マーリンガンの試練『だろうなとは思いました』
炎から頭を出してきたマーリンガンが、「ディラくん。できたからコッチコッチ」と手招きをしている。
「でもさっき中に入っちゃダメって」
「結界の隙間に作ったの。中に入ろうとしたら僕の標を持ってないものは弾かれるんだけど、そこは頑張って空間作ったから」
「へー、面白いね。さすがマーガリン」
「でしょう!?凄いでしょう!!やったあ!初めて人に褒められたよ!内装も整えたからさ、こっちだよ」
マーリンガンに先導にしたがって行こうとしたけど、何故かみんなが付いてこない。しかもみんな揃って顔怖い。
「……本当にどうしたの?」
「本当に大丈夫なのか?」
最後の確認とばりに訊ねられたが、ディラとしては「なにが?」としか言いようがない。
「俺の、まぁある意味師匠なんだけどさ、マーリンガンは魔法具作るの上手いし、器用だから大丈夫だよ。崩れたりしないでしょ」
炎のトンネルも面白い感じになっていて、突然崩れたりはしないだろう。
マーガリンはそういうところは仕事が丁寧だ。
「ほら、熱くないよー!」
炎に手を突っ込んでアピールすると、ドルチェットが盛大に溜め息を吐いた。
「ダメだあいつ分かってない。もう行くしかないだろ」
「………よし」
ドルチェットがやって来て、クレイも来た。
後にジルハとノクターンが続いたが、アスティベラードが動こうとしない。
「ほら、行こうよ」
「…私は、いい。ここで待つ」
らしくなく、アスティベラードの声が小さい。
クロイノも心なしか元気がない。
「大丈夫だよ。俺がアスティベラードになんか言ったらマーリンガンに怒るから。でかいけど良い子だよって。ね?」
アスティベラードに手を差し出した。
「………だが…」
「ほらほら、ノクターンもオロオロしてる」
可哀想に、入り口で困り果ててぐるぐる回ってしまってる。
さっきのディラの様だった。
「………」
アスティベラードが恐る恐るディラの手を握る。
それをしっかりとディラは握り返した。よしいこう。
「クロイノいくよー」
クロイノに声を掛ければ、ノスノスとクロイノも付いてきた。ほら良い子じゃん。
炎のトンネルを抜けると突然広い部屋へと出た。机と椅子と大きめの絨毯なんかも敷いてある。
マーガリンが振り返り様、「どう?」と感想を求めてきた。
「めっちゃ広い。窓から炎見えるの格好いい。窓枠のこれも炎イメージ?超合ってる」
「やっぱり君とは価値観が合うわ。定期的に帰ってきて僕の作品見てよ」
「がんばりまーす。あ、テレポートの魔法具ないです?」
「無いね。作る?」
「作りましょう。絶対便利」
「ストップストップストップストップ。オレ達も居ますから一旦ストップ」
二人の盛り上がりをクレイが止めた。
危なかった。クレイが止めてくれなきゃそのままマーリンガンと魔法具作成開始するところだった。
ディラとマーガリンの様子を見ていたドルチェットがぼそりと言う。
「自分わかった。似た者同士っていうフィルターがあるせいで気付いてないんだ」
「だね」
え?なにが?とドルチェットとジルハに訊ねたが、謎の微笑みを返されただけだった。
「はいはい。とにかく座って。エンジュウはそっちの絨毯ね」
それぞれ椅子に腰掛けた。
クロイノも指定された絨毯の上へとくると、すぐさま寝転がる。
「じゃあ、まずは自己紹介を」と、初対面の人達が自己紹介をしようとするのを、マーガリンは制した。
「しなくて良いよ。全員のプロフィール視させて貰ったから。クレイにドルチェット、ジルハ、ノクターン、そしてアスティベラードであってる?」
全員が全員、頭上に「!?」マークを登場させた。
端から見ている分には楽しい。
「すげえ、手品みたい。なにしたん?」
「でしょう?もっと誉めてくれて良いんだよ?」
「賛美をカツアゲするの良くない」
「そうか、じゃあ諦めよう」
ディラから賛美のカツアゲを失敗したマーガリンは足を組み直し、どこか大物みたいな仕草をしながら自己紹介を始めた。
「はじめまして。マーリンガン・S・ザートソンです。聞いたことある人いるかな?」
マーガリンの本名を聞いてみんなどよめきたった。「ザートソン!?」とクレイが椅子から立ち上がり掛けながら驚いている。
アスティベラードも珍しく唖然としていた。
そんなみんなの反応が理解できなかったディラは理由を聞こうとする。
「さっきからみんなの反応がおかしくない?ていうか、マーガリンの事知ってるの?」
「知ってるも何も…っ、世界的魔術師名家だぞ!!」
と、クレイに説明されたけれど理解できなかった。
これが?という感じである。
「いやぁー、それほどでも?ちょっと色々あって廃れかけてるけどね」
へー、そうなんだ。
そんな感じでマーガリンを上から下までマジマジと眺めた。
こんな年齢詐欺のパジャマおじーさんがなんだというのか。
「ディラくん?嘘じゃないからね?」
「嘘だなんて思ってないですよ」
もしかしたら、っていうのはあるし。
けれど、どうやっても信じられるわけがなかった。
そこでふとディラは思い出した。
訊ねたいことがあったのだ。
「ところで、話は変わるんですけど、マーガリンさぁ、俺この前教会関係者に拉致られ掛けたんですけどなんか喋りました?」
マーリンガンがキョトンとする。
「え?マジ?この村君が旅立ってからずっと炎上させているから誰とも話してないよ?」
