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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
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ようこそ異世界へ『ごろつきに拉致られました』

 ごみを捨てるかのごとく、乱暴に地面に投げ捨てられた。


「いったぁ!」

「ったく!さっさとどっか行け」


 唾でも吐き掛けん感じで朝陽を見下ろしていた兵士が踵を返して扉の中に戻っていこうとする。


 さすがにカチンと来た朝陽はすぐ近くにあった小石を拾って兵士に投げ付けた。

 当てる気はなかったが、近くにぶつかって肩でも跳ねさせてやれればいくらか溜飲が下がるつもりで投げたのだが、小石は綺麗に弧を描いて兵士の頭にヒットした。


「あ」と朝陽は小さく声を漏らし、次いで「やべ」と心の中で焦り始めた瞬間、兵士が凄い勢いで振り返り、槍を手に向かってきたので慌てて逃げた。

 なんだよ、おあいこじゃん!という朝陽の言葉に兵士達は耳を一切貸さず、一時間近く追いかけ回されたのだった。





□□□




 小汚ない路地裏で青年がくしゃみをした。

 無我夢中で逃げ回っていたら路地裏に迷い込んでしまっていた朝陽である。

 幸いにももう兵士は巻いたので安心だけど、違う問題はまだ継続していた。

 ここ何処問題。


「うー…さっむっ…」


 夏にしては変に肌寒く、両腕を擦りながら大通りを目指して歩く。

 改めて辺りを観察してみて分かったことがある。

 ここは朝陽が住んでいた街ではない全く知らない土地ということ。下手したら外国。


 そう思った理由のまず一つが街並み。

 レンガ作りのゴシック建築は現代日本にはそうそうあるものではないし、何かのテーマパークとしてもテーマパーク特有のBGMなんかは一切流れてない。


 その二、人種がおかしい。

 髪の毛色が多種多様で、どこぞのコミケにでもいかなければ見られない色も数多くある。


 その三、文字が変。

 日本語ではない、かといって英語とも違う文字が羅列している。

 読めないわけではないが、なんで読めるのかも分からなくてだんだん怖くなってきた。


「もー、なんなんだよ。夢か?ドッキリか?どっちでもいいから終わってくれよ」

「おい」


 突然背後から呼び止められて思わず肩を跳ねさせた。

 もしや見つかったのか。

 慌てて逃げようとしたらすぐ近くに声の主か、それとも仲間にか、あっという間に服を掴まれて捕獲されてしまう。


「いきなり逃げるとは失礼な奴だな」


 そろりと様子を伺うと、柄の悪そうな男が三人。

 バタバタと暴れてもびくともしない、自分の非力さを恨む。


「何処の者だ。うちのシマでは見ねえ顔だな」

「他所者か?」


 囲まれてしまって朝陽は震え上がった。

 現在財布すらなく身一つの朝陽を揺すったところでポケットに入ったゴミしか出ない。

 その内の一人が「あ」と何かに気がついたような声を出す。


「こいつだよ!教会の兵士に石投げつけたガキ」

「え、マジか。本当にそんなことする奴いるんだな」

「なら俺らと同類だな。どーせ兵士に石投げたらまともな生活なんて出来んだろ」


 ひょいと持ち上げられてその筋力にビビる。


「んじゃ、仲間に加えるか」

「そうしようぜ」

「へ…?え!?ちょっ、ちょっとまって!」


 逃げれないことは承知で、でも意見を聞いてほしくてバタバタしたら「なんだよ」と朝陽に視線を向けてくれた。


「友達がその教会とやらに残されているんだって!迎えにいかないと!」

「……おい、もしかしてそれって」

「ああ……」


 憐れみの目を向けてくるゴロツキ達が肩に手を置いて首を横に振る。


「残念だが、その友達は諦めろ」

「は?」

「ああ、目を付けられたか気に入られたんだよ。唾付けられたってことは俺らのような底辺じゃあどうにもならん」

「どうせ行ったところで、石投げたお前は妨害罪だか侮辱罪だかですぐに引っ捕らえられて処刑だよ」

