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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
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炎上事件である『温度差で風邪引きますね』

 地図によると、ナッツ村はこの川を下れば辿り着けるらしい。

 数日間横になっていたせいで脚が生まれたての小鹿のようにガクガクしてた。

 それを見かねたクレイがドルチェットに言う。


「ドルチェット、こいつ落ちないか見ててくれないか?」

「うぃーす」

「大丈夫大丈夫そこまでではない」


 やってきたドルチェットに大丈夫大丈夫と丁重にお断りする。

 もう介護いらない。自立できる。

 というかリハビリさせてほしい。

 川沿いに歩きながらアスティベラードとジルハが周辺を探知してくれていた。

 今のところ追手はなく、平和なものだ。

 しかしこうお荷物状態が続くとソワソワしてくる。

 何か些細なことでも手伝いたくなる。


「ねぇ、俺も何か手伝いたい。そろそろスキル使って良い?」


 主に【千里眼/見通し】らへんを。

 そうすれば事前に危険がないかを確認できる。

 だが。


「体のふらつきがなくなるまでは禁止だ」


 呆気なくクレイに却下された。


「過保護よな」

「リーダーとしてメンバーの体調管理はしないとだろ?リーダーの義務だ」


 アスティベラードに嫌みたらく言われたが、クレイは全てリーダーとして。で終わらせた。

 すげえなリーダーって言葉。万能じゃん。


「好きだなぁ、そのリーダーとしてっての。やめろその顔、ドヤらなくて良い」


 ドルチェットの顔にデカデカと五月蝿いと書いてある。

 ドルチェットの言う通りリーダーという言葉を気に入っているのか乱用しているクレイ。確かにそのドヤは視覚的に煩い。

 その時、ディラは前方の異変に気が付いた。


「ん?」

「どうした?」


 村があるらしき場所の空が微妙に赤い気がする。

 なんだか嫌な予感がしたので、手を上げて宣言した。


「ちょっとスキル使いまーす」

「おいこら!」


 クレイの制止を無視して、えいや、と【千里眼/遠見】発動。

 するととんでもないものを視てしまった。

「は?」と、思わず声が出てしまう程とんでもないことになっていた。


「急ごう。なんかとんでもないことになっている。村が」


 皆の返事を聞く前に走り出した。

 小鹿の脚なんて構ってられない程ディラは焦っていた。

 待って待って、これ二度見どころの風景じゃないよ?ガン見だよ??

 村にたどり着き、ディラは驚きの余り叫んだ


「…………えええーーッッ!!?」


 村が燃えていた。

 普通に燃えているんじゃない。大炎上。なんならドーム状に燃えている。

 さながら氷の鎌倉ではなく、炎の鎌倉である。

 ええ?なにこれ。こんな燃え方ある??

 大混乱のなか、ディラは何か無いかとその場で回った。


「どどどど、どうしよう…、水?水掛ければいい??」


 そうこうしている間に皆が追い付いてきて、パニックになっているディラを落ち着けようとクレイが声を掛ける。


「ちょっと一旦落ち着け。な?ほら、どうみてもこの炎は自然ではなく魔法だろう。多分」

「…魔法はもっとダメなのでは…??」


 魔法での火は普通の水では消えにくいと聞いた。

 何故なら普通の可燃物に魔力の上乗せされているから。

 つまりはガソリンに引火している火と同意義。


「自分が館燃やしたのと燃え方違うな」

「比較対象」


 ドルチェット達がなにやら不吉なこと言っていて、それにジルハが突っ込みを入れている。そんな状況のなかで、ノクターンは冷静にこの炎を分析していた。


「これは…、魔力の形態変化ですね…」

「そのようだな」

「幸い熱も外にしか放出していないようですし…」


 冷静に炎を観察しているノクターンとアスティベラードを見て、少しパニックが収まってきた。

 形態変化って、あの、つまり魔法的なヤツですよね。

 これもブリテニアスオンラインとかにあったかな。魔法職と縁が無かったから分かんないや。

 でもとりあえずノクターンの言うことを冷静に考えてみた。


「じゃあ、村は無事ってこと?」

「おそらく…」


 ノクターンが自信無さげだが、頷いた。

 良かった。……良かったのか?

