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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
30/50

炎上事件である『お帰りエクスカリバー』


 遠くから再び茂みを掻き分ける音がだんだんと近付いてきて、三人が飛び出すように現れた。


「起きたか!体はどうだ?」


 クレイとジルハ、そしてドルチェットだ。

 改めてみんなの顔を見てディラは心底安心した。


「もう大丈夫ー!」

「そうか、良かった。でも最後まで油断はできないからそこの薬飲んどけ」


 クレイが指差すのは俺の横におかれた水筒。

 中身は意識がグラグラな中何度も無理矢理飲まされた超苦い薬だ。

 人間嫌なことは嫌でも記憶に刻まれるようで、記憶が曖昧ながらもこいつの不味さだけははっきり覚えているだけに体の拒絶反応がすごかった。

 うええ、と無意識にディラの顔が歪む。


「これ……。飲まなきゃダメ…?」


 飲まなくて良いなら是非とも飲みたくない。

 そんな一抹の希望を胸にそう訊ねたのだが、クレイは容赦なかった。


「ダメだ。飲め」

「うえええ」


 クレイに出された水筒を手に、ディラは躊躇していた。

 飲みたくない。例えるならばこれは青汁とゴーヤーとピーマンを磨り潰したみたいな味で後味もドロリとしていて体が飲みたがらない。

 いつまでも水筒両手にウダウダしていると、クレイが助け船を出してきた。


「ノクターンが果実を持ってくるから、それ飲んだら褒美としてお前にその七割あげよう」

「いただきます」


 呼吸を止めて一気飲み。

 ゲロるゲロる堪えろ俺!!

 うっぷっ、と口許を押さえて必死に飲み込んだ。


「よしよし、よくやった」


 クレイに誉められたけど苦味に耐えているので嬉しくない。

 えずくディラと背中を擦るクレイの後ろでドルチェットとジルハがコソコソと薬の事について話している。


「あの薬、クレイが作っているときに摘まんだが恐ろしい味したぞ。やべーよな」

「僕も飲みたくないから毒に気を付けるよ。飲ませ方もヤバかったもん。プロだよね」


 口直しと水を飲みつつその会話を聞いていた。

 あの薬クレイが作ったんか。次があったら言わなくちゃ。せめてバナナかハチミツを入れろと。

 そもそもバナナあるんだろうかとの疑問はさておき、必死に口の中の苦味を消すことに集中したのだった。


 その後、ノクターンが持ってきた果実を本当に七割くれたのでありがたく貪った。甘い美味い。


 腹ごしらえもすんだところでクレイが切り出す。


「さて、ここからどうするか、だな。教会に目をつけられた以上、ひとつの町で長く居座るのは難しいだろう」

「もう、ほんと申し訳ない」

「うるせえ謝んなニンジン」

「で、だ。フリーランサーという手もある。あれをしているのは遺跡巡りの冒険者とかだが、別に規定とかはない。物資が手に入りにくくなるが、代わりに足を掴まれにくく、経験値を上げるのにはもってこいだ。なにせ、このカウンターは依頼でしかカウントしない訳じゃない」