「どんな世界設定だよ、ヤバイだろ」


 倫理的に。


「その友達にゃ悪いが、忘れた方が身のためだ」

「おう、そうだそうだ。酒でも飲んで忘れちまえ!」

「だな!がっはっはっはっ!」


「ええー……」と困惑している朝陽を無視し、ゴロツキ達は朝陽を俵担ぎでアジトとやらへ連れて行ったのだった。







 ドアが勢い良く開かれて俵担ぎ状態の朝陽とゴロツキ達が部屋へと入って来た。


「おーい!新入りだ!今回のは兵士に石投げつけた勇者だ!」


 その言葉で部屋の中にいた連中がどよめく。


「おいおい!そりゃ確かに勇者だ!久しぶりに骨のある奴じゃねーか!」

「歓迎するぜ!名前はなんだ!?」

「思ったよりもひょろいな。よく捕まらなかったな」


 よりにもよって朝陽はゴロツキの溜まり場のど真ん中へと下ろされてしまい、必然的に四方八方を強面達に囲まれてしまう形となった。

 怖い、チビりそうなんですけれども。と震えながら、それでも聞かれたからには答えなくてはと、震える声で自己紹介した。


「ぉ…小野寺朝陽…です…」

「オノディ…あ?言いにくいな」

「ディラでよくね?」

「だな!こいつディラだとよ!」

「よろしくな!ディラ!!」

「いや違「よーし!祝杯だ!!」「おーーう!!!」もうディラでいいです…」


 どうせあだ名みたいなものだろうと、朝陽は早々に全てを諦めた。


 やいのやいのと時間が経つ毎に人が増えてドンチャン騒ぎになっていく。


 その最中、朝陽を拉致って来た内の一人が木のジョッキを持ってやって来た。

 ジョッキには並々とお酒らしきものが注がれ、「そーら飲め飲めー!!」と強引に進めてくる。

 これが噂のアルハラというやつか。


「未成年!!俺未成年!!」

「はぁ?ディラお前15歳以下か?」

「いえ、17です」


 アルコールは二十歳から。そんな言葉はこの世界には存在しなかったらしい。


「飲めんじゃないか!!飲めやオラ!!」


 朝陽の隣の違うゴロツキが持ってた酒瓶を突然朝陽の口に突っ込んだ。

 初めてのアルコールが容赦なく胃の中に注ぎ込まれてあっという間に酔いが回った。

 今、とてつもなく気持ち悪い。


「うぶっ」


 喉奥に突っ込まれた事と、慣れないアルコール大量摂取で思わずえずくと、男が慌てて酒瓶を口から引っこ抜いた。


「おいおいこんなところで吐くな!」

「バケツ持ってこい!」


 今さら慌てふためいたところでもう遅い。

 朝陽は容赦なく胃に溜まったお酒を勢い良くリバースした。


「オロロロロロ」

「うわぁやりやがった…」

「下戸だなコイツ」

「バッカ、混ぜ物なんか飲ますからだ。大丈夫か?」


 誰かが背中を擦ってくれているがいるが、気持ち悪すぎて顔が確認できない。


「もっと考えて渡せ」

「スンマセン」

「ほら、立てるか?」


 誰かの質問に、朝陽は自力で立てない。むりむり。と手を振ってアピールした。

 実際頭がぐるぐるしているし、何より世界自体が大回転していた。

 そうしたら誰かが、しょうがないと、またしても軽々と朝陽を担ぎ上げた。

 スッゲー力持ちと朝陽は酔いの回った頭で担いだ誰かを称賛した。


「コイツ連れてくから、お前らは片付けておけ」

「へーい…」


 手足ブラブラ、頭がぐるぐる。そんな感じで何処かに連れていかれ、朝陽の目の前に木のコップが差し出された。

 これは酒?水?

 いつまでも手に取らない朝陽に目の前の誰かが察して教えてくれた。


「水だ。飲みな」

「たすかりましゅ…」


 朝陽は救いの水だと震える手でコップを持ち、無我夢中で飲み干した。

 水がめっちゃ美味く感じたのは生まれて始めてだった。


「今日ははもう寝ろ。明日から仕事を教えてやる」


 水を飲み終え、またしても担がれて何処かの部屋に連れていかれると、朝陽は吸い込まれるように寝床らしき場所に潜り込み眠りについたのだった。

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