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この弓はエクスカリバーである!  作者: 古嶺こいし
第一章・アツィルト
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討伐クエスト『どう見てもレベル1』

「生き残ったドクガオオカミは皆逃げたようですね…、気配探知の魔法を使いましたが…、山の方角へと移動していきました…」


 と、ノクターンが言う。

 気配察知の魔法なんかもあるんだ。


「これで依頼達成だな!こんなに早く終わるとは思ってなかった。しかもボスも倒したし、これは報酬が弾むぞ」


 クレイのその言葉にドルチェットが表情を明るくした。


「じゃあ今日は宴会か?自分肉食いてえ!」

「君はそろそろ野菜を食べる行為を覚えるべきだと思うけどね」

「ジャガイモは食ってんだろ!?」

「葉野菜のこといってるんだよ!」


 ドルチェットとジルハの小競り合いをクレイが止める。


「あー、はいはい喧嘩をするな。

 じゃあ、そろそろ帰りますか。ディラ、矢の回収は済んだのか?」

「あ、そうだね」


 矢だってただじゃない。

 壊れてないなら回収しようとしたのだが、ものの見事に三本全てが壊れていた。

 ドクガオオカミのボスから引き抜き手に取った矢の残骸を見詰める。


「粉々になってるからいいや」


 むしろ炭に等しい。

 ここまで壊れていたら勿体無いとか思わない。

 そのまま捨ててきた。

 他のドクガオオカミから回収しよう。


 そんなディラの矢を見たクレイは呆れた顔をした。


「どんな威力だよ。頼むから人には向けるなよ」


 クレイに人に射つ奴だと思われているのか。


「人には弓で殴るから大丈夫」

「それもやめろ」

「ええー」





 その後、特になんの問題もなく町に戻ってきてギルドへとやってきた。

 対応は勿論クレイで、手持ち無沙汰な人達は近場でそれぞれ暇を持て余した。


「依頼完了報告に来ました」

「証拠の提出をお願いします」


 事務的に処理していく受付の人。

 相変わらず手際がいい。

 その途中で、クレイが「そうだ」と受付に声をかける。


「ついでに皆のレベル更新できますか?」

「かしこまりました。それでは各自登録証とカウンターの提出をお願いします」

「みんな集合ー!」


 クレイに呼ばれて集まる。

 集まったみんなに一つ咳払いをしたクレイが説明を始めた。


「今回はレベル1依頼でも難易度の高い物を選んだから更新できるはずだ。特にディラは相当上がるはずだからこれで更に上の依頼も受けられるだろう」

「これ、上がらなかったら笑うよね」

「そんなわけないだろう」


 という冗談を交わしつつ、受付さんの指示に従って提出した。


「お待たせいたしました。こちらが更新済のものになります」


 登録証とカウンターを受け取り、全員が確認。


「おー、レベル2になった」


 とクレイが初めに言う。


「自分は3だ!」

「斬りまくってたもんね。僕は2か」


 次にドルチェットとジルハ。


「うーん…、状態維持ですか…。しかたないですね…。アスティベラードは……、あ、2ですか…」


 最後にノクターン。そしてアスティベラード。

 皆上がっている中、一人だけ報告をしないディラを不思議がってクレイが声をかける。


「ディラは?4くらいには上がっただろ?」

「…………」


 レベル1。

 何回見てもレベル1。

 みんなに無言で見せたレベル1の表記。

 無言のままその表記を見詰め、次いでディラを見たみんなの頭に揃ってハテナマークが浮かぶ。


「皆無言なの悲しいからなんか喋って!」


 ガツンと乱暴な音を立てて何故かアスティベラードが動いた。


「…何故こやつが上がらぬのだ。おかしいのではないか?」


 そう言いながらアスティベラードがズイズイ受付に詰め寄り始める。圧に押されて怯える受付さん。

 ちょっとアスティベラードさん??さっきからなんか様子がおかしくないですか!?


