かなりの距離を歩いたために蹄は3分の1が削られていて、整えようがない。

 

「次の町で素材を調達して付け直すしかなさそう。それまでは我慢できる?」

 

 グラーイは鼻を鳴らした。

 どうやって鳴らしているのか。


 近くの町に立ち寄って蹄鉄を購入し、材木屋でグラーイの脚の素材を購入。すぐに彫り出して形を整えて付け掛けた。

 勿論蹄鉄も打ち込んだ。

 これで歩く度に小石で削られることはないだろう。

 

「調子はどう?」

 

 前足で地面を掻く。

 ちょいちょいやるこの仕草だが、ディラにはどういう意味なのかさっぱりだった。

 なにを言っているのかとノクターンを見れば通訳をしてくれる。

 

「良いそうです…」

「ならよかった」

 

 念のために蹄部分を取り外せる構造にして、いくつかストックも作った。

 これで安心だろう。

 

 

 

 そんなディラを見ていたドルチェットとジルハ。

 

「こいつが作るの初めて見たけどさ、矢尻で彫る奴なんてこいつだけじゃないか?」

「うん。僕もそう思う」

 

 

 

 

 

 

 そのまま平和に移動している、やることと言えば途中で碁石のことを思い出し、定期的にばら蒔くくらい。

 結構撒いたと思うのだが、袋の大きさに対して入っている石の数が合わない。

 きっとこれも中身を拡張しているのだろう。

 

 さて、山脈を越えるためには飛行船に乗らなければならない。

 ちなみに山脈を越えて内地に入ることを『魔界入り』と呼ぶ。

 物騒な名前だけど、ここの世界の人達にとってはそんな感覚は全く無いらしい。

 

 ずっと遠くに見えていた山脈が空の下半分を占めてきた。

 その山脈の下辺りにアオゾアの街が遠目に見え始め、クレイが警戒を強める。

 

「アオゾアに入る前に検問がある。ここをどうにかして切り抜ける作戦だが、その、昨日話したあの作戦で大丈夫か?」

 

 クレイの言う作戦とは、クロイノの中に入り影潜りをして貰うと言うとんでも作戦だった。

 とはいえ、ディラは不安だった。

 別にクロイノを信用していない訳じゃない。

 ただ、中に入った際に想定されるアレコレが不安だったのだ。

 

「ホントにホントに大丈夫???消化されない???」

「無論。私が入って大丈夫だったのだ。ならば貴様も大丈夫であろう」

 

 それは飼い主(?)であるアスティベラードだからじゃない?というツッコミを入れるべきかディラは悩んだ。

 そこに痺れを切らしたドルチェットがディラの脇下に手を突っ込んでひょいと持ち上げた。

 嘘だろ。これでも体重60キロあるのに。

 

「うるさいなぁ、男は度胸って言うだろ?大丈夫って言うんだからやってみろよっと!」

 

 そう言ってドルチェットがディラをクロイノへと突き出すと、ドブンとなんとも言えない感覚に包まれた。

 暖かいゼリーのようなものに囲まれているのに呼吸は一切苦しくない。

 景色もモニター越しのように見える。

 

「 どうだ?気持ちよかろう 」

 

 アスティベラードの声がくぐもって聴こえる。

 

「うん、思ったよりも気持ち良いんだけど、一つ質問して良い?」

「 なんだ? 」

「この状態って、魔力を吸われたりとかは?」

「 クロイノは器用なのでな。そんな間違いは起こさん 」

「なるほど」

 

 ディラのクロイノメモに“器用”という情報が加わった。

 

「じゃあそのまま影潜りもやってみるか」とのクレイの言葉で、ディラをクロイノの中へ納めたまま様々な実験が進められたのだった。

 

 

 

 

 

 いよいよ本番がやってきた。

 

「じゃ、作戦通りに」

「うす」

「うむ」

 