「へー、そうなんだ」


 ディラは全くの初耳である。

 なら、聖戦でモンスターを倒したとしてもその分溜まるのか。

 それはそれは良いことを聞いた。

 きっと思ったよりも早くレベルが上がるかもしれない。


「じゃあ、いく先々で倒していってもいいんですね」


 ジルハの問いに頷くクレイ。


「そうだ。どうせレベルを上げなきゃいけないんだ。むしろそっちの方が効率的だろ?」

「同意見だ」

「ワタシもです…」


 アスティベラードとノクターンも同意した。

 どうせ上がるのならやりやすい方がいいに決まってる。

 それに、恐らくだけどあの街には戻れないだろう。

 何せ教会が関わっているとなれば、誰も彼もが教会の味方になってしまう。つまりはみんな俺の敵だ。

 怖い怖い。


「お前は?」


 最後に振られたが、ディラの答えはもちろん決まっていた。


「異議なーし」


 意義なんてあるわけない。命は大事にだ。

 みんなの意見が固まったところで、クレイがパン!と膝を叩く。


「しっ!じゃあ目的を決めないとな。いや、その前にっと」


 クレイが傍らに置いてあったガチガチに固められた箱を取り出した。

 一瞬なんだと思ったが、その箱から突き刺さる視線で思い出した。

 エクスカリバーが監禁されている箱だ。


「中にある弓を出してやらねえとな」と言いながら、クレイの手には針金やら謎の工具が握られる。

 もしや、噂の鍵開けをするのか。

 ごくりと生唾を飲み込み期待していると、ドルチェットがめんどくさげに言う。


「本当に出来るのか?そんな道具で。自分の剣で切った方が早くないか?」


 そんなドルチェットの意見にディラは大反対した。


「この大きさの箱をドルチェットの大剣で切られたら確実に俺のエクスカリバーまっぷたつになっちゃうからダメ」

「ディラと同意見だ。まぁ、待っとけ。すぐに解錠するから」


 そういうや、クレイは本当にすぐに鍵を開けていってしまった。

 やべえ、プロじゃんとディラのクレイに対する尊敬度が上がった。

 その手慣れた様子を見てジルハが言う。


「…あの時もこんな風に鍵を開けられたのでは?」


 あれとは、ディラの拘束もろもろである。

 その質問に対し、クレイはいいやと否定した。


「こいつに付けられていたのは特殊なもんだったから無理だ。それ、最後のひとつ」


 残った鍵もガチャンと音を立てて解錠された。

 箱を渡されたディラは、蓋を開けて数日ぶりの相棒と再開した。


「お久しぶり。エクスカリバー」


 エクスカリバーは何故か水に漬かっていた。しかも元の棒に戻って。

 この水はあの時言っていた聖水とやらか。見た感じはただの水だ。

 そんな状態のエクスカリバーだが、ディラは焦らない。

 これの戻し方は何となく分かっていたからだ。

 だが、この形状を知らない仲間達は焦りの声を上げた。


「…弓は何処だ?」

「まさか!取り違えた!!?」


 特にドルチェットが焦り始めた。

 なのでディラは落ち着かせるように肯定した。


「いや、これであってるよ。なんで元の形状に戻っているのか不思議だけど」

「いやいや、どうみても弓じゃないだろ?」


 クレイも慌てているが、何故かアスティベラードとノクターンだけが冷静だった。

 水の中に手を入れ、黄金に輝く棒を手に取る。そして水から引き上げるとすぐさま変化が現れた。

 水から出した箇所からごく自然に変化していき、見慣れた弓へと姿を変えていったのだ。

 形状記憶合金とか、こんな感じなんだろうか。


 唖然とする一同のなかで、アスティベラードが小さく『これが例の無銘の神具か…』と感動した様子だった。もしやシャールフ伝にありました?これ。


「これ、他のにも変えられるのか?」


 ドルチェットが興奮気味に訊ねてきた。

 ディラはうーんと首をかしげる。そういえば試したことはない。


「今んところ弓だけかな。あ、でも弓でも俺の知っているヤツに変えるのはできるっぽい。こんな風に」


 使い勝手の良いライトボウから攻撃力特化のクロスボウに変化させると『すげえ!すげえ!』と子供のように喜び、『私にも見せろ』とアスティベラードにアンコールをねだられた。

 そんな二人をよそに、「オレも欲しい」「分かる」と、静かに羨ましがるクレイとジルハ。


 わいのわいのと記憶にある弓に次々変化させている途中で、重要なことを思い出した。


「あのさ!先に村の様子見てきて良いかな?」


「村?」と聞き直すクレイ。


「あ、もしかしてなんかなってたらーって言ってたやつか?」

「そう。おばあちゃんが心配なんだよ」


 あとついでにマーリンガン。

 元凶であり共犯なわけなので、もし捕まっていたら大変なことになっているだろう。

 もちろん無事なのが一番なのだが、直に確認しないと心配でしかたがない。

 断られるかなと不安になっていたら、「いいぜ」とあっさり承諾してくれた。


「じゃあ、まずはそこにいこう。村の名前は?」


 ホッとしつつ、ディラは村の名前を言う。


「ナッツ村」

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