表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
42/50

山脈を越えましょう『ミニ・マーリンガン』

 

 馬車を買った。

 馬車といっても商人が良く使っているテントみたいな馬車だ。荷車に骨組みを組み立てて、天幕を張るタイプの簡単なものではあるが、それでも馬と同じ値段がする。

 田舎に行くと中古で安く譲ってくれるけど、中古だとどうしても車輪が磨耗しているからここはやっぱり新しい方が良い。

 今回購入しようとしている馬車を眺めながら、店主の元へ行ったクレイを待っている。

 しばらくしてクレイが戻ってきた。

 

「買ってきたぞー」

「おー!」

 

 パチパチと拍手。

 

「すまんなアスティベラード。借りた分はいつか絶対に返す」

「うむ」

 

 あの後、やはりスッキリしないとクレイが言ったので、アクセサリーを作ってプレゼントするディラ以外のみんなで分割という形となった。

 そもそもディラは馬を製作したので当然といえば当然である。

 少し遅れて馬車の販売をしていた主人が鍵を持ってやってきて、車輪を固定していた鎖を外してくれた。

 これで完全にこの馬車は自分達のものである。

 

「本当はこちらではなく、あちらのものが良かったのだが」

 

 そう示すアスティベラードの指の先にはギンギンギラギラでゴッテゴテな装飾の馬車があった。

 王族でも一部の人しか好かなさそうな感じである。

 もしやアスティベラードはああいうのが好きなのか。

 

「……あれは、特徴が有りすぎて教会にマークされたら逃げられないんじゃない?」

「むう、それもそうか」

 

 教会の言葉で納得してくれたアスティベラード。

 

「ディラ!馬を出してくれ!」

「はーい」

 

 クレイに呼ばれてディラは鞄からグラーイを取り出し、取り付ける。

 それにしても絶対に一般人じゃないよな、アスティベラードさん。そう思いながらディラはアスティベラードに視線を向ける。

 どっかのお姫様だったりして。

 

 

 

 

 

 

「……あの、進んでください…」

 

 確実に言うこと利かせられるという理由でノクターンが御者になった。

 といっても想像していた馬の手綱を振って、「はっ!」という声かけで馬を進ませるという想像とは違い、グラーイにお願いをするという斬新な進ませ方をしていた。

 とはいえ、グラーイは本物の馬ではないし、ノクターンが操っているのでそもそも手綱は必要ないのだけれど。

 

 

 

 

 

 馬車は進むよ何処までも。

 

 荷物は積み終え忘れ物はなし、ノクターンのお願いで進む馬車は実に快適だった。懐は寂しいけど、一狩りすればなんとかなる。

 

 パチンと手元にある余った糸を鋏で裁ち切れば、アクセサリーが完成した。

 

「よし出来た!」

 

 ディラの手には輝くブレスレット。金と青の二色で構成されたものだ。

 これならば戦闘時邪魔にならないし、着脱が簡単だからというのが理由だ。

 

「出来たのか!!見せてみよ!!」

 

 真正面でずっと見ていたアスティベラードが勢い良く手を出してきた。

 そんなに待ち焦がれていたのかと驚きながら、出来上がったブレスレットを渡すと、すぐに左手首に装着してニマニマと笑みを浮かべた。

 

「ふふ、良い。良いな」

「サイズはどう?」

「ちょうど良い!」

 

 ほれ!と、アスティベラードがディラにブレスレットの嵌まった左腕を見せる。

 幅も厚みも重さも問題無いようだ。良かった。

 すくっとアスティベラードが立ち上がる。

 

「ノクターンに見せてくる」

 

 そう言って御者のノクターンの方へと歩いていくアスティベラード。

 相当嬉しいらしく、ノクターンの隣に座り長々と語っていた。

 アスティベラードに相当ウケるのならば、内職としてアクセサリーを売るのも良さそうだなとディラは売るとしたら何が良いだろうかと脳内でデザインを引っ張り出す。

 

「なー、クレイ」

 

 ドルチェットが盾の手入れをしていたクレイへと話し掛けた。

 ん?とクレイは顔をあげた。

 

「なんだ?」

「行き先は何処なんだ?」

「ああ、そういやノクターンにしか言ってなかったな」

 

 クレイは盾を横に置き座り直して答えた。

 

「アオゾアだ」

 

 アオゾアは、山脈近くに位置している大きな街だ。

 別称空の街とも言われ、ここから山脈を越えるための飛行船を飛ばしているのが由来だった。

 クレイの答えにディラは納得したが、話を聞いていたジルハが疑問を投げ掛けた。

 

「山脈越えの為ですよね?でもそれは危険じゃないですか?」

「なんで?」

 

 ディラがジルハに訊ねた。

 

「アオゾアの空の港は所謂隣の地域との行き来が出来る関所なようなものです。そこは警備が厳重で、教会関係者も多く利用するのでディラさんが利用とするのは危険だと思うのですが」

 

 教会の単語でディラは拒絶反応が出た。

 なぜそんな危険な場所に向かっているのか。

 ディラはクレイに抗議した。

 

「俺そんな危ないところに行きたくないよ!」

「まてまて、早とちりするな」

「じゃー、どういう意味だよ」

 

 ドルチェットがどういう事だと質問すればクレイは地図を鞄から取り出して広げた。

 