 クレイの合図で馬車の床にある小さな収納スペースにクロイノが潜り込み、続いてディラも入り込んだ。

 普通なら人一人が入ることなど不可能はそこは、クロイノというチートが存在して初めて成せるものだった。

 クロイノがきちんとディラを収納したのを確認すると、上から穴にピッタリの板を乗せて、さらにその上から荷物を乗せて蓋をする。

 これでまさかこんなところに人が隠れているとは思うまい。

 

「 止まれ 」

 

 検問所へ着いたらしい。知らない男の声が聞こえる。

 一言二言クレイと言葉を交わしている。

 本当ならこのままスムーズに終われば良かったのだが、そうはいかないらしい。

 途中で「なんだこの馬は?」と質問を投げられられていたが、ノクターンが人形使いのスキルを持つ魔術師だと伝えて事なきを得た。

 これで終わりかと思いきや、男はさらに続ける。

 

「 乗員の顔を皆見せて貰おう。今指名手配犯を探しているのだ、協力してくれるな? 」

 

 真っ暗な中でビクリとディラは身を固まらせた。

 手で口を塞ぎながら、ディラは出来うる限り気配を消した。

 良かった。さすがに顔をしっかり見られたら【隠密】が機能しなくなっていた。

 

 皆確認し、ロエテムの兜を無理やり上げたらしい男が軽く悲鳴を上げていた。

 そりゃそうだ。人間かと思ったら、兜の中身は木製ののっぺらぼうだったら誰でも驚く。

 その後少し揉めたが、ここで「あの…、ワタシの人形です……」と悲しそうな声でようやく理解したらしい男が「ったく紛らわしい!さっさと行け!」と解放してくれた。

 これは、ロエテムも一緒に隠れていた方が良かったんじゃないかとディラはクロイノの中で思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「よいしょ」

 

 ずるりとクロイノから這い出ると、これでもかと落ち込むノクターンとロエテムがいた。

 

「すまんな、まさかそっちの方に被害が出るとは思わなかった」

「元気出せって」

「今度ディラさんにロエテムさんの顔作って貰いましょう」

「あの男め!歩く度に小石で小指を突く呪いを掛けてやるわ!」

 

 そんなノクターンを慰める面々。ノクターンにとってはとんだ災難であった。

 そこにディラが向かい、ロエテムの肩を叩いた。

 振り替えるロエテム。

 これだけ見れば人形とは思わない。反応が人だ。

 

「マーリンガンに顔の作り方教えて貰うね」

 

 そう言うと、ロエテムは無言で万歳をした。

 

 

 

 

 

 

 アオゾアに到着し、すぐさま宿に籠城した。

 教会の連中の中には【特定】なんていうスキルを持っている者もいるらしい

 この特定は隠れているものを探すスキルで、要は【隠密】で動く人物を【特定】して暴く、弓兵職や暗殺職にとっての天敵スキルだ。

 出現率が低いスキルだけど、きちんと手順を踏めばちゃんと発現できてしまうスキルを警戒して、今回は本当に宿でお留守番になってしまった。

 今までは滞在時間も短かったし、何よりもそこまで教会関係と遭遇していなかった。

 

 ディラが窓際から街を見下ろすと、すぐ下の道を教会関係社らしき人が横切っていた。

 手には紙袋。買い物をしていたようだ。

 そこから上へと視線を移せば大きな教会が顔を覗かせている。

 

 規模はこの世界に召喚されたときに見た教会と良い勝負しそうな程に大きい。

 皆はそれぞれの用で出掛けてしまったせいでディラは完全に暇を持て余していた。

 暇だな、暇だからマーリンガンにロエテムの顔について相談しようかなと耳に手を当てた時、ガチャリと扉が開いた音がしてディラはそちらへと顔を向けた

 そして盛大に驚いた。

 

「ちょっと!どうしたのそれ!?」

 

 そこにいたのは頬を腫らしたクレイと、心配そうな顔でチラチラとクレイを見るジルハであった。

 


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