「あ、あの、アスティベラード?一旦落ち着き「うるさいどう見てもおかしいではないか。こやつが群れのボスを殺ったのだぞ?」


 クレイが視線でディラに助けを求めた。

 何でか知らないがアスティベラードはディラのために怒っているのは分かった

 だけどここは一旦後ろの黒いのを収めて欲しい。


「あのーアスティベラードさん?何か事情があるはずです!聞きましょう!」

「む…、貴様が言うなら…」


 あっさり引き下がったアスティベラードにクレイとノクターンがホッと息を吐いた。

 ディラも安心した。

 アスティベラードの後ろの黒いのも引っ込んだからだ。

 ホッと息を吐きながら訊ねる。


「えと、これはどう言うことなんですかね?」

「それがですね…、私たちも初めての事なんですが…」


 首を傾ける職員。


「ディラさんの、レベルが上がるカウンターの数値設定が恐ろしいほど高いのです。こんなの初めてで、正直困惑しています」

「え、なにそれ」

「一晩お借りしても良いですか?少し確認致しますので」

「ああはい。どうぞ 」


 もしかしたら故障している可能性もあるということで、一晩カウンターをお預かりされることになった。






 町の居酒屋にて。


「俺だけレベル1かぁ…」

「クヨクヨするなよディラ!故障している可能性もあるっていってたじゃないか!もしかしたらレベル上がりすぎてバグっているかもしれないだろ?」


 な?とクレイが励ましてくれる。

 良い奴だな。


「よし!明日に期待だ!」

「そうこなくちゃな」


 とはいえギルドに依頼完了報告と証拠を提出したらたくさん報酬を貰ったんだ

 やはりボス討伐が効いたらしい。

 ここは一旦忘れて楽しむ事にしよう。


「では、気を取り直して…、かんぱーい!!!」


 ガチャンとなみなみに注がれたジョッキがぶつかった。

 豪快にあおれば、冷たく甘い果実水が体に染み渡っていく。

 いいねこれ。テスト終わった後に功太とバーガークイーンでの打ち上げを思い出した。


「いやー、それにしても予想以上に動きやすくてビックリしたぜ」

「ですね」

「オレの目は間違ってなかったな!」

「きゃー!クレイさんさすがー!」

「ディラ、さすがに甲高い声はちょっと…」

「あ、そう?」


 運ばれてくる料理を頬張りながら下らない話で盛り上がる。

 一仕事した後のご飯は美味しいとはよく聞くけど、こんなに美味しいとは思わなかった。

 モグモグ夢中になって食べている最中、ふと視線に気が付いて顔を上げる

 何故かアスティベラードがディラをじっと見ていた。


「……」


 何かしたっけ?

 なにもしてないはずだけど、と、思わず冷や汗を流していると、アスティベラードが「ちょっとよいか?貴様に聞きたいことがある」と言ってきた。


「……はい」


 え、マジでなに??

 ちらりとノクターンへと視線を送ってみたら、ふいと気まずげに逸らされた。傷付いた。


「早く来い」

「……へい」


 なんだろ怖いなとビクビクしながらアスティベラードに着いていくと、お店の裏側に連れていかれた。

 リンチでもされるんだろうか、後ろの黒いのにもずっと見られている気がする

 足を止めたアスティベラードがくるりと振り向くと、


「貴様…よもや、後ろのが見えるのか?」


 と、言われた。


「!」


 バレてる!!いや、気になってちょいちょい見てたから仕方ないか。というか、また黒いのいるし。


 これ、どっちが正解だ?

 見えた方がいいのか?それとも見えないっていった方がいいのか?


「早く答えろ。見えているのか、いないのか」


 ずいずい詰め寄ってくるアスティベラードにディラは頭をフル回転させて考えた。

 一か八か、正直に言うか。

 見えていると言えば消される可能性もあるが、もしかしていい方に転がるかもしれないと僅かな希望を信じて、ディラは正直に言うことにした。


「…見えてます」

「!!」


 すると、なんということでしょう。

 見えていると答えた瞬間、アスティベラードの顔が見たこともないほどに嬉しそうな顔になった。


「そうか!そうか!見えておるのか!!」


 どうしたって言うくらいの素晴らしい笑顔。

 今日一日の不機嫌顔が嘘だったのかと思えるほどの。


 褐色の肌に墨色の髪、恐ろしい程整った顔から生まれる笑顔は素晴らしいものだ。それが自分に向けられているものだと思えばこれ以上ない喜びだろう。

 まだこの人怖いんだけどね。


「………みえてます。こっちめっちゃ見てますよね」


 だけど、小さい虫を観察する猫のごとくアスティベラードの後ろから覗き込んでいる黒いのが気になって正直それどころではない。


「どうだ?こやつを見てどう思う?」

「どうって…」

「可愛かろう!」


 黒いのを見る。

 …かわ…いい??


 アスティベラードの期待に満ちた目。

 黒いのに視線を移す。


 頑張れ俺。こういうときはまず見方を変えるんだ。

 ディラは困惑しながら黒いのを見た

 心なしか黒いのからも期待の眼差しを向けられている気がする

 シルエットで判断。シルエットで判断。シルエットで判断。シルエットで判断!!!!


「猫っぽいですよね…。羽のついた…」

「!!!」


 アスティベラードの周りにキラキラの幻覚が見え始めた。

 正解か?


「~~っ!! さすがはシャールフに似た男!! のう、本当の名前はシャールフとかではないのか??」

「違います違います」


 ディラも違うけどシャールフはもっと違う。

 というかシャールフ誰。


「アスティベラード…さすがに無いです…」


 ぬるんと突然ノクターンが現れてディラは思わず悲鳴を上げ掛けた。

 ノクターンさんいつからそこに?


「いつからそこにいた」

「…わりと、初めから…」


 影が薄すぎて気が付かなかったのか、それともそういう魔法を使ったのかは知らないけれど。


「……」


 その事にアスティベラードはムスーと不機嫌になり、地面を蹴り始めた。

 拗ねてんのかな。


「そんなのわかっておるわ…。ただ、ちょっと期待しただけだ。

 …はぁ、つまらん。私は戻る」


 そう言うやアスティベラードが居酒屋へと戻っていく。その間、黒いのが俺を見ながらアスティベラードに付いていくのが、本当にちょっとだけ可愛いと思ってしまった。


 その時、アスティベラードの肩に乗っていたトクルが俺に向かって来た。

 目の前で「ケイケイ!!」と威嚇され、アスティベラードへと飛んでいく。


 一体なんなのか。

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