「正確に言えばアオゾアの周辺に用がある。山脈を越えるのは間違っちゃいねーが、その手段が違う。そもそもリーダーのオレが仲間をそんな危険な事をするわけ無いだろう」

 

 この言葉にディラは安堵した。

 

「じゃあなんだ?抜け道でもあるって言うのか?」

 

 ドルチェットがそう言えば、クレイは「いや」と否定した。

 じゃあなんだとディラはクレイの次の言葉を待っていると、クレイは今まで見た中で最も悪そうな顔でこう言った。

 

「昔の伝を使って、密入するんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 途中の町や村で依頼をこなしながら南下していく。

 ついでに制作したアクセサリーも試しに売ってみれば、手軽に町に出掛けられない村人達に飛ぶように売れた。

 やはり手に職は持っておいて損はないらしい。

 

 

 

 

 

 数日降り続いた雨も止み、ノクターンがロエテムに御者が務まらないか実験をしている最中、突然馬車内で変な音が鳴り響いた。

 

 当然の異常事態にみんな武器を手に警戒体制を取る中、ディラだけは何故か音の出所を必死に探していた。

 ある意味それは反射的な行動だった。

 何故ならその音はディラのスマホの着信音に似ていたからだ。

 

 耳に手を当てて必死に探し、それが自らの鞄からだと気が付くと、すぐに鞄をひっくり返して中のものを出すために振った。

 そんな事をしなくとも手を突っ込めば目的のものは出てくるのにひっくり返たのは、ディラは軽くパニックになっていたからである。

 振っている途中で思い出して逆さのまま鞄の中に手を突っ込むと、鞄から小さなものが落下した。

 

「何か落ちたぞ」

 

 その落ちたものをアスティベラードが拾い上げた。

 音はそれから鳴っている。

 

「ほれ」

 

 アスティベラードに手渡されると、音が止まった。

 

「おい、なんだよそれ」

「さぁ。なんだろう」

 

 ドルチェットに訊ねられてもディラは知らないので答えられない。

 音の鳴っていた物は見たことのないアクセサリーだった。いや、魔石が付いているから魔道具だ。

 しかし、なんだろう。と、ディラはその魔道具をまじまじと見つめた。

 

「指輪?……にしては余計なものが付いている……。なんだこれ??」

 

 リングのようなものが二つで、そのうちの一つはピアスのような飾りが付いている。おまけにそのリングは細いチェーンで繋がっていた。

 なんとなく指に嵌めてみようとしたが、小さくて付けられない。

 それを見ていたドルチェットが一言

 

「…………、…イヤーカフじゃね?」

「なるほど」

 

 試しにそれを耳に着けてみると馴染んだ。

 とするならば、きっと耳や感覚系の補佐をしてくれるもの。

 何か起動するスイッチがあるはずだと右手でサワサワ触っているとまたしてもコール音。

 

「うお!?」

「どうした?」

 

 だが、今度はディラにしか聞こえていないようだ。

 何がスイッチだとイヤーカフに触れると、コール音が止んだ。

 

「もしもーし」

「『はーい!やっと出たね~!』」

 

 ディラが予想していた位置ではなく、予想外の方向からマーリンガンの声が聞こえてきた。

 

「『やあ!』」

 

 すぐ目の前の床に、500mlペットボトル程の大きさの半透明かつ水色がかったマーリンガンが出現していた。

 予想外の小型マーリンガンにみんなが驚いて慌てて後ろに下がる。

 

「…なにしてんのマーリンガン」

「『ええー、感想ひどーい。せっかく君のところで言うホログラムを使ってみたんだけど、どう?』」

「なんだホログラムか」

 

 それならば恐れることはないとディラがマーリンガンの前に座り直すと、危険ではないと判断したみんなも座り直す。

 

「これも魔法なのか。すげーな」

 

 クレイは感心し。

 

「妖精かと思いました」

 

 ジルハは勘違いし。

 

「触れるのか!?これ!触れるのか!?」

 

 アスティベラードは興味津々で。

 

「うおおおお!!透けるぞこれ!!」

 

 アスティベラードが触れる前にドルチェットがミニ・マーリンガンに平手打ちもどきを仕掛けて空振りしていた。

 そしてそんな様子を御者として手が離せないノクターンが遠くからチラチラと見ている。

 

「『ふむ。動作確認は大丈夫そうだ。ノイズはないかい?』」

「オッケーだよ。にしてもなんでこんなの入れたのさ」

「『なんでって、これならどんなに遠くても分からないことがあったら相談できるだろ?お手軽マーリンガン電話相談~♪」」

 

 ホログラムのマーリンガンが歌いながら踊り始めたが、もしや、ツッコミ待ちだろうか。

 

「『さて、そろそろ切るね』」

「え、もう?」

 

 あまりにもあっさり退場しようとしてビックリした。

 

「『ん?何か用でもあったかい?』」

「いや別にそう言う訳じゃなかったんだけど」

「『そう?あ、そうだ言い忘れていた。こっちに電話掛けるときは、魔道具に指を当てて、心の中ででも“コール”って唱えれば繋がるから。切る時はトントンと二回叩けば切れるからね』」

「へー。わかった」

「『じゃ、ま──』」

 

 二回タップすると本当に切れた。これは便利だ。

 

「お前さ、マーリンガンに対してはわりとドライだよな」

 

 何故か突然そう言い出したクレイだが、ディラは意味が分からず「え?なにが?」と返した。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