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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
17/50

始まりの鐘の音『異常事態発生です』

「あの…、アスティベラードが失礼しました…」


 藤色の髪のノクターンが俺に頭を下げた。

 アスティベラードよりも黒い肌がまだ震えている。


「あのー、シャールフって、誰すか?」

「ワタシ達の国に伝わる…素晴らしい英雄の名前です…。シャールフ・アルチェ…。砂漠の主を矢一つで二つに裂いたと言われる…、前勇者です…」


 なんでまだそんな凄い方と俺を結び付けたんだか。

 というか。


「前勇者?」

「…? あまり伝承はお読みになりませんか…?」

「いやぁ、無いですねぇ」


 ここに来て一月ちょいくらいしか経ってないもので。


「アスティベラードは…、その…事情は明かせないのですが…結構複雑で可哀想な人なのです…。どうか…、嫌わないで貰えませんか…?

 後ろの子も含めて…。……」


 最後に、見えているんですよね…?と付け加えられた。

 あ、やっぱりこの人も見えているんだ。


「あれなんなんすか?」

「ワタシもよく分かっていないのですが…、呪いの様なものです…。でも、アスティベラードが命令しない限りあの子は動きません…。とても怖いですが…」

「ものすごく同意」


 でも。


「最後なんか猫っぽいと思ったら可愛く見えてきたし。嫌いにはならないですよ」


 多分ね。多分。

 しかしその答えが良かったらしい。

 ほんの少しだけノクターンの嬉しそうな顔が見れた。


「ありがとうございます…」


 ノクターンと一緒に居酒屋に戻ると、アスティベラードを見るとフルーツを黙々と食していた。

 ちなみにもう不機嫌顔に戻っている。

 だが、ディラを見ると若干表情が柔らかくなった。笑みを堪えるような、変な表情。


 それに気付いたクレイがアスティベラードを見て驚愕していた。

 気持ちは分かる。


 そんなアスティベラードの変化に気付くことなくドルチェットが肉に満足し、芋に手を伸ばしながら話している途中、突然鐘の音のような物が聞こえてきた。


「で?どうすんだ?明日以降もこのパーティーで活ど──」


 その瞬間、全ての音が消えた。






「え?」


 突然画面が切り替わるように景色が森になった


「森!!?」


 突然の事態に混乱していると、すぐ近くで悲鳴が上がった

 何事だろうかとびびりつつも体は勝手に動き、弓を片手に悲鳴の上がった方向へと向かう


「おい!ディラ!何処にいく!」


 茂みを掻き分けると人が羽の生えたハエのような醜悪な生き物に襲われていた。

 ギャギャギャとセミよりもけたたましい鳴き声を上げながら人に噛み付こうとしているところを、ディラが雄叫びを上げながら弓で横からぶん殴った。

 ソイツは勢いよく飛び、茂みの向こう側へと消えた


「なんでこんなところに蝿小鬼タワレアルが!?」


 思わずディラは叫んだ。

 何故なら先程の生き物がブリオンに出てくるタワレアルそのものだったからだ。

 こいつの生態は厄介極まりない。弱いくせに数がアホみたいに多くて変に消耗するのだ。


「うわ…、やっぱり…」


 危惧していると、タワレアルが四方八方から沸いてきた。

 こいつは人を食べる。故に素手でやりあうのは危険だった。


「どうしよう…」


 なんでよりによって矢筒を置いてきてしまったのか。

 手に持っている弓で殴るのだって限界がある。

 ゲームならスキルの弓矢生成で作れるのにと、後悔していると、突然空いた手の中に掴み慣れた物体が発生した。


 ──スキル【弓矢生成】発動。


 手の中で矢ができていた。

 それもかなりの数。

 え、まじで??

 一旦その矢を地面にさして保管。

 何がなんだかわからないが、出てきた矢を次々につがえ、見える範囲でのタワレアルを全て落とした。


 追撃はない。

 様子見をしているかもしれない。


「あのー、大丈夫ですか?」


 足元で震えている人に声をかけると、肩を跳ねさせながらもこちらを見た。

 心底怯えている。

 仕方ない。あいつキモいし。


「……ぁ…ありがとぅ……ございます……」

「うん。とりあえず近くのトワレアル全部落としたから逃げるなら今のうちだよ」

「わっ、わかりました!ありがとうございます…!」


 足をもつれさせながらも逃げていくのを見送ってから、ディラは近くのタワレアルへと近付いた。

 地面に落ちたタワレアルは、ジュワジュワと煙を上げて蒸発していた。

 死骸は残らないようだ。


 ガサガサと音がして反射的に弓を構え、すぐに下ろした。

 クレイ達だった。

 来てたのか。いや、来てたな。

 声掛けられたのを思い出した。


「なぁ、なんだこれ…?」


 困惑しているクレイに訊ねられたけど、訳がわからないのはこちらも同じだった。

 ディラは肩をすくめる。 


「さぁ?わからないよ。…わからないけど」


 ゲームならば何かしらのイベントとして説明がつく。

 だけどここはゲームではない。現実だ。


「人が襲われていて、自分は武器を持っているから戦わないと、とは思う」

「同意だ!戦えるものが戦わないでどうするんだ!」


 ドルチェットが同感し、なぁそうだろ?と同意を求めた。

 それにジルハはしょうがないと溜め息を吐く。


「ドルチェットがやるなら僕もやりますよ」

「……ならオレもやらないわけにはいかないな」


 クレイも参加。


「お前らはどうすんだ?」


 ドルチェットがアスティベラードとノクターンに訊ねると、ノクターンは不安げに視線をさ迷わせ、隣にいるアスティベラードを見た。


「無論、私も参加する。無力な者共を見捨てるほど、落ちてはおらん」

「……あ…、その…アスティベラードがやるなら……ワタシも……」

「きついなら隠れてて良いから」


 一応フォローのつもりで言ったのだが、大丈夫ですと言われてしまった。

 余計なお世話だったのかも。


「よし!」


 頬を叩いて気合いを入れる。


「やるぞ!人助け!」

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