ゲームオーバーかな『どんな噂ですか』
体が動かないけど意識はあるのが辛い。
荷物のように運ばれていくディラを、ギルド職員達がなんとも言えない顔で見送っていた。
そんなディラの後ろを黒いのが付いてくる。
歩いているのは職員専用通路らしく、味方はいない。
黒いのよ、俺に着いてくるよりもまず皆に知らせてくれないか?
ヘルプミーって。
さすがに心の中の声は聞こえないか。
「ボルガ様。これはどうされますか?」
ディラを運ぶスキンとはまた別のスキンがエクスカリバーを教会関係者の男、ボルガと呼んだ男に見せた。
ボルガは弓を見てなんとも嘆かわしいとわざとらしく悲しんだ。
「邪悪な武器に変えられているが、それも神具だ。樹液と混ぜた聖水に浸し、厳重に保管しろ」
「はい」
体の自由を奪われたディラは考えていた。
エクスカリバーも取り上げられちゃったし。どうしようかな。と。
スキル使うにもディラの所持しているスキルは戦闘特化タイプばかりのため、こういうときに使えるの無い。
せめて【解毒】スキルとかあればよかったのだが、あれは発動条件が厳しいから難しく、メリットがあまり無かったので取らなかったのだ。
でも取ってればよかったー。と、ディラは今になって後悔していた。
だが、後悔先立たずである。
せめて足が動けばやりようがあっただろうか、残念なことに感覚すら無い。
掴み上げられたタコの気分だ。
「全く、勇者の聖戦にも潜り込んだというし、奴の報告がなければ危うく見逃していただろう。それにしてもタグの不具合も恐らくこやつの仕業であろうし、勇者やその仲間に対しての暴言や暴行も報告されておる。これは罪が更に積み重なるな。ホホホホホ!」
今のところ正常に機能している聴覚でボルガの会話を聞いているのだが、ボルガは勝手な事ばかり言っている。
ボルガはディラに向かってニヤリとした。
「一応ガンウッドから要危険人物だと念を押されたからな。首都に着くまではガチガチに拘束させて貰うがね」
裏口の扉が開き、スキンの集団がギルドから出てきた。
いつもとは違う出来事に、野次馬がなんだなんだ?と集まる中、ディラはまるで手荒に扱っても良い荷物のように厳重な鋼鉄馬車に放り入れられた。
馬車といってもただの鉄の箱。椅子なんてない。
無様に転がるディラにボルガが隅の方に置いてある箱を持ってやって来る。
何だろうと見ていると、引くぐらいの数の拘束具が次々に取り出された。
なにこの人拘束マニアなの?
「さて、念には念を入れよ、だ」
薬で全く動けないのに手足を鉄の板や鎖で拘束され、更に絶対に暴れないように馬車の鎖にも繋がれた。
え?念には念をってのは分かるけど、ここまでする?
心配性過ぎない??
虎とかライオンみたいな猛獣とか思われてるの??
ドン引きしながらボルガを見ると、その後ろの部下も若干引いたような顔をしていた。
良かった。
そうだよね。さすがにこれはやりすぎだよね。
しかしボルガは本気だった。
「ガンウッドによればこいつは口から光線を吐いたらしいからな」
なんの話!?吐かないよ!!そんなスキル持ってないよ!!
そう突っ込みを入れたかったが、喋れない。
「レベル80近い奴だとこれでも破る奴もいるというし」
マジで!?俺87だけど出来なかったよ!!
と、突っ込みの途中で思い出した。知り合いに同レベルでいとも簡単に拘束スキルを解除する狂人がいた。最もその人はジョブがトリックスターだからこういうの専門なのだけど。
あらかた拘束をし終えたボルガの満足そうな顔むかつく。
「念には念をだ。視線で人を混乱させる事も踏まえて血もギリギリまで抜いておきたいが、いいよな」
やめろ。
ボルガがでかい注射器を取り出した。
嫌本気で止めて!注射器嫌いです!!!
「さすがにそれでは死にます。尋問する前に死なれても命令違反です」
「分かっとる。分かっとるがな、ほら、念には念をな」
「……」
こいつ血を抜きたいだけなんじゃないの??
ぶっすりと注射器を刺され、本気で血を抜かれた。
こいついつか仕返ししてやる。
貧血でクラクラする頭でディラは決意した。
「最後に馬車の方に結界を張り巡らす。オウド、絶対に取り逃がさないようにな。しっかり見張っとけ」
ボルガが出ていき、バタンと扉が閉められた。
中にいるのは二人だけ。
ディラと、見張り役のスキン、オウドだ。
最初のスキンの方。
オウドは職員の服を既に脱いでいて、教会関係者らしい服へと変わっていた。
胸元で輝くエンブレムが憎らしい。
外でガチャガチャ鍵を閉める音がして、外の音が一切聞こえなくなった。
結界の効果とかいうやつだろう。
ゴットンと大きく部屋が揺れて、馬車が進んでいく。
ゲームオーバーってか?
せっかく仲間もできたしこれから楽しもうって思ってたのに。
「はぁー……」
全く残念過ぎる。
せいぜい殺されないよう祈るばかりだ。絶望的だけど。
「へぇ、もうため息吐けるほど回復したのか。その毒は一日ひたすら呼吸に専念しないといけなくなるほどの強力な麻痺毒だが、さすがは規格外の化け物というわけか」
突然話し始めたぞ、この見張り。
「尤も俺は殺すつもりでその三倍入れたがな。生きてるなんて予想外だ」
お前さっき殺したら命令違反とか言ってたじゃんかよ。
ディラのそんな心の声など知らないオウドはよっこいせといきなり横になって、寛ぎ始めた。
マイペースかお前。見張りだろお前。
「はぁー、疲れたぜー。お前喋れるようになっても喚くなよ。どうせ外に音は漏れやしないんだ、無駄なことはするなよ」
サボタージュする気満々である。
「さて、寝るか。これだけが楽しみなんだよ…。…………グォォー…」
秒で寝た。しかもイビキまでかくほどの爆睡。
しばらくイビキをかくオウドを眺めていたが、何となく声出るかなと試してみることにした。
「………、……ぁ …あーー……」
ようやく音が出せるようになった。
だけどまだ喋れるほどではない。
すぐに視線を滑らせて黒いのを探した。
黒いのは見えない。
居る居ないのかも分からない。
此処が全体的に薄暗いせいなのか、それとも本当にいないのかの判断もつかないので、代わりに違うことを確認してみた。
「……!」
指先が動くようになっていた。
腕が動くようになるまでしばらく待ち、ためしに拘束が取れないかやってみたが、音がめっちゃ鳴ってしまい、見張りに煩い寝れないだろう!と警棒みたいなので凄い殴られたから諦めた。
別の案を考えよう。