表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
23/50

シャールフ『英雄伝らしいです』

 一旦店を出て、町外れの川沿いへと向かう。

 ならずモノのたまり場だが、そいつらはドルチェットの顔を見ると悲鳴をあげて逃げていった。

 なぜ?

 別の話になるが、今朝ドルチェットはこのならずモノにいちゃもんをつけられ殴りあいの喧嘩で勝利していたらしい。

 絶対にドルチェットと喧嘩はしないでおこう。


 人が居なくなった川原に座り、ノクターンが“エスノ(灯火)”の詠唱をすると、杖の先が光輝いて電灯代わりになった。


「……さて、ディラ」

「へ、へい!」

「本当に大丈夫なんだな?」

「……」


 みんな凝視している。

 一応自分で服の下に手を入れて確認した。

 分かってはいたことだけど、なんともない。


「だ、大丈夫。傷跡もなにもありません」

「本当だな!?」

「本当です!!」


 本当だから迫ってこないでアスティベラードさん!!

 お願いしますと懇願すると、疑いながらもみんなは何とか信じてくれた。


「で?」


 と、ドルチェット。


「ありゃあ一体なんだ??説明してくれるんだよな?」


 先ほどとは違う視線がまたディラへと集まった。

 さて困った。


「説明するもなにも、俺も何がなにやらって感じで」


 むしろこちらが説明して貰いたい感じだった。

 クリフォトもせめてルールブックくらい渡してくれても良いだろうに。

 そんなディラの返答に、ドルチェットは「はぁ?」と呆れる。


「なんだよ使えねーなお前」

「ドルチェット、言い方」

「だってそうじゃねーか」


 ジルハが諌めてくれるが効果はなさそうだ。


「いやー、はは、面目ねぇ。

 ……あ、でも途中でアスティベラードがシャールフがなんたらって…」


 ピン!とアスティベラードの頭に猫のミミの幻覚が見えた。

 ついでに言えば黒いのがアスティベラードの影から頭の上半分だけひょっこりと覗かせている。

 なんだこいつ可愛いな。


「…そういえば」

「ですね」


 と、クレイとジルハが同意した。


「はーあ??シャールフ?……え?まじで?」


 そしてドルチェットまで思い当たるものがあったのか納得した様子。

 待って俺だけ置いてけぼり。

 当事者だけ蚊帳の外は悲しいので状況説明を求めた。


「あのあのあの!!!すみません!!」

「うおびっくりした声でけーよ」


 突然の大声にクレイがびくりと肩を跳ねさせ、ノクターンに至っては軽く跳ねた。

 ごめんなさい。


「シャールフが前勇者ってのはノクターンに聞いてつい先ほど知りましたが、それ以外の情報が全く分かりません!誰か説明お願いします!」

「おいおいおい伝承も聞いたことないなんてどんな田舎に居たんだよ」

「ふ、善いではないか。知らぬなら、知れば良いだけの事。ノクターン」

「え…、あ…。はい…」


 いそいそと佇まいを正し始めるノクターンにみんなが何をしてるんだろうと見守る。

 それにアスティベラードが胸を張って教えてくれた。


「ふふふ、実はノクターンはな、元語り部なのだ。子守りの噺から英雄伝まで実に1000は物語を知っておろう!」

「すっごおー!」


 本当に凄い。

 凄い凄いと誉め囃してたらノクターンが珍しく顔を真っ赤にして照れていた

 さては誉め慣れてないな。


「アスティベラード…それはさすがに言い過ぎです…。

 こほん。では…、語らせて頂きます…」


 サクランボ色の唇が言葉を紡ぐ。

 ノクターンが静かに語り始めたのはシャールフという一人の男の話だった。







 昔々の大昔。

 ここにいる誰もが産まれる前のお話。


 世界の中心にある世界樹セフィロトに、六つのリンゴが実りました。

 キラキラ光るそのリンゴは、世界を渡す鍵なのです。

 世界が“かえる”その時に実る聖なるリンゴです。


 セフィロトの民はこれをもぎ取り、リンゴを鳥に変えて飛ばしました。


 リンゴが選んだ国はジャパル。

 砂漠の中のオアシスに作られた黄金の国でした。


 リンゴが選んだ国で勇者が喚ばれます。


 喚ばれたのは一人の青年でした。

 (クロガネ)の髪に黄金の瞳。

 弓に選ばれた彼を人々はシャールフ(鳥の女神に愛された者)と呼びました。


 シャールフは鷹のように遥か先まで見通し、放った矢は岩も砕き、遂には島喰らいと呼ばれる砂漠の主を弓矢一つで真っ二つ。


 勇者、シャールフは聖戦へと赴いて、数多くの人々助けます。

 瞬きの間に終わる聖戦は世界を懸けたものでした。


 勇者が負ければ土地が死ぬ。

 そうはさせぬとシャールフは、神具を集め、仲間を得た。


 一つ二つと涙を飲み。

 三つ四つとで力を得。

 五つ六つとで人を越え。

 七つ八つとで技を極め。

 九つ十で世界を巻き込み。

 最後の聖戦に至った彼ら、もはや人ではありません。


 神の代行者と誰かが言った。まさしくそうだと頷いた。


 そんな彼らと渡り合う敵も弱くはありません。

 勇敢な勇者、シャールフは、己の命の矢を作りあげ、敵に向かって放ちます。


 矢が真っ赤に燃え上がり、大きな火の鳥となりました。

 火の鳥は真っ直ぐ飛んでいき敵の胴を貫きました。


 敵の影さえも燃やし尽くし、世界の危機は消えました。


 ああ、ついにシャールフがやったと人々は喜びましたが、シャールフの姿がありません。

 そうです。シャールフは火の鳥となって敵を貫いたのです。


 勇敢な勇者、火の鳥となったシャールフ。

 彼の魂は鳥となって空を翔ているのでしょう。








「……これにて…、御仕舞い……」


 脳裏に浮かんだシャールフと名乗った男を思い出した。

 生気がない理由が分かった気がした。

 あの人はもう死んでいたのか。


 アスティベラードを見ると、目をつぶって物語の余韻を味わっていた。

 他のみんなも、ああ、これこれ。という感じで聞いている。


 というか、というかよ。

 なんでよりにもよって俺なんかをシャールフと同列にするの??

 さすがにハードル高すぎない??


「ちなみにこれ、実話?」


 実際会ったけれど訊ねてみた。


「実話と言われている。何せシャールフが敵の女神を燃やし尽くしたといわれる跡があるからな。大きな谷が未だに燃えておるのだ。メラメラと」

「あー、自分それ知ってるぜ。シャールフの谷だろ?元々は深淵覗きの谷って言われていたところ」

「今は像が建ってるよね」


 シャールフの。と、ジルハが付け足す。

 ふーん、とディラが納得していると、クレイが「それよりも」と、話題を変えた。


「今回の出来事、あの女が言っていた聖戦とやらが本物の可能性はありはするんだろうさ。だけどな、オレが不信感あるのは、お前が勇者ではないのに参加していたっていう点だ」


 クレイがディラを指差す。


「本当に接点無いのかぁ??」


 クレイの目にハッキリと『隠し事してんだろ?吐けやオラ』と書いてある。

 他にも視線を感じてチラ見してみると、みんなの視線がこちらを向いていた。


 えー、でもこれ関係あるの?友達ってだけだぞ?

 それか一緒に召喚された件とか──


 突然視界が黒くなった。


「うおっ!!??」


 いつの間にか目の前にアスティベラードと黒いのが俺を覗き込んでいる。

 あまりの美貌にドキドキするが、後ろの黒いのも一緒に覗き込んできているので恐怖でのドキドキもあって心臓が痛い。


「貴様、隠し事をしているのはバレバレだ。全て顔に出ておる。吐け、今すぐ」

「………」


 こわいこわいこわいこわい。

 冷や汗めっちゃ出てくる。


「それとも後ろのこやつに無理やり吐かされたいのか?」


 後ろで黒いのの尻尾がユラユラ動いて指示を待っていた。

 それを見ているドルチェットが一言。


「殺すなよ?」

「殺さぬわ。ちょっと痛いだけだ」


 と、尻尾の先がディラを向く。

 あ、むり。


「実は勇者と一緒に召喚されました。そして勝手に勇者の武器引っこ抜きました」


 潔くゲロった。


「なんですぐバレる嘘をつく!!」


 分かってはいたが、クレイに怒られた。

 なので、すかさずディラは言い返した。


「だってメインストーリーに関わる気なんて全く無かったんだもん!」


 まさかこんな形で関わるとは夢にも思っていなかった。

 海で悠々と泳いでいたら、突然釣り上げられた魚の気分だよ!

 そう言えばクレイ達は困惑していた。


「メインストーリー??」

「……あの、いわゆる勇者との旅ですかね」


 今さら来いと言われても無理だけど。

 しかも既に功太の仲間に嫌われているし。

 きっと合流目前で総攻撃されて死ぬ。


 そんな事を考えて一人ガクブルしていると、クレイが盛大な溜め息を吐き、ドルチェットは何故か爆笑、ジルハからは同情の視線を向けられ、ノクターンからはなんとも言えない困り顔の愛想笑い。

 アスティベラードは何か考えているらしいけど、シャールフ関連のとばっちりが来ないといいな。


「……なるほどな。わかったわかった。はいみんな注目!!」


 クレイが手を叩いて注目を集める。


「えー、ではこれより皆の意見を聞こうと思う。恐らくこいつ関連でこれより先めんどくさい事や危険な事が起こるだろう。オレはこいつを誘った責任があるから、まぁ乗り掛かった船?って感じで付いていこうと思うが、降りたい奴は降りていい」


 いや、こいつやれやれって顔しているが内心面白そうとか思っているだろう。

 腹を押さえてヒーヒー言っていたドルチェットが涙を拭う。


「こんな面白い事おりるわけないだろう!!なぁ?ジルハ?」

「はいはい。どーせこうなるだろうと思ってたよ」


 ドルチェットとジルハが参加表明。

 そしてそのままドルチェットは残り二人へと問い掛けた。


「アスティベラード達は?」

「は?」


 何を言っておるんだ貴様、と、幻聴が聞こえるような顔を向けられた。


「参加するに決まっておろう。何当たり前なことを言っておるのだ」

「……………言うと思ってました…」


 なんかごめんねノクターン、と、ディラはノクターンに軽く頭を下げた。


「でもいいの?旅は道連れとか言うけどさぁ…」

「くどい」

「はいすみません」


 いいやもう。

 アスティベラードの目が凄いキラキラしてるし。

 なんでこうなっているのか聞くのが怖いから聞かない。

 聞かぬが仏。


「じゃあ、肝心のパーティー本設定は明日だな。朝、あの噴水に集合だ。遅れるなよ?解散!!」


 クレイの号令により、また改めて明日集合することにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