 どっちにしてもまず無事を確認したいけど、どうやったって炎が邪魔。

 ここでようやく自分が持っている“水”を思い出した。

 エクスカリバーを取出し、矢をつがえる。

 それにスキル【属性付与】、選択【氷属性】で矢の特性を氷の能力を付与してみた。


「なにしてんだ?」

「消火活動をしてみようかと」


 言ってみればこの矢自体が強力な冷却装置で、対象に刺さると瞬く間に冷却して凍結し、炎や熱に突っ込ませれば熔けて水や雨、蒸気へと変化する。

 もちろんこれで火が消えるなんて思ってない。

 ただの確認だ。


「せや」


 炎の中へ矢を飛ばすと、案の定飛んでいる途中で炎に襲われて消滅した。

 氷属性付与してたら少しは持つはずなんだけど。


「アレは結界か?ノクターン」

「そうですね…」

「フム。ディラ、少し下がっとれ」


 アスティベラードがクロイノと一緒に前に出た。

 一体何をするつもりなのか。


「ちょっと見て参れ」


 アスティベラードの指示にしたがってクロイノが炎の中に入っていく。


「大丈夫なの?クロイノ。熱くない?」

「あやつにそのような概念は通じん。全てすり抜ける」

「無敵じゃん」


 クロイノの評価を鰻登りさせながら待っていると、少ししてからクロイノが戻ってきた。全くの無傷である。

 クロイノがアスティベラードへと頭をすり付けた。


「フン。ディラ、こやつが言うには、村があった、燃えておらんかったと。あと変な魔力の流れになっておったらしい」

「へぇ」


 じゃあきっとこの炎の犯人はマーリンガンだ。

 だとするなら、もしかするとアレが使えるかもしれない。

 鞄をまさぐり、奥の方へと仕舞っているとあるものを探す。


「どうしようか。近付いて炎に襲われてもどうすることもできねーし。…ディラ?なにしてる?」


 クレイが鞄をまさぐるディラに声を掛ける。


「あったあった」


 そう言いながらディラは鞄からとあるアクセサリーを取り出した。

 手作りのアクセサリーだ。

 控えめに言っても高そうには見えないだろうそれには、贅沢にも魔法石が嵌め込まれていた。

 ディラはそれを首に下げる。


「物は試しってね」


 ディラそう言い炎へと歩いていく。するとどうだろう。

 先程まで感じられていた熱が全く無くなった。

 やっぱりそうだ。


「おい!それ以上は!!」


 クレイの焦る声が聞こえたがディラはそのまま前進し、ついに炎の中へと足を踏み入れた。

 視界は真っ赤なのに熱くない。

 不思議な感じだなと、そう思った瞬間に突然炎が晴れて青空が広がった。


 目の前には見慣れた村が広がっていた。

 何の問題もない。

 平和そのもの。

 後ろを見ても炎は存在せず、何も無かったかのような風景が広がっている。

 違う点は炎の向こう側にいるはずのクレイ達が居ない点。

 何処か別の場所に移動でもしたみたいだ。

 確信が持てたので戻ろうとしたところ、聞き覚えのある声がディラを引き留めた。


「おお!?ディラじゃないか!!」

「あ、おっちゃん。おひさー」


 農家のおっちゃんがヨタヨタと駆け足でやって来た。

 転ぶからゆっくりゆっくり。

 そうだ、と、ディラはついでに情報収集をすることにした。


「大丈夫だった?なんか外から見たら村が燃えていたけど」

「炎?ああ、マーリンガンが魔法の事か。ほら、あの柵だよ」


 農家のおっちゃんが指差す方を見ると、見知らぬ柵がつけられていた。

 ちょうど炎のある辺りだ。

 あのデザインは確かにマーリンガンっぽい。


「何でも今危険な野獣が近くを徘徊しているから近寄らないように結界を張っているんだとさ」

「へぇー、野獣ねぇ」


 教会関係者を野獣扱いですか、そうですか。


「今マーリンガンとマドカさん(おばあちゃん)を呼んでくるよ」

「わかった。俺も外に仲間を待たせてるからすぐに行って戻ってくるよ」


 そうして農家のおっちゃんは去っていった。

 一応【千里眼】を発動して一通り村を確認してみたが、特に何も以上は無さそうだった。

 くらりと眩暈。無理は厳禁だ。


 ひとまず確認して皆のところへと戻ると、緊張した空気が漂っていた。

 一発即発のような、ピリピリとした気配にディラが驚く。

 なんだ?どうしたんだ?


「えーと、みんなただいま。遅くなっちゃってごめ──」

「あれ?ディラじゃないかい?」

「!」


 隣から知っている声が聞こえてそちらへと視線を向けた。

 相変わらずの年齢詐欺の人物、マーガリンがいた。


「マーリンガン。あれ?なんで?トントさん呼びに行きましたよ?」


 何故か呼びに行ったはずのマーリンガンが外で俺の仲間と睨み合いになっているのか。


「ディラ、知り合いか?」


 と、クレイが訊ねてくる。

 盾を出して臨戦態勢で驚いた。しかもクレイだけじゃなく、みんな臨戦態勢だった。

 そんなクレイとのやり取りを見て、マーガリンがはて?と首を傾けた。


「おや?もしやお仲間かな?」

「そうです。良いご縁がありましてー」

「そうか。じゃあ悪かったね」


 マーガリンが杖を消すと、みんなもホッとしたように次々に武器を下ろした。


「いえ、大丈夫です」

「なに?なに?なにかあったの?」

「何でもないから」


 そう言われると逆に気になる。


「じゃあ、お詫びに美味しい茶菓子を振る舞おう。あ、すまないが、そこのエンジュウを入れることができないんだ。長く中に入れておくと演算式が崩れていくからね」


 エンジュウ、と、マーガリンはクロイノの事をそう言った。

 種族名なんだろうか?

 気にはなるが、それよりも先にやることがある。


「ねぇマーガリン。じゃあさ、どっか休めるところとかない?俺がお願いして連れてきて貰ったからさ。あと話したいこともあるし」

「そうなのか。じゃあ、造っておくから少しだけ待っててくれないかな。あと、ディラくん?僕もお話あるから待っててね」

「はーい」


 そう言ってマーリンガンが炎の中に消えた。

 作ると言ったが何を作るんだろう。


 珍しくアスティベラードが強張った顔で安堵の息を吐いた。

 アスティベラードが緊張しているなんて珍しいなと思っていると、クレイが盾を畳みつつ肩に腕を置いてきた。


「おい、なんだアイツ」

「なにが??」

「……おい、クレイ。多分こいつに訊ねても無駄だぞ。わかってない」

「え?」

「僕もドルチェットと同意見です」

「え??」


 視線を向けるとノクターンも小さく頷いていた。

 ええ??なに??

 置いてけぼり感凄いんだけど。

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