ずっと炎上状態かよこの村。
呆れ果てたが、こんなだからこそ平和のままだったのかと謎に納得できた。
「つまりはマーリンガンはチクってないと」
「ばっか。君のチクる暇ないよ。僕がその前に縛り首!!」
「だよねぇー、良かった。売られたのかと」
「数少ない共感者を売るような人でなしに見えるのかい?」
マジマジ見た。見えないこともない。
「やっぱり言わなくて良いよ。嫌な予感しかしない」
「あ、そう?」
ふう、とマーガリンが息を吐く。
「そっかぁ、僕てっきり君がポロっと漏らしたのかと…」
「なんで自分で危険を呼び込もうとすると?しないよ?臆病だよ俺」
「だよねぇー」
あはははははと笑い合う二人。
そんな二人を「似た者同士だな」「だな」と、ドン引きで見ているクレイとドルチェットの二名。
なんで引くのだろうか。
こほんと咳払いしたクレイが挙手をする。
「えー、マーリンガンさん。一つ聞きたいことがあるのですが」
「なんだい?」
びしりとクレイの人差し指がディラを指す。
「こいつが勇者の関係者っているのは、知ってましたか?」
「知ってるよ。友達が勇者にされたのも、そもそもここの世界の人間ではないってこともね。あと、皿を渡すとすぐに割る」
「それは知らなかった。気を付けよう」
こっちを見ないでクレイ。最近触ってないから。
「それでですね、ディラが聖戦に参加してしまったんです。それについて何か知っていることはありますか?」
「ああ、なるほど」
マーリンガンが空中でティーポットを生み出すと、同じく作られたコップのなかにお茶を注いでいく。
それを俺はみんなに配っていった。
「聖戦の参加資格は勇者と、その仲間と認定されたもの。あとは指定された土地のあわれな一般人だ」
お茶をすするマーリンガン。
「だいたいの聖戦の数は合わせて12から13ほど。回を重ねるごとに指定の結界解除の条件であるボスの力が増していき、聖戦範囲も広がっていくんだ。穴もね、増えていくよ。目的はなんだろうね?僕もこれは人から教わったものだから定かじゃないんだけど、前の聖戦では確か聖戦範囲内の村や町が二つ三つは一瞬のうちに消えたんじゃなかったかな?」
ガタンとアスティベラードが椅子を倒して立ち上がった。
「そんなことは伝わっておらぬ!!」
そんなアスティベラードをマーガリンは冷めた目で見上げている。
「もしかしてシャールフ伝の事かな?あれは、ほら、あくまでもお伽噺的に編集し直されているから。本当はもっと悲惨だったね。なにせ瞬きのうちに村が文字通り無くなっているんだからさ。知らないかい?禁域指定の森に慰霊婢建っているの。それは“かつてここに村があった”ってやつだよ」
全然知らん。と理解不能な会話に置いていかれるディラ。
だけど、ディラ以外のみんなは知っているらしく様々な反応を見せた。
「自分は村があったからなんだ?って思っていたけどそーゆー事だったのか」
ドルチェットはほんとうに感想が直球だな。
マーリンガンの視線がこっちを向く。
「最初の戦いはどうだったかい?」
どう?か。聖戦を思い返してみた。
巨大なボスだった。色々あったが、まずはボス戦の感想だ。
「んー、まぁ俺の知っている敵よりは強かったけど、でもそんなには…」
相性が良くなくて功太は苦戦してたけど、俺も相性次第では格下の相手にも不利になるし。どう言えば良いんだろう。
「推定、敵のレベル幾つくらいだい?」
「んー、50いくかいかないかくらい?でも多分一人でいけたかな」
みんながどよめく。なんですか?と思わず振り向いた。
なんでもないようにマーガリン話を続ける。
「こんな感じだよ。通常一人で相手できるのは手練れでもギリギリ20レベルだ。30で危険レベルに《超》がついて数人で掛かる感じになり、60越えるのは聖戦を除いて記録にもあまりない。ドラゴン種でも平均45だからね」
そうなんだ。あれ?でも。
「人間はちょいちょいいるんじゃないの?だって限界突破があるし、80のとかいるんじゃないの?」
「いねーよ」
間髪いれずにクレイに突っ込まれた。
「人間の平均値レベルが18から25だ。限界突破してもだいたいが40から50が限度。それを大きく越えて90に迫るレベルなんて化け物は今んところ数えるほどしかいない。お前と」
視線がマーリンガンへ。
「お前の横にいる人だ」
まじで?
そういえばマーガリンのレベルを知らなかった。
「レベルはおいくつで?」
「前測ったときは95だったかな」
「最高ですねマーリンガン」
ブリテニアスオンラインならあとレベル5で新たなステージ進出だ。
「ということで、次のボスのレベルは60を越えてくる事なるわけだ。このポンコツくんに付き合うのは良いけど、君たち今のままだったら、
死んじゃうよ?」
俺の仲間に何を言うんだこの爺。
そんな思いを込めて見ていると、マーガリンはフフンと不思議な笑みを浮かべた。
「でも、僕の唯一の理解者の仲間ってことでレベル上げを手伝えないこともないけど、どうだい?どうせ次の聖戦までレベル上げをするつもりだったんだろ?」
たしかにそうだ。
だけど、一体どうやってなんだろうか。
「ちなみにどうやって?」
マーガリンが素敵な笑顔で答えた。
「まぁまぁ、そこは僕の魔法具でちょちょいと、ね?」
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