聖戦開始『ディラ、死亡しました』
ディラが先手必勝と【攻撃力増大】を発動。
「おらぁ!!」
まずは牽制の意味を込めてギュレアハの顔面へと撃つ。
まっすぐとんだ矢は、顔面を覆う翼に阻まれて弾かれた。
矢先は潰れ、ポッキリと折れたのを見て、ディラは呆れた。
予想よりも装甲が厚い。
「うーわー、固いなあれ…。鉄みたいな音がしたぞ」
それとも馬鹿みたいに防御力があるのか、それとも噂の無敵シールドとかでも張ってたりするのか。
「おい!横から来てるぞ!!」
「横?」
ドルチェットの警告に横を向くと、木の根っこに似た蔦が物凄い勢いで迫ってきていた。
「うわっ!」
津波のような蔦が大量に襲い掛かってくるのを見て、ディラは必死に回避した。
四方八方から襲い掛かってくるそれを避けながら、功太のスキルを待つ。
なんとかそれまで時間を稼ぎたい。
功太が使おうとしているのは特殊なスキルだ。
時間が掛かるが、完成してしまえばこちらが有利になる。
「ま、ちょっ!数多い!!」
「だりゃああああ!!!」
ズバンとドルチェットの大剣が大量の蔦をぶつ切りにした。
「ドルチェット!?」
「この蔦相手なら自分だって手伝える!!ただの木偶の坊だと思ったら大間違いだからな!!」
言いながら更に襲ってきた蔦を次々にその大検でぶつ切りにしていく。
ドルチェットが参戦したことにより、ディラの負担が軽減された。
「そうですよ!」
上空から来たハルピーの群れをジルハの短剣が穿つ。
「僕もこれくらいなら出来ますから!」
「おうとも!」
着地したジルハに飛び掛かってきたタワレアルをクレイが盾で殴り飛ばした。
「お前が強いのは分かってる!援護くらいは任せろ!」
「──母成る大地よ 天よ 始まりの火よ 我等に立ち上がる勇気と力を、聖なる戦斧でもって、我等に害為す敵を討ち滅ぼさん…
[ユネ・シークム・ゴロディーヌ]」
ノクターンの詠唱。
体が熱を持ち、力が溢れてくる。
「見よ、この美しき暁よ。燃え盛る汝は全てを癒し、全てを許し、全てをかえす揺りかご。微笑みを見せておくれ、この指先まで愛して…
[ラーニャ・クウセ・マーイー]」
疲れがぶっ飛びやる気が出てきた。
なんだこれは【加護付属】的なやつか??
ギュレアハがゲラゲラと汚い笑い声を上げながら腹を大きく開き、いっそう多くのハルピーを放出した。
「いっ…!?」
さすがに多すぎない??と空が多い尽くされるほどのハルピーを眺めた。
先ほど倒した数の二倍はある。
倒せなくは無いけれど、無傷ではいかないだろうなと冷や汗を流しながらスキルを展開しようとした時。
「 散れ 」
黒い帯が空を撫でた。
たったそれだけでハルピーの群れは半壊し、なんとか出来る数までには減った。
カツンと、アスティベラードの靴が瓦礫を踏み締める。
空を見上げるアスティベラードの後ろには黒いのが同じく空を見上げ、尻尾を蛇のようにうねらせていた。
「上の奴らは任せよ。飛べば有利になると思い上がる無能らに教え込んでくれるわ」
「アスティベラード…! 助かる!」
再びスキル多用して猛攻を仕掛け、すり抜けた奴らをジルハとクレイに任せた。
ディラは振り返り、背後の功太へと問い掛けた。
発動完了までの時間がやけに長い。一体どのくらいの範囲指定をしているのか。
「功太!!あとどれくらい??」
「あと十秒で広範囲攻撃のチャージが溜まる!!」
後十秒か。
「りょーっかい!!!」
功太の方へと向かう蔦をドルチェットが切り刻み、別方向から伸ばそうとした蔦を矢で貫いて地面に縫い付けた。
そして、待ちに待った功太のスキルが完成した。
「出来た!!朝陽スイッチ!!」
「オーケー!!みんな早く下がって!!」
みんなが言う通りに下がると、剣を手に駆けてきた功太とすれ違う。
剣が青白く発光。
ビリビリと魔力らしきものの圧が溢れ出している。
ぐっと踏み込んだ功太が【身体能力向上】【筋力増加】【大跳躍】スキルによって大きく跳躍した。
剣を肩に担ぎ、狙いを定めて剣を振る。
「あああああああああーッッ!!!!」
功太の剣から発せられる光が、振るのに合わせて伸び、攻撃有効範囲が確定。
巨大なギュレアハに斜めの線が入る。
一瞬の間を置いて、そこが連鎖的に大爆発を起こした。
功太の最強にして広範囲スキル【蒼き湖の女神】だ。
攻撃範囲指定した箇所のエネミー反応の内部から青色の爆発を起こすというとんでもない大技だ。
悲鳴をあげるギュレアハ。
頭を左右へ激しく振り、そのダメージの大きさがうかがえる。
だけど、まだ倒れそうにない。
「ん?」
功太の攻撃による爆発の余波わ受けて顔の羽が破損したらしく、顔が隙間から見える。
目の位置に目はなく、額に水色の大きな光を放つ宝石が見えた。
すると千里眼が勝手に発動して宝石をマーキング。
視界には見慣れたターゲットマーカーが宝石を示した。
もしかしてあれが弱点か??
「朝陽!!」
「!」
攻撃後、着地した功太が腰を低くしてとあるモーションを取っていた。
それは剣によるスキル【人間ロケット】を開始するモーションだ。
【人間ロケット】とは武器を使って相手を高く打ち上げるのに特化したスキル。
それを功太が取っているということは、俺が止めを刺せ、と言っているようなもの。
「よっしゃ!」
すぐさま功太の方へと駆け、タイミングを合わせて振り初めた功太の剣へと飛び乗った。
次の瞬間、ディラは高く打ち上げられていた。
目の前にはギュレアハの顔。ここからだと額の宝石が良く見える。
矢をつがえ、切れ掛けている【攻撃力増大】を再発動して狙いを定めた。
「俺達の勝ちだ!」
撃ち抜いた宝石が真っ二つに割れた。
黒板を引っ掻いたような不快な悲鳴を上げて、ギュレアハの体がひび割れて崩れ始める。
地面へと着地したディラが見上げると、ギュレアハの残骸は熔けて煙のようになって消えていった。
「終わった?」
空を見回してもハルピーもタワレアルもいない。
千里眼を使っても反応がない。
本当に終わったようだ。
パチパチと拍手の音が聞こえる。
『おめでとうございます。ちゃんと勝ちましたね?
でも初戦は勝って貰わなきゃ困るんですけれど』
まるで空間から浮き上がるようにクリフォトが現れた。
思わず警戒すると、クリフォトはめんどくさそうに言った。
『そんなに警戒しなくても良いですよ、もうこれで終わりなので…。
ふむ…』
クリフォトはディラ達とは関係のない明後日の方向を見た。
『……残りは様子見…ってところかしら?まぁ、良いわ』
他にも誰か居るのか?
千里眼を発動して確認でもしてみようか。
『あなたの力も見れたことだし、参加を認めましょう』
「!」
スキルを発動しようとして意識が薄くなったせいか。
いつの間にかクリフォトがすぐ近くに居た。
驚きのあまり固まってしまった。
『では、資格を与えるわ。光栄に思いなさい』
笑顔のクリフォトが言いながら、ディラの肩に手を置いた。
肩に手を置かれた瞬間、胸から刃物が突き出した。
「……え?」
意味が分からなかった。
なんで胸から刃物が突き出して来たんだ?
ごぷっと、喉奥から暖かい液体が溢れ、口から零れた。
誰かの叫び声が耳に響くが、確認する間もなく意識が暗転した。