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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
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ゲームオーバーかな『仲間って大切ですね』

「うーわ、拷問だぁ」


 どのくらい時間が経ったのか分からないが、突然馬車が止まり、見張りが外に出たと思ったらパンを持ってきて目の前で美味しそうに食べ始めた。

 こっちも腹減っているのに酷くない?


「ねぇねぇ俺の分は?」

「罪人にあるわけないだろ」

「空腹で死ぬぞ」

「レベル高いやつは一月食べなくても死にやしねぇーよ」

「さすがに死ぬよ」


 水すら飲めないのはきついです。


 さすがに水分補給だけはさせて貰ったが、空腹のままにあえなく馬車は発車した。

 悲しい。


「ねぇ、俺これからなにされんの?」

「さぁー?尋問という名の拷問か、人体実験か、処刑ショーだな。ショーの主役はお前だぞ」

「やったー!なんて言うわけないだろ。どっちに転がってもバッドエンドじゃないか」

「諦めろ。どちらにしてもお前の存在は教会にとっては煩わしいんだ。……傀儡は1つだけで良い」


 クグツ?なんだそれ?


「お喋りは終わりだ。俺は寝る。邪魔したら…分かってるな?」

「へーい」

「ならよし」


 そしてイビキを掻き始めた。

 さーてと。


「…よっ…」


 こっそりと【縄脱け】【千里眼/見通し】【千里眼/見極め】【隠密】のスキルを複数発動。

 新しく増えた【縄脱け】と【隠密】スキル。

 これを空腹ながらにコソコソと練習して熟練度を上げている。


 熟練度は挑戦すればするだけ上がっていく。

 これをコツコツ一週間続ければ抜けられるんじゃないかなと予想している。

 先が長い。








 ──コンコン……

 ウトウトとしていると聞こえる筈のない外からの音が聞こえた気がした。


「?」


 見張りのオウドは相変わらずイビキをかいている。

 こいつではない。じゃあ、何だとディラは見回すと、信じられないものがあり得ない場所から現れた。


「……ケーイ、ケイ……」

「!!!!???」


 屋根からトクルの頭だけが通り抜けてきたのだ。

 トクルはぐるりと部屋を見回し、最後にディラを真っ直ぐに見る。

 まるで観察をされているかのように。

 こんなみっともない格好で恥ずかしいなと思考が明後日の方へ飛んでいると、トクルがノクターンの声で言葉を紡ぎだした。


「……『傾聴せよ…、木漏れ日…揺りかご…霧雨…鈴虫…、真綿の布にくるまれ運ぶ…鳥の雛…。夜のとばりが降りて…星の海に沈む…。リエイネ』…」


 グワワワンと頭を揺らすような強烈な睡魔が襲ってくる。

 これ、俺寝たらダメなやつじゃないの??

 そうは思うがディラは抵抗できずにそのまま寝た。








「おい、起きろディラ」


 ほっぺをペシペシ叩かれて目が覚めた。

 目を開けると目の前には居るはずの無いクレイがいた。

 なんでこんな所にクレイが?


「…おはようございます…。夢ですか?」

「アホなこといってないで、さっさと起きろ。ジルハ、鍵あったか?」


 クレイの後ろでオウドの服を剥いでいたジルハが鍵の束を見付けていた。


「ありました」

「よし。ったくなんだこの拘束。多すぎだろ…」


 鍵がクレイに渡され、何重にもされた拘束が外されていく。

 胸部を圧迫していた拘束も外されて、ディラは久しぶりにしっかり空気が吸い込んだ。


「はぁー、まさに自由って感じ」

「アホなこと言ってないで逃げるぞ。早く来い」

「歩けますか?」


 立ち上がろうと足に力を込めたが、全然立ち上がれなかった。

 まだ薬の影響が残っているのか、それとも空腹すぎて力入らんのか体がいうことを聞かない。


「ごめん無理」

「世話が焼けるな。ジルハ手伝え」

「了解です」


 二人に肩を貸して貰い外に出ると、辺りは結構暗かった。

 夜になっていたらしい。


「おのれええええええ!!!」


 突然の大声に肩が跳ねる。

 何事かと思って見てみたら、アスティベラードがキレていた。

 よくもあやつにあんな(むご)い事をしてくれたな!!となにか色々怒鳴っているが、残念ながらアスティベラードの周りには倒れた奴しかいないので聞いているのはおれと皆だけである。

 ……死んでないよな?


 こちらに気が付いたノクターンがやって来た。


「あの……大丈夫ですか…?」

「食べ物ないですか?空腹すぎて死にそうです。水でも良いです」


 開幕の第一声がこれだった。

 仕方なかろう。朝食べてから何も口にして無いのだ。


「これ飲んどけ」


 と、クレイに謎の瓶を口に突っ込まれた。

 食べ物だワーイ!とようやく口にした体は必死にそれを飲んだ。

 乳酸菌飲料的な味のそれは空腹の体に優しく染み込む。

 だが、量が足りない。

 もう一本欲しいがクレイはノクターンと話している最中だった。


「ノクターン、どのくらい魔法は持つか?」

「あと…、持って7分程度です…。でもアスティベラードが上乗せしているみたいなので…13分ほどでしょうか…?」

「撹乱させていれば逃げ切れるか。よし、行くぞ」


 このまま逃げるらしい。

 二人に引きずられるようにして一歩踏み出し、ハッとした。


「待って俺のエクスカリバー取り上げられた」

「は?えく?なに?」

「弓」


 クレイにマジかこいつみたいな顔されたけど、これだけは引けない。


「唯一の相棒をここに置いてなんかいけない」


 それに、大事な理由なもう一つ。


「それにさ、もし村がなんかなってたら形見的な感じになっているからどうしても取り戻したい」

「そんなこと言っても探している時間なんか殆どないぞ」

「場所は分かる」


 さっきから【千里眼/見極め】を発動しなくても視線が突き刺さっている。


「あそこにある」


 鋼鉄車の前方を走っていた豪華な馬車の後ろの部分。

 そこからずっと視線を感じていた。


「丁寧に開けている時間はないな。ドルチェット!」

「なんだ?」


 見張りをしていたドルチェットがやってきた。


「あの馬車の後ろの部分を破壊できるか?出来るだけ端の方を」


 ドルチェットがそこを確認してニヤリと笑った。


「はっ!任せろ!」


 大剣を抜き、思い切り馬車に振り下ろした。

 ちょっと待ってと止める暇さえなく、大剣は指定された箇所を綺麗に切断していた。


「わお」


 しかも切れすぎて車輪まで割れていた。

 切れ味ヤバすぎる。

 真っ二つになった箇所を見て、ディラは心配になっていた。


「俺のエクスカリバー大丈夫かな」

「ドルチェットは、一応腕は良い方ではありますけど、加減が苦手で」

「そんな感じはする」


 ジルハのフォローがフォローになってない件。

 ドルチェットが残った瓦礫を退かしてエクスカリバーを探す。


「お?変な箱があるぞ。これか?」


 ガチガチに拘束された箱をドルチェットがこちらに掲げてきた。

 しかもその箱も馬車に鎖に繋がれていて、ディラはその箱に妙な親近感を抱いた。


「どうだ?ちがうか?」


 視線はその中からしている。

 間違いない。エクスカリバーはその中にいる。


「それです」

「おーけー。よっと」


 馬車に繋がれてた鎖を大剣の切っ先で切断し抱えて持ってくる。


「ほらよ」


 受け取ったジルハが「うーわ、ガッチガチ…」とあり得ないほど鎖が巻き付けられた箱を見てドン引きしていた。

 間違いなくこれボルガがやっただろ。


「解いてる時間ないな。あとでやろう」

「ねぇ、ちょっと待って。ボルガとあの見張りに仕返しだけしたい。すぐ済むから」


 返事を待たずにディラはとあるスキルを発動させた。

 此処でも使えるか分からないが、試しに季節イベント参加記念スキル【ネタスキンスタンプ】。

 スキルという名のアイテムだが、この世界はスキルならば問題なく発動できるらしい。

 手に現れたマジックペン型銃。

 それをボルガと見張りの方向に向かって発射した。

 ペンから発射された光はボルガとオウドの額へと見事に命中した。


「なんですか?それ」


 珍しくジルハが興味津々で聞いてきた。


「正月イベントに配布されたやつなんだけど、ムカついたから額に肉ってスタンプ張り付けてやった」

「?? へぇ?」


 どんなに擦っても洗っても一週間は落ちないスタンプだ。皆に笑われちまえ。ざまーみろ。

 ニシシシと意地の悪い顔で笑ってやる。


「よし、今度こそ逃げるぞ。ノクターン、アスティベラードを呼んでこい」